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29 海上生活二日目、早朝
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船上生活二日目の早朝、水平線から太陽が顔を出し始めたばかりの時間帯に、私は船乗りたち全員を甲板へ呼び出した。
「これから、皆さんに今回の航海の秘策をご覧いただきます。どうか慌てず、落ち着いたままでいてください」
起きたばかりの者や、夜通し舵取りをしていた者が大半であるため、私の話をまともに聞けているのはエルドワードとハセークくらいだった。だがまあ、彼らさえ冷静さを保ってくれていれば、他の者の混乱を納められるだろう。
私はアリシアに目配せし、ドラゴンを呼び出してもらう。
アリシアは、上空へ向けて両手を組んで祈りを捧げ始める。祈ることで遥か遠方を飛ぶドラゴンにも気持ちが伝わるのだとアリシアは言っていたが、私は単に、ドラゴンが超常的な視力でもってアリシアが祈りのポーズをとったことを確認して近づいてきているだけなのではないかと想像している。
「これから皆さんが目撃する光景は、夢でも幻でもなく、現実です。しかし、恐れる必要はありません。恐ろしいのは外見だけで、中身は優しい平和主義者ですから。皆さんに危害を加えることはないですし、
アリシアが祈りを捧げている間、私は船員たちの注目をアリシアから逸らすべく、それっぽい話を続ける。
船乗りたちを信用していないわけではないが、アリシアの安全を第一に考えた場合、ドラゴンを呼び出しているのは私だという風に見えたほうが良いと考え、アリシアと相談の上、このような形でドラゴンを呼び出すこととなった。
雲一つない空に小さな点が現れたのを確認した私は、両掌を上に向け、私に向いていた船乗りたちの視線を空へと誘導する。
「それではご覧ください。ドラゴンです」
雲一つない空に浮かぶ小さな黒点が、だんだんとその面積を増していく。
「ほう、ドラゴンか」
最初に声を上げたのはハセークだった。その口ぶりから察するに、ドラゴンを見るのは初めてではないのだろう。
それからすぐ、船乗りたちが小声で隣の者と空を交互に見て、
「あの人、ドラゴンって言ったのか?」
「ドラゴンってなんだ?」
「ドラゴンってあれだろ、空飛ぶトカゲだろ」
「それって酔っ払った詩人が喋ってた法螺話じゃないのか」
ドラゴンの輪郭が明確なっていくにつれて、船乗りたちの声は大きくなっていく。
「おい、アレなんだ?」
「鳥じゃねえのか?」
「鳥にしちゃ大きすぎるんじゃねえか?」
「アレがドラゴンなのか」
「だから、ドラゴンってなんなんだ?」
「あの詩人、法螺吹きじゃなかったのか」
だが、ドラゴンが更に船へ近づき、その体躯の巨大さを目で、両翼の羽ばたきによる風を肌で感じるようになると、船乗りたちは押し黙った。恐慌状態に陥った船乗りたちが、船内から銃を持ち出してドラゴンを攻撃しようとする可能性もあるかと思っていたけれど、どうやら杞憂のようだ。
「レキムさん、あいつぁ一体何なんですか?」
エルドワードが小さく私に尋ねる。その声はわずかに震えていた。
「ドラゴンですよ。私が言っていた秘策というのは彼のことです。彼に、この船をイースティアまで運んでもらえば、海を進むよりもずっと早く進めます」
「運んでもらうっつうことは、この船をあのバケモンが掴んで飛ぶってことですかい?」
ドラゴンがバケモンと呼ばれたのを聞き、アリシアがムッとする。
「そうです」
「いや、どこをどう持って運ぶってんです」
「ヤードを掴んでもらいます。なので、マストをたたんでください」
「そりゃ無理ですぜ。ヤードにこの船の全重量を支えられるほどの強度はねぇ。あいつが協力者だってんなら、あのでかい羽で船に追い風を送ってもらうってのが現実的なんじゃないですかい」
目前の圧倒的存在に畏怖しながらも、ザリアードは船長としての責務を全うすべく、努めて冷静に私の秘策に対する懸念を訴えてきた。
