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第十三話 奴隷だった子供達の朝食

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 意識が戻った俺は、暖かさに全身が包まれているのを感じて、思わず泣きそうになる。
 夢だと気付くのが怖かった。夢から覚めるのが怖かった。またあの日々に戻るのが怖かった。寝たら現実に戻ってしまう気がしたのだけど、身体は疲れ果てていて、ベッドに入るとすぐに眠ってしまった。  
 そして俺は今、汚れた荷馬車の中ではなく、確かにベッドの中にいた。隣には、まだ寝ている女の子がいた。昨日の出来事は夢じゃ無かったんだ。
  ……緩みかけていた口元と気持ちを引き締める。優しい人が本当に優しいのかどうかは、一日だけでは分からないのだから。
 
 
 ベッドの上で目をつむって、老人が言っていた言葉と、美味しかったミネストローネという名前のスープの味を思い出していた俺は、扉の向こうからの呼びかけに反射的に起き上がり、即座に返事をした。昨日までと同じように、小さすぎて聞き取れないことがなく、大きすぎて耳障りにならないような声の大きさを意識して。
 その時、部屋の隅に昨日までは無かった絵があることに気付いたが、今はじっくりと見ている場合では無い。
 隣で寝ていた子も、老人の声掛けで目が覚めたらしく、小さく動き始めた。

 「呼ばれたから早くいこ。朝食だってさ」

 俺は、中々布団から出てこない女の子を急かす。指示に従わなかったらどうなるか分からないのに、寝ぼけている余裕があるのは、ある意味羨ましいが、呼ばれたのだから急いで向かわなければならない。
 欠伸をしながら伸びをした女の子の手を取り、急いで、でも足音はあまり立てないで階段を下りていく。
 俺が一方的に掴んだ手を女の子が握り返してくる感触が伝わってきた。横目で見てみると、女の子の顔にさっきまでの眠たそうな目はどこにも無く、硬い表情をしていた。きっと俺も同じような顔をしているのだろう。
 部屋の前まで来て、少し立ち止まって深呼吸をしてから扉を開ける。

 「おはようございます」

 「おはようございます」

 習った通りのお辞儀と挨拶をして、椅子に座っている老人と、地面から少し浮かんでいるアイラさんの方を見る。睨んでいると思われないように、目を大きく開くことを意識する。

 「おはよう。もうすぐ朝食ができるから、椅子に座ってくれ」

 老人は俺達の顔をしっかりと見てから、昨日と全く同じ表情と声のトーンで挨拶をしてきた。
 
 「テーブルに並べてないだけでもう出来てるんですよ」

 そう言いながら、奥の方から出てきたアイラさんが、俺達の前に良い匂いのする食べ物を置いていく。色々な野菜が入った昨日とは違う色のスープ、柔らかそうな白いパン、良い香りのする薄切り肉。この黄色くてふわふわしているのは何だろう?あの瓶の中に入った真っ赤なのも何か分からない。

 「遠慮せず、好きに食べていいのよ。今日からあなた達は家族の一員なんだから」

 俺達の前にフォークとスプーンを置いたアイラさんは、そう言って微笑んだ。
 食事を目の前にして、自分が空腹だということに気付いた俺は(昨日まで空腹なのは日常だったので、自分が空腹かどうかを気にしたことは無かった)パンに手を伸ばし、一口食べる。
 一口食べ出すと止まらなかった。パンは柔らかく、肉は簡単に噛みちぎれて、スープはとろとろとしていて甘い。どの食べ物も本当に美味しくて、温かかった。

 「そうそう、君達のために室内履きの靴を作ってみたの」

 俺達が食事をしている最中に、アイラさんは二人分の靴を出してきて、僕と隣の女の子の足元に置いた。
 その靴の表面は木で出来ていて、内側には布地がひいてあった。 

 「履いてみて」
 
 そう言われたので、手に持っていたスプーンをスープの皿に置いてから靴を履いてみると、ぴったりのサイズだった。一体いつ僕の足の大きさを測ったのだろう。

 「サイズはどうかしら、大丈夫そう?」

 僕達よりも下側から、僕達の顔を交互に見上げながら、アイラさんは質問してくる。

 「大丈夫です」

 と僕が言ったのを聞き、隣の女の子が静かに頷いたのを見たアイラさんは、

 「そう、ならよかった。食べてる途中にごめんね。さあ、まだご飯は沢山ありますよ」

 と笑った。
 その笑顔を見て、なぜだか俺も少し嬉しくなった。 

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