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10 沿岸都市ウインスターズ②

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 疲れ果てて泥のように眠っても、朝日が昇ると自然に目が覚めた。
 無駄に長く寝られないのは、商人の性なのだろう。

「おはようございます。酔いは残ってなさそうですね」

 私がベッドから起き上がる際に生じたわずかな音で、隣のベッドで寝ていたザリアードを起こしてしまったらしい。
 物音に敏感なのは、護衛としての性なのだろうか。

「おはよう。今日はどうする予定?」

「知り合いがやっている工房にいこうと思っています。武具のメンテナンスを頼みつつ、昼間から酒盛りをしようかなと」

「そりゃあいい」

 この都市の主要な輸出品の一つは、銃に代表される武器である。そのため、ここにはドワーフ族の工房が多い。伝統的に高い鍛冶技術を有し、生まれながらにして優秀な鍛冶職人の素質を持つドワーフ族は、近年では精巧な武器を作製する職人種族として有名になっている。

「ヨルムさんは、どうする予定で?」

「特に決めてないけど、久々に仕事のことを忘れてのんびりしようと思ってるよ」

 今日中にやりたいことを脳内で列挙していると、部屋のドアがノックされた。

「ヨルム、いる?」

 アリシアの声だった。

「いるよ」

「一緒に朝市に行かない? これといって買いたいものがあるわけじゃないけど、色々と見て回りたいの」

「わかった。着替えるから少し待ってて」

 ザリアードがニヤケ顔で私を見て「旦那も隅に置けませんねぇ」と小声で呟いた。
 色ボケおやじと化したザリアードを「そんなんじゃないから」とあしらいながら、節度ある急ぎ方で普段着に着替え、申し訳程度に髪を手で整えてからドアを開ける。

「お待たせ」

 ドアの前に立っていた彼女は、鮮やかな赤を基調としたワンピースを纏っていた。

「綺麗なワンピースだね」

「そうでしょ。休日くらいはオシャレしないとって、ヴァヴィリアがくれたの」

 移動の利便性や安全の観点から、アリシアの普段着は機能性のみを追求したデザインとなっているので忘れがちだが、着飾った姿を見ると、彼女が年頃の女性であることを意識してしまう。いや、別にいつも彼女を女性扱いしていないわけではないし、綺麗な人であることは前々から知っていたのだが……誰に何を言い訳をしているんだ。

「じゃ、行きましょう。エスコートよろしくね」

 そう言ったアリシアの浮かべる純真無垢な笑みを見て、私は自分の頭の中に浮かんできた猥雑な気持ちを一瞬で捨て去った。

「仰せのままに」

 私は極めて紳士的な態度で彼女の手を取り、朝市へと向かった。

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