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捜査開始

58. 十日目(謹慎二日)、占い師”朱美”との接触 

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 体力が落ちてる中で脳を酷使したので疲れが出てきたのか14時を回った所
で睡魔が襲ってきて、起きたら夕方五時になっていた。流石に初対面で、この
時間帯での教員宅にお邪魔する訳にも行かないので、最後に残された選択肢で
ある朱実の高層マンションへと向かった。地理的に慣れて居ないエリアだった
ので予定よりも一時間も遅れて玄関のチャイムを押した。
「ピンポーン」
「どちら様ですか?」
「こちらは西新宿署の刑事をしております。後藤という者です」
「存じ上げておりますよ。もうそろそろ来る頃だと思いました。どうぞ、中へ
御上がり下さい」
 最近の占い師は行動予知まで出来るものなのかと地に足が着かない状態へと
させられたが朱美と思われる人物は妙に色っぽい身体つきをしており、ジプシ
ー姿で出迎えてくれた。ご丁寧に目の下に半透明の紫色のベールを覆っていた
のでメロメロになる寸前だった。
「後藤様。私、朱美は、お待ち申しておりました。きっと虻沼の事を聞きに来
たのでしょう。違いますか?」
「えぇ、お察しの通りです。彼は復讐を望んでらっしゃるのですよね?」
「その質問に答える前に簡単なお願いがあります。携帯電話の発する電波が少
なからず水晶玉占いに影響しかねないので目に見える範囲ではありますが、こ
ちらのアクリル製のケースに置いて頂けると助かります」
「分かりました。透明なので、こちらとしては問題ないです」
 後藤は自身の携帯電話をアクリル製のケースの中に収納した。
「そうですね~。正直に話しますと虻沼とは幼馴染みでして彼の事を弟のよう
に思って生活しておりました。ですので彼がリストラ時にホームレスになって
落ちぶれていく姿は精神的にも肉体的にも堪えましたが黒沢様が彼の前に現れ
てからは死んだ魚のようになっていた目がギラギラと鋭い眼差しへと変貌しま
した。もちろん両足は義足となりましたが私は占い師として成功している方だ
ったので資金援助の方は苦になりませんでした。内緒の話ですが顧客リストに
政治家の方々もいらっしゃいますので儲けさせて貰っております。少し私だけ
が話し過ぎておりますよね?」
「いいえ、貴重な情報が得られて助かっています。麻雀仲間には彼から誘われ
たのですね?」
 復讐という用語はNGなのか回答が得られないまま、話は続いていたが不思
議と焦りはなかった。
「えぇ、意外と思われるかもしれませんが運が色濃く左右される頭脳ゲームと
しては最高の娯楽だと思っておりまして、一応、プロ資格も持っております」
「では虻沼さんとグルになって借金地獄に引きずり込んだという事で合って、
いますか?」
「大筋では、あってますