幸せの1ページ

Pomu

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18 Mako.side

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圭くんのもとには、帰れない。

でも、他に行くあてなんてない。



犬の姿に戻れたら、食べ物だって探せるし寝床だって簡単に見つかるのに、僕の体はそんなに都合よくは出来ていないらしい。





お腹も空いたし、ずっと歩き続けて体も疲れきっている。

取り敢えず、少しの間だけでも休もうと公園のベンチに寝転がったら、僕の意識はすぐに途絶えてしまった。







次に気がついた時、僕はそこが夢なのか現実なのか、はたまた天国なのか、区別がつかなかった。

だって、景色は確かにあの公園のままだけど、体の疲れや空腹感は綺麗さっぱりなくなっていたし、何より、目の前に、僕にそっくりな顔があったから。







「真、さん…?」



恐る恐る尋ねたら、その人はゆっくりと頷いた。







「…僕、死んじゃったの?」

「…その途中って感じかな。でも大丈夫。死なせたりしないから」



そう言って、僕の手を掴んだ真さんの手は、予想外に、優しく、暖かかった。







「ヤスのこと、救ってくれてありがとう」

「え…?」

「俺が死んで、自暴自棄になってたヤスを救ってくれたのは、マコくんだよ」



救ったなんて…そんなこと、僕は…





「死んだ奴に言われても、説得力ないかもしれないけど、今のヤスは、俺じゃなくて、マコくんを必要としてるんだと思う」



それは、真さんを演じている僕のことだ。

圭くんが戻ってきてほしいと願っているのは、僕じゃなくて…







「俺は、もういいんだ。充分、愛してもらったから。

それに、天国って、案外悪いところじゃないんだよ。

だから、ヤスとマコくんは、現実の世界を十分幸せに生きたあとで、俺に会いに来てよ。

それまで、待ってるからさ」

「……でも…」

「マコくんは、俺とは違う。違う人間でいいんだよ。

俺は、真として、君は、マコとして、ヤスを愛して、ヤスに愛されて、生きる権利がある。お互いに、終わりまで」



終わりまで…





「終わりの形は、俺みたいに、事故かもしれないし、病気かもしれないし、それ以外の何かかもしれない。

いつどんな形で訪れるかわからないから、二人には、後悔しない生き方をしてほしいんだ」



そう言って微笑んだ真さんの笑顔は、太陽のように、気高く輝いていた。





「俺は、天国でずっと二人の笑顔を待ってるから。

また会えたら、その時は、お互いに違う幸せの話をしよう。

俺は、多分ヤスの話をすると思う。

マコくんは、きっと圭くんの話をするだろうね」





バイバイでも、サヨナラでもなく、『またね』という言葉を残して真さんは光の中に消えていった。

そのあまりの眩しさに目を閉じて、再び開いた時、僕の目の前には、圭くんの姿があった。



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