科学的に考えれば、彼の言い分は正しい。だが、彼は冷静であろうとするあまり、重要な事実を考慮し損ねている。
ドラゴンという超常的な事象に、人類の常識は通用しないということを。
「これから、皆さんに今回の航海の秘策をご覧いただきます。どうか慌てず、落ち着いたままでいてください」
起きたばかりの者や、夜通し舵取りをしていた者が大半であるため、私の話をまともに聞けているのはエルドワードとハセークくらいだった。だがまあ、彼らさえ冷静さを保ってくれていれば、他の者の混乱を納められるだろう。
私はアリシアに目配せし、ドラゴンを呼び出してもらう。
アリシアは、上空へ向けて両手を組んで祈りを捧げ始める。祈ることで遥か遠方を飛ぶドラゴンにも気持ちが伝わるのだとアリシアは言っていたが、私は単に、ドラゴンが超常的な視力でもってアリシアが祈りのポーズをとったことを確認して近づいてきているだけなのではないかと想像している。
「これから皆さんが目撃する光景は、夢でも幻でもなく、現実です。しかし、恐れる必要はありません。恐ろしいのは外見だけで、中身は優しい平和主義者ですから。皆さんに危害を加えることはないですし、
アリシアが祈りを捧げている間、私は船員たちの注目をアリシアから逸らすべく、それっぽい話を続ける。
船乗りたちを信用していないわけではないが、アリシアの安全を第一に考えた場合、ドラゴンを呼び出しているのは私だという風に見えたほうが良いと考え、アリシアと相談の上、このような形でドラゴンを呼び出すこととなった。
雲一つない空に小さな点が現れたのを確認した私は、両掌を上に向け、私に向いていた船乗りたちの視線を空へと誘導する。
「それではご覧ください。ドラゴンです」
雲一つない空に浮かぶ小さな黒点が、だんだんとその面積を増していく。
「ほう、ドラゴンか」
最初に声を上げたのはハセークだった。その口ぶりから察するに、ドラゴンを見るのは初めてではないのだろう。
それからすぐ、船乗りたちが小声で隣の者と空を交互に見て、
「あの人、ドラゴンって言ったのか?」
「ドラゴンってなんだ?」
「ドラゴンってあれだろ、空飛ぶトカゲだろ」
「それって酔っ払った詩人が喋ってた法螺話じゃないのか」
ドラゴンの輪郭が明確なっていくにつれて、船乗りたちの声は大きくなっていく。
「おい、アレなんだ?」
「鳥じゃねえのか?」
「鳥にしちゃ大きすぎるんじゃねえか?」
「アレがドラゴンなのか」
「だから、ドラゴンってなんなんだ?」
「あの詩人、法螺吹きじゃなかったのか」
だが、ドラゴンが更に船へ近づき、その体躯の巨大さを目で、両翼の羽ばたきによる風を肌で感じるようになると、船乗りたちは押し黙った。恐慌状態に陥った船乗りたちが、船内から銃を持ち出してドラゴンを攻撃しようとする可能性もあるかと思っていたけれど、どうやら杞憂のようだ。
「レキムさん、あいつぁ一体何なんですか?」
エルドワードが小さく私に尋ねる。その声はわずかに震えていた。
「ドラゴンですよ。私が言っていた秘策というのは彼のことです。彼に、この船をイースティアまで運んでもらえば、海を進むよりもずっと早く進めます」
「運んでもらうっつうことは、この船をあのバケモンが掴んで飛ぶってことですかい?」
ドラゴンがバケモンと呼ばれたのを聞き、アリシアがムッとする。
「そうです」
「いや、どこをどう持って運ぶってんです」
「ヤードを掴んでもらいます。なので、マストをたたんでください」
「そりゃ無理ですぜ。ヤードにこの船の全重量を支えられるほどの強度はねぇ。あいつが協力者だってんなら、あのでかい羽で船に追い風を送ってもらうってのが現実的なんじゃないですかい」
目前の圧倒的存在に畏怖しながらも、ザリアードは船長としての責務を全うすべく、努めて冷静に私の秘策に対する懸念を訴えてきた。
科学的に考えれば、彼の言い分は正しい。だが、彼は冷静であろうとするあまり、重要な事実を考慮し損ねている。
ドラゴンという超常的な事象に、人類の常識は通用しないということを。
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