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26 船出前の宴
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ハセークに協力してもらったおかげで、商品の確認はスムーズに終わった。これほど大量の仕入れだったのに、商品は過不足なく揃っており、予定通り明日の朝には出港できそうだった。流石は海運都市ウインスターズの商人といったところか。
私は船内に搬入された積み荷をロープで固定する作業に取り掛かる。少ない本数のロープで効率的に積み荷を固定するには技術と知識がいるが、そのあたりは昔、エルドワードに習った。
すべての積み荷を船内に固定し終えてから船外へ出ると、水平線に太陽が沈もうとしてるところだった。橙色に染まる空が、少しずつ夜に侵されいく。昼間の暑さなど無かったかのように涼し気な風が、汗ばんだ肌を撫でた。
予定通りに荷入れが完了したので、出港前最後の食事を取りに行く。そこらの店に三十人強の人間が突然押しかけたら迷惑なので、あらかじめ予約しておいた店に向かう。
「予約したヨルムです」
「お待ちしておりました。食事の準備は整っております」
私を先頭に店に入ると、満面の笑みを浮かべた給仕が私たちを案内する。
案内された先にある部屋にあるテーブルには、大量の食事と酒が並んでいた。美しい焼き色のパンが目を惹き、焼かれた鶏肉から漂う香辛料の香りが鼻孔をくすぐる。
全員の手に酒が行き渡ると、視線が私に集まった。宴の開会を告げろ、と。
「皆さん、荷入れお疲れさまでした。明日の出港に向けて、今夜は存分に英気を養ってください。それでは、乾杯!」
宴会が始まった。
酒で理性が溶けてしまう前に、私はエルドワードのところへ向かい、ハセークのことを紹介する。船上ではエルドワードが一番偉いため、彼に乗船許可を得なければ、誰かを乗船させることはできない。
「エルドワードさん、こちら、私の友人のハセークです。彼には船医として乗船してもらおうと思っています」
私がそう言うと、ハセークはエルドワードの前に出て、被っていたフードを取る。木の皮のような皺が刻まれた顔が、強面なエルドワードと対峙した。
「ご紹介に与りました、ハセークと申します。見ての通り、ここら辺じゃ珍しい種族ですが、人より少しだけ長く生きている分、色々と智慧が回ります。少なくとも、一人分の食事を余分に船内へ積み込むだけの価値は提供できるかと」
「おう、ヨルムさんの紹介ってんなら乗船してもらうのは構わねぇ。船医の厄介にはならないに越したことはねぇが、その時があったらよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
エルドワードはハセークの隣に立ち、思い思いに飲み食いをしながら騒ぐ船乗りたちに対し、凄まじい音圧で告げる。
「聴けぇお前ら! 今回の航海を共にする仲間が一人増えた。名はハセーク。医者先生だそうだ。船旅の最中、調子が悪くなったらこいつを頼るといい」
先ほどまで騒がしかった会場が一瞬で静まり返り、視線がハセークに集まる。こういうところを見ると、船乗りたちがエルドワードに尊敬と畏怖の念を抱いているのだとわかる。
エルドワードがハセークに小さく「挨拶しな」と言うと、ハセークは一歩前に出て、船乗りたちの視線を真っ向から受け止めた。
「ハセークです。今回は船医として、皆さんの船に乗せていただきます。怪我をしたり、気分が悪くなったりした際は、遠慮なく相談してください。ただ、私は仕事嫌いなので、できる限り皆さんには元気でいてくださると嬉しいです」
大きくはないのに不思議とよく響く声でハセークがそう言うと、船乗りたちの間から歓迎の声が上がった。
宴の再会である。
私は船内に搬入された積み荷をロープで固定する作業に取り掛かる。少ない本数のロープで効率的に積み荷を固定するには技術と知識がいるが、そのあたりは昔、エルドワードに習った。
すべての積み荷を船内に固定し終えてから船外へ出ると、水平線に太陽が沈もうとしてるところだった。橙色に染まる空が、少しずつ夜に侵されいく。昼間の暑さなど無かったかのように涼し気な風が、汗ばんだ肌を撫でた。
予定通りに荷入れが完了したので、出港前最後の食事を取りに行く。そこらの店に三十人強の人間が突然押しかけたら迷惑なので、あらかじめ予約しておいた店に向かう。
「予約したヨルムです」
「お待ちしておりました。食事の準備は整っております」
私を先頭に店に入ると、満面の笑みを浮かべた給仕が私たちを案内する。
案内された先にある部屋にあるテーブルには、大量の食事と酒が並んでいた。美しい焼き色のパンが目を惹き、焼かれた鶏肉から漂う香辛料の香りが鼻孔をくすぐる。
全員の手に酒が行き渡ると、視線が私に集まった。宴の開会を告げろ、と。
「皆さん、荷入れお疲れさまでした。明日の出港に向けて、今夜は存分に英気を養ってください。それでは、乾杯!」
宴会が始まった。
酒で理性が溶けてしまう前に、私はエルドワードのところへ向かい、ハセークのことを紹介する。船上ではエルドワードが一番偉いため、彼に乗船許可を得なければ、誰かを乗船させることはできない。
「エルドワードさん、こちら、私の友人のハセークです。彼には船医として乗船してもらおうと思っています」
私がそう言うと、ハセークはエルドワードの前に出て、被っていたフードを取る。木の皮のような皺が刻まれた顔が、強面なエルドワードと対峙した。
「ご紹介に与りました、ハセークと申します。見ての通り、ここら辺じゃ珍しい種族ですが、人より少しだけ長く生きている分、色々と智慧が回ります。少なくとも、一人分の食事を余分に船内へ積み込むだけの価値は提供できるかと」
「おう、ヨルムさんの紹介ってんなら乗船してもらうのは構わねぇ。船医の厄介にはならないに越したことはねぇが、その時があったらよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
エルドワードはハセークの隣に立ち、思い思いに飲み食いをしながら騒ぐ船乗りたちに対し、凄まじい音圧で告げる。
「聴けぇお前ら! 今回の航海を共にする仲間が一人増えた。名はハセーク。医者先生だそうだ。船旅の最中、調子が悪くなったらこいつを頼るといい」
先ほどまで騒がしかった会場が一瞬で静まり返り、視線がハセークに集まる。こういうところを見ると、船乗りたちがエルドワードに尊敬と畏怖の念を抱いているのだとわかる。
エルドワードがハセークに小さく「挨拶しな」と言うと、ハセークは一歩前に出て、船乗りたちの視線を真っ向から受け止めた。
「ハセークです。今回は船医として、皆さんの船に乗せていただきます。怪我をしたり、気分が悪くなったりした際は、遠慮なく相談してください。ただ、私は仕事嫌いなので、できる限り皆さんには元気でいてくださると嬉しいです」
大きくはないのに不思議とよく響く声でハセークがそう言うと、船乗りたちの間から歓迎の声が上がった。
宴の再会である。
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