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7 長蛇の列①

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 荷馬車に揺られること三日、イフォリファ公国の誇る沿岸都市ウインスターズに到着した我々を待っていたのは、荷物検査を待つ人々の成す長蛇の列だった。
 この都市にはこれまで何度も訪れたことがあるが、毎回この調子なので、知り合いのウインスターズの役人に「ウインスターズの入口はもう少しどうにかならないのか?」と尋ねたことがあるのだが、その氏曰く、主に三つの理由から、この混雑は対処が困難であるらしい。
 一つ目は、ウインスターズの貿易港は隆盛を極めており、イフォリファ公国のみならず、周辺国中の貿易商が集まってくること。
 二つ目は、人の集まるところに集まるという商人の性質により、貿易商以外の商人も集まってくること。
 三つ目は、ウインスターズは元々独立国であるためか、ウインスターズの統治に関わっている人々――特に無駄に元気のある偉いお年寄り――の独立意識が高く、同国内にある商会の商人であっても、他国からの商人と同等に厳しく検査を行うように指示されていること。
 この話を聞いた夜、私は彼の労を労うために高い酒を奢ってやった。彼は、飲めば飲むほど組織や上司への愚痴が湯水のように口から零れ出て、挙句の果てには飲み食いした酒と肴も吐き出してしまっていた。
 商人は大変な仕事だと思っていたが、お役人もお役人で大変らしい。

「おう、ヨルムじゃねえか。久々だな」

 遅々として進まない行列に並んでボケーッとしていた私に声をかけてきたのは、私と同じ西ディアナ商会に所属するヒト族の商人。名前は確か、デロトロだったはず。

「君のほうは調子がよさそうだね」

「そうなんだよ。最近、砂糖の取引がかなり儲かっているんだ。ある国の貴族様との大口の契約を締結できてさ」

 情報が命である商人にとって、商人同士のコネクションは重要だ、という考え方の商人がいる。それは別に彼に限ったことではない。特に、同じ商会の人間と出会った際は、多少なりとも情報交換をすべきだという商人が多数派だろう。

「そりゃめでたい」

 しかし、同じ商会に所属していようと、他人は他人である。
 商会に所属するとは、半年ごとに会費を支払うことで、商会の伝手で仕事を紹介してもらえたり、商会の信用を使って交渉ができるようになるという意味でしかない。取引によって生じた損得への責任はすべて自分で取らなければならないし、会費が払えなくなればお払い箱である。
 商人同士の情報共有は、市場原理による価格の最適化を加速させる。
 したがって、需要が多いにもかからわず、供給が少ない場所に赴くことで利ザヤを稼いでいる私のような商人からすれば、情報共有をするほど機会損失につながるわけだ。まあ、情報共有によってリスクを回避できるという考えもあるので、一概に情報共有が悪いというわけでもない。
 とはいえ、相手が嘘を言ってくるリスクもあるので、私個人としては今のところ、情報共有はするだけ損だという結論を出している。
 ちなみに、商会に支払った会費は、運営費を除いたすべてが供託金となり、会員が起こした事故により、取引先に生じた損失を補填するための財源に充てられている。この機能があるため、商会所属の商人は比較的信用が得やすくなっている。

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