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1)冒険の始まり

社会の掟

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 冒険者を希望する人間は最寄りの役所に成人前に登録しておく。成人後の登録は無効となる。それが、社会の掟。

 18歳の誕生日。いわゆる成人の日。

 職業を決められる日である。特に適正シートなどというモノを書くでもなくなんでもなく、ただ登録しておいた役所に行くと「はいじゃああなた今日から僧侶ね」と事務的に手続されるだけの、成人の日。

 ただひとつだけ事務的でない場合がある。魔王が復活した昨今ではおそらくこのような言葉がかかるであろう。



「こんな時代にご苦労なことで……あなたは今日から勇者です……どうぞ旅のご無事を……」

 ***

 前回の魔王封印の際に勇者と共に旅をしたという両親を持つ、あたしたち双子の姉妹の18歳の誕生日。あたしたちは双子だから、同じ日に成人の日を迎えた。もちろん、「勇者様! おめでとうございます! 魔王の封印を是非お願いいたします!」なんて言われることを期待しながら。

 ***

 さて役所に行きますと……。

「えー、ルミさんとアキさんですね? 順番に受け付けますのでルミさんはどうぞ、アキさんはお並びください

 いいじゃん二人まとめて言ってくれたって! これだからお役所仕事は!

「ルミさんは戦士です。こちらが装備一式になります」

 ルミは今にも攻撃呪文を詠唱しそうな勢いで食って掛かっている。

「私に戦士が向いているとは到底思えないんですけど、どういうことですか!?」
「と言われましても、そういう結果になっておりますので。
 次の方どうぞ」

 ふざけんなよ、と憤るルミを押し退けて今度はあたしがカウンターに行く。

「はい」
「アキさんは魔導師です。こちらが装備一式になります」
「……は?」

 いやいやいやいや、とりあえずは渡された装備は受け取るとして、まぁあたしやルミが勇者じゃないのは仕方がない。だって双子だし。あたしが勇者だったらルミはぶーたれて口を利いてくれないだろうし、ルミが勇者だったらあたしは家に帰って暴れる。

 魔力が少なく、呪文の詠唱もうまくいかないような脳みそ筋肉のあたしが魔導師。
 体力もなく、学校でもずっと体力系の科目は惨憺たる成績だった妹が戦士。

 ……嘘デショ!?

 そりゃー、なんとおふたりとも勇者です! なんて展開を夢見ていなかったといえば嘘になる。だけど、結果はこんなことになってしまった。当然、冗談抜きでそんな職業でやっていけるとは思えない。

「「あの、私たち双子なんです、書類の取り違えとか、何かの間違いじゃないですか?」」

 あたしたちが揃って声を上げるも、お役所仕事で一応きちんと検索をした結果、

「いいえ、間違いありません、ルミさんが戦士、アキさんが魔導師です」

 無機質に答えられた。

 ……ふざけんな。
 これから、どうしよう……。
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