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捜査最終日

97. 十一日目(謹慎三日)、元部下との再会①

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 本当は三連発を試してみたかったのだが相手が伸びてしまっては仕方あるまい。
暇潰しにはなったと幾分すっきりした状態でリングを降りようとした所で懐かし
い顔が視界に入った。武力で制圧していた時代の側近であり、右腕だった男だ。
腕力は無かったが綿密な計画と組織を束ねる統率力は他を圧倒する程、抜きに出
ていた事を思い出していた。

「パチパチッパチパチッ」
 その男は黒色のカンフー道着を身に着けており、惜しみない拍手をしながら、
口を開いた。
「ラーメン屋になったと部下から聞いた時は暴力を捨てたと思ってました」
「久しぶりだな。ラドン。売られた喧嘩は時々、買うことにしている」
 リングを降りてラドンの正面に対峙する法海侯。ラドンの右側には、2m近い
黒人の側近が付いている事が分かった。
「堅気になったとはいえ、ナメられるのは我慢ならないですか?」
「まぁ、そんなトコだ。それより伸びてる自称幹部のフォローを頼む」
「へぇ~。あなたから、そんな言葉が聞けるとは驚きました。暴君時代には私を
含め、優しい言葉を掛けられた部下など一人も居ませんでしたからね!」
 ラドンは自慢のドレットヘアーを左右に揺すりながら驚きを表現して見せた。
「俺に嫌味を言いに来たのか?」
 眉間に皺を寄せながら相手の真意を探ろうとする法海侯。
「それもありますが別の側面もあります」
「相変わらず回りクドイし、話が長そうだな」
「えぇ、これが私の揺るぎない個性ですから。あなたは理解して頂けると思って
ましたが……」
「個性をイチイチ理解はしていないが部下として優秀なのは認めていたさ」
「もっと早くに褒められたかったですが今となってはどうでも良い事です。過去
は変えられないから未来を変えようと必死に今を足掻き続けるんですから。あな
たは私の聞く義務があるんですよ」
「突然、書置きを残して姿を消した事に対してか?」
「そうです。長年、苦楽を共にしてきたファミリーだと思ってた人に私は、酷い
裏切り行為にあったんです!」
「分かったよ。話を聞けば良いんだろっ」
「そうです。それが筋というものです」
 一旦目を閉じて身体を震わせてた後に側近に用事を告げる。
「おいっ法海侯さんと私にソファーを用意しろ。応接室の奥のフカフカした極上
のを持ってこい。お前は怪力だけが自慢なんだからな」
「応接室が在るなら移動すれば良い話じゃないのか?」
「そこまでして頂く訳にはいきません。それに側近には絶えず仕事を与えなけれ
ばイザと言う時に何も出来ない指示待ち人間になってしまいますから」
 上背のある黒人がソファーを互い違いに組み合わせた状態で右肩に乗せながら
落ちないように両腕で支えながら二人の前に指定された物を着地させるとラドン
の1メートル後ろに下がって待機した。
「その男、かなり器用と見た。引っ越し業務も出来そうだな」
「まぁ、そんな褒めたらダメですよ。スグに調子に乗りますから」
 ラドンは薄ら笑いをしながら浅めに腰を掛けた。
「では話を聞こうか」
 法海侯は深く腰を掛けた後、両目を閉じて聞く態勢に入っていた。


 
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