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17 自棄酒
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「どぉ~しよ~。アリシア完全に怒ってるよ~」
宿屋の部屋でラム酒のボトルを片手に自棄酒を決め込んでいた私に、ザリアードは慈愛の眼差しを向けて、
「毎日のように一緒だったんですから、お互いに不満の一つでも溜まるのは当然です。むしろ、突然去ってしまうのではなく、面と向かって不満を口にしてくれたのですから、改善の余地は充分にありますよ」
と、私を慰めてくれた。年長者の余裕を感じる。
「そうは言っても、何をどうすればいいのかわかんないです」
商人は、損得勘定が支配する世界で生きている。その世界では、正解は利益によって、間違いは損失によって明確に示され、与えられた制約の中で利益をどれだけ上げられるかが全てだ。それに対し、人間関係は複雑怪奇。利益のようなわかりやすい指標もなければ、自分の言動の何が正解で何が間違いかを相手から伝えられることもない。
そのため、これまで商売を介した人間関係しか構築してこなかった私にとって、アリシアとの関係修復にどんな言動が必要なのか、まったく想像ができないでいた。
「まあ、基本的には時間が解決してくれるのを待つしかないでしょう。女心と秋の空という言葉もあるくらい、女性の心は変わりやすいものです。それに、今日の夜だって一緒に夕食を食べたじゃないですか。本当に怒っているのなら、顔を合わせるのも嫌なはずですよ」
「そんなものなんですかねぇ~」
確かに、カフェからの帰り道で別れた後、宿屋の一階で夕食を食べる際にアリシアと再会することはできた。
だが、アリシアは露骨になりすぎない程度に私のことを避けていたし、それを見ていたヴァヴィリアには「アリシアに何をした」という怪訝な目で睨みつけられた。
「どちらにせよ、そんなに酔っ払っていては出る案も出ないでしょう。自棄酒してしまっている時点で、今日のところは現実逃避を選んだわけですから、諦めて早く寝ることです」
ザリアードの助言を聞いても、私は酩酊した頭で悔恨し続けることをやめられなかった。
確かに私は、アリシアを対等なビジネスパートナーだとは思っていなかった。私からすれば、彼女はドラゴンという強力な切り札を持っていることを除けばただの少女であり、護られるべき存在として接するのが当然だと思っていた。そういう前提を持って接することで、彼女がどんな気分になるかなど、考えたこともなかった。
ここで、ふと気づいた。
私は、アリシアを傷つけてしまったことに動揺しているのではない。啓蒙思想に感化され、平等主義者として生きていこうと決意した日に捨てたはずの差別的な考え方が、未だに自分の中でありありと生き続けていることに、こんなにも動揺しているのだ。
その気づきは妙に私の腑に落ちた。
宿屋の部屋でラム酒のボトルを片手に自棄酒を決め込んでいた私に、ザリアードは慈愛の眼差しを向けて、
「毎日のように一緒だったんですから、お互いに不満の一つでも溜まるのは当然です。むしろ、突然去ってしまうのではなく、面と向かって不満を口にしてくれたのですから、改善の余地は充分にありますよ」
と、私を慰めてくれた。年長者の余裕を感じる。
「そうは言っても、何をどうすればいいのかわかんないです」
商人は、損得勘定が支配する世界で生きている。その世界では、正解は利益によって、間違いは損失によって明確に示され、与えられた制約の中で利益をどれだけ上げられるかが全てだ。それに対し、人間関係は複雑怪奇。利益のようなわかりやすい指標もなければ、自分の言動の何が正解で何が間違いかを相手から伝えられることもない。
そのため、これまで商売を介した人間関係しか構築してこなかった私にとって、アリシアとの関係修復にどんな言動が必要なのか、まったく想像ができないでいた。
「まあ、基本的には時間が解決してくれるのを待つしかないでしょう。女心と秋の空という言葉もあるくらい、女性の心は変わりやすいものです。それに、今日の夜だって一緒に夕食を食べたじゃないですか。本当に怒っているのなら、顔を合わせるのも嫌なはずですよ」
「そんなものなんですかねぇ~」
確かに、カフェからの帰り道で別れた後、宿屋の一階で夕食を食べる際にアリシアと再会することはできた。
だが、アリシアは露骨になりすぎない程度に私のことを避けていたし、それを見ていたヴァヴィリアには「アリシアに何をした」という怪訝な目で睨みつけられた。
「どちらにせよ、そんなに酔っ払っていては出る案も出ないでしょう。自棄酒してしまっている時点で、今日のところは現実逃避を選んだわけですから、諦めて早く寝ることです」
ザリアードの助言を聞いても、私は酩酊した頭で悔恨し続けることをやめられなかった。
確かに私は、アリシアを対等なビジネスパートナーだとは思っていなかった。私からすれば、彼女はドラゴンという強力な切り札を持っていることを除けばただの少女であり、護られるべき存在として接するのが当然だと思っていた。そういう前提を持って接することで、彼女がどんな気分になるかなど、考えたこともなかった。
ここで、ふと気づいた。
私は、アリシアを傷つけてしまったことに動揺しているのではない。啓蒙思想に感化され、平等主義者として生きていこうと決意した日に捨てたはずの差別的な考え方が、未だに自分の中でありありと生き続けていることに、こんなにも動揺しているのだ。
その気づきは妙に私の腑に落ちた。
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