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捜査最終日

96. 十一日目(謹慎三日)、法海侯VSチンピラ

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 上半身に纏っているタンクトップが汗で滲んでいる事が分かると法海侯は挑発
する事に決めて言葉を発する。
「さっきから一発も当てられてないんだけど未だ本気じゃないよね?」
「あっ当たり前だ。かわすのは上手いみたいだから少し戸惑ってただけだ」
「そうかい。じゃあ、本気で来てよ。一撃に怖さがなくて退屈だからさ」
「おう、じゃあ強力な攻撃を繰り出して驚かしちゃうとしよう」
「それは楽しみだ」
 法海侯の笑みが消えるとボクシングに自信がある男は一発入ったら倒れるよう
な攻撃力が高めの大振りの左右のフックや長距離から放たれるロングアッパーを
繰り出していく。もちろん、そんな雑なパンチが当たるチャンスは一度も来ずに
空振りを3分以上も続けていたので華麗なフットワークは息を潜めて足が止まっ
ていた。アマチュアボクシング界では名を轟かせた時もあった自負があっただけ
にプライドは崩壊寸前で別次元の動きに対して相手の正体が気になり始めていた。
「ぜぇぜぇっ。俺の攻撃を完璧にかわしたり、防ぐとは驚いたが当てられなきゃ
俺は倒せないぜ。分かってるのか? スタミナ勝負で俺は負けた事はないんだぜ」
「そうか? その割には息が切れて来てるように見えるけどな。じゃぁ、かわす
のも飽きてきた所だから、こちらからも攻撃させて貰うとしよう。どれ程、打た
れ強いのかも興味がある事だしな」
 言い終わったと同時に相手に近付いて回転系の技で有名なバックハンドブロー
の動きである事を認識させるように右腕の甲を当てるべく、ゆっくりと分かりや
すく教科書通りの動作をしながらも前歯を強調させるニッとした笑みを浮かべる
法海侯。そんなバレバレのモーションで速くもない技に当たる訳には行かないと
ギリギリの所で見切りしようとした瞬間に相手の拳が徐々に開いていき、中指が
右眼の瞼の上をカットして血が噴き出てきて視界を奪われてしまう。
「マジでエグイ攻撃やんけっ」
「おいおいっ何眠たい事を言うてんのや。己は俺をボコボコにしようとしてたん
だろうが? 右眼の視界が奪われた位で泣き言か!? 失明した訳ちゃうやろが」
 相手の関西弁につられて珍しく関西弁で喋る法海侯は上機嫌だった。
「お前、人を殺した事ないやろ?」
「あるかいな、そないな物騒な事っ」
「それやがな。一撃に殺意がこもってへんのや。それじゃあ俺は一生倒せへん」
 法海侯は相手の右眼に出来た死角に入り込んで姿を消すと腹に強烈な膝蹴りを
叩き込んで、くの時に曲げさせて前屈みとなった相手の首を両手で掴んでから、
相手の頭部を捉えたまま自らの身体と相手の身体を共に反転させて背中合わせの
状態へと移行し、そのまま勢いよく背中から倒れ込んで相手の後頭部をリング中
央のマットに叩きつける”スイング式ネックブリーカー”を放った。
「ウゥッ」
 意識が遠退きそうになる位の衝撃が走ったと思われたが強引に起き上がらせて
から再度、スイング式ネックブリーカーを放って同じ場所へダメージを蓄積させ
ると完全に意識が飛んで気を失ってしまった。
「もっと楽しみたかったんだがボクサー出身では無理があるか。人間は体感した
事の痛みしか耐えられない生き物だからな」
 ボクサーがキックの痛みに耐えられないようにプロレスの必殺技も効果的であ
る事を実感した瞬間でもあった。


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