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8 長蛇の列②

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「ところで、最近フラローシュ王国で民衆が大規模な暴動を起こしたみたいなんだが、あんた何か知ってるかい?」

 デロトロは耳聡く、フラローシュ王国で暴動が起こったという情報を仕入れていた。
 私がフラローシュ王国の宮殿で取引をしたのが一か月ほど前なので、あの後すぐに暴動が起こったのだろう。

「へぇ、興味深い話だね。その話、どこで聞いたの?」

 自分の情報を開示する気はないが、彼がどこでその情報を仕入れたのかには興味があった。

「他の商人から聞いたんだが、そいつも又聞きらしいから、あんまり信憑性はないんだよな。ただ、あの国からはよく武器が売り払われているだろ。そうして売られた武器の多くはこの都市の貿易商のところに集まるから、知り合いの貿易商の組合に顔を出して、最近フラローシュから武器が来てるかどうかを訊けば、ある程度の予測はできると思ってる」

 なるほど。マメに交流関係を構築することで複数の情報源を参照し、情報の確度を上げているのか。最低限の情報リテラシーは持ち合わせているらしい。なんだかんだ、ただのお人好しでは商人として生き残っていけないということか。

「なんにせよ、しばらくフラローシュ近辺には近づかないほうがよさそうだね。私も以前、あの国の貴族と取引した際に耳にしたんだが、あそこの王室、最近財政難らしいから」

 面白い話を聞かせてもらったお返しとして、こちらの持っている情報を明かしておく。
 それから取るに足らない雑談を少々した後、デロトロは行列にいる別の商人に声をかけられた。

「あんたもヒト亜族の女を侍らせる程度で満足すんなよ。これからは商人の時代なんだからな」

 去り際、荷馬車の御者台で私の隣に座るアリシアを見て、彼はそう言い残した。
 その言葉に悪意はなかった。ただ、私への純粋な善意からくる軽口だった。彼はヒト族が持つ一般的な価値観に則って、同じヒト族の私に対して激励の言葉を送ったのだ。
 きっと彼は、ヒト亜族を見下しているという意識すらない。犬の立場が人間より低いことに違和感を覚えないように、ヒト族以外の立場がヒト族より低いのは当然だというのが、今の社会の常識なのだから。

「嫌な言葉を聞かせてしまったね。すまない」

 それまで沈黙を守っていたアリシアは、私のほうに視線を向け、

「気にしないで。もう慣れたから」

 と言って、穏やかな微笑みを浮かべた。
 その言葉に対し、私は「この状況に慣れちゃいけないんだ」と言ってあげたかった。でも、そんな無責任なことを言えるほど、私は愚かにはなれなかった。
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