上 下
3 / 9
第一章 再開した2人、炎上した勇者宅

2勇者と魔王は、炎で自宅を焼かれます。

しおりを挟む
 「ユウさん! どうかなさったのですか。体調がすぐれないのでしょうか」
 「・・・」
 「…ユウさん?」

 えっ、どう。
 顔を上げると汗だくの、もとい、ただの水を滴らせる魔王のマオが膝立ちでこちらをのぞき込んでいた。瑞々しい白い肌は幼さを残す顔立ちとは反対に、その体つきは丸みを帯びており、女性らしいと形容すべきは彼女こそであると思った。美しいくそして可愛らしい彼女からは、石鹸の香りがした。

 (汗だくのほうが良かったな……石鹸の香りもまぁいいが)

 でも、一番聞きたいのは何故服を着ていないのかだ。靴を履いているのはわかる。足痛いもんな。砂利の上で裸足だったら痛いのなんのと思い出す。
 ここは注意しなくては。注意、注意、ちゅうい………。

 「あっ、あのドアノブはいかがしたのです?」

 だめだ、らしくない。何か色々混乱している。多く抱える質問の内、そんな重要でないことを選択してしまう程度。

 「あっ、申し訳ございません。わたくしが壊してしまいました。ノブが回らないなとクルクルと回して居る内に力が入ってしまったと………」

 力が入ったって、ドアノブは壊そうと思わないと普通壊れないもんだと思うが、どんな物攻・・なんだよ………。

 「あぁ、そうだったのか。やっんなこと気にしなくていいから、取り合えず冷えちゃうから中に」
 「…なっなかに、ですか………」
 「ん?」
 「……?」

 いや、疑問符を付けたのはこっちであって、マオがコテンと首を傾げる必要はないだろう。
 それより、その格好ってか全裸ってか裸ってか、とにかくに毒だ。この状況で全く反応しない息子を殴りたい気分だ。
 そう思った瞬間、周期的な突風が吹く。波が押し寄せるように砂ぼこりが舞う。

 「っ!?」
 「はっ!?」

 俺とマオは再び疑問符を浮かべ、警戒態勢をとる。さっきとは違い、今度は同じことを考えている。
 木々の音に混じって、翼の音が聞こえる。

 「近いな」
 「はい、敵でしょうか」

 灰が飛んで来ているから、火竜はかなり近い。追跡はされないように、気を使って自分の死体の足をエサにしたのだから、運が悪いとしか。

 「あぁ、火竜だ。断言できる」
 「?」

 ちょっおま、なんつう顔してんだよ。
 何言ってんの此奴と太字で書かれた顔は通常なら、ぶっ潰していたと思うが、マオがすると不思議とムカつかない。可愛いから許すというやつだ、きっと。

 「私一人で十分ですよ」
 「ちょっと行くな。マジでヤバイ。てか、火竜ってお前と同じ魔族だろ。いいのか」
 「どうしたのですか、ユウさん。貴方は私と互角に戦ったではないですか。それに、魔族はもうなく……あとでゆっくりお話しいたします。また、例え同じ魔族だったとしても私たちの邪魔になるのならば。火竜にこんな大切な時間を浪費する道理はこれっぽっちもありません」

 親指人差し指で「これっぽっち」を表現するのはいいが、俺の股間の前ではやめてほしい。あながち間違っていないのが余計………泣きたい。

 「えっ。まさかユウさんも、これっぽっちなのです………」
 「か? までちゃんと言ってくれ。断言しないでくれ」
 「ともかく、この手を放してください。………あとで、ゆっくりお願い致します」
 「この手を放すと死ぬ」
 「ユウさん、……私のことをそこまで思って」
 「思ってるよ」
 「……えぇ、いきなりっ」もじもじ

 マオの力が緩くなったところで、体を引き寄せ持ち上げる。貧弱になった俺でも簡単に持ち上げられるほど彼女は軽かった。

 「よっと」
 「ほぇぇ」

 柔らかく俺の手に吸い付いて離れない肌は魔族だからなのか、彼女だからなのか。明らかに後者だということは明白である。
 両足の太ももを手で引き寄せてしまう体制になってしまった為、マオの局部が大胆に開いてしまっているけど、どうせ俺んの近くだ。誰もいるはずかねぇ。誰ももいないよな!

 ◆ ◆ ◆ ◆

 勝手知ったる我が家だと言いつつも、実際は野営ばかりで間取りには疎い。宿も使ったことはあまりないので尚更。人里離れている為、ひっそりとしている割に大きいのだ。無駄な土地を無駄に使っているだけの話。今言いたいのは。

 「あ゙ぁっん、押し入れが見つかんね」

 扉を雑に蹴り開け、廊下を居間を駆け抜ける。俺の脳は無駄なく最適化されるのか、すっかり押し入れまでの道のりが欠如している。
 いや、焦っているだけなのかもしれない。困惑しているのか体が火照り始めたマオをやっと床におろす。

 「わっかんねぇ、さっぱりわかんねぇ」
 「あの、ユウさん。押入れとはあちらのことでは」
 「ん? あれってドアじゃねぇよ」
 「ユウさん、押し入れは部屋ではありません………よ」

 あぁぁぁぁぁ、やっちまったぁぁぁぁぁ。
 押入れって部屋のことだと思ってた。忘れてた。押入れって単語ワードだけ覚えてたから事故ったわ。
 恥ずい、もう恥ずかしい。
 少しでも、マオの信頼というか好感度というかそれを回復させるというか格好つけというか。

 「ちょっ、ちょっとしたレクリエーションの一環だ」

 非常に苦しいと思ったが、マオは素直に感心してくれた。彼女は育ちがいいのか純粋な心を持っている。まだ関係が深くない私を楽しませるために、とありがとうまで頂いてしまった。

 「グォォォォォォオオオオオオ」

 それは要らなかった、俺にはマオのありがとうございますだけで十分なのに。
 てか、やばい、家が燃え始めてる。

 「早く押入れに入るんだ」
 「はい………ユウさん! 押入れの中に穴があります!」
 「そこに入って進むんだ。家の外に通じてる」
 「………ユウさん、先に行ってもらってもよろしいですか」
 「だめだ。お前、火竜倒そうそすんだろ。ほらほら」

 しぶしぶ了承したマオの本当の理由を俺は、トンネルを進んでいる際に時々手が濡れたことで気が付いた。あまり前を見ないようにしながら、進んでトンネルの出口に到達する。
 かなり失礼なことをしてしまったかもしれないと、火竜が過ぎ去るのをトンネルの出口から窺っている時に思った。


 しばらくのち火竜は飛び去って行った。

 (あの火竜、まさか俺の家を壊すのが目的ではないよな)

 立つ鳥跡を濁さず。綺麗さっぱり俺の家はーー全壊した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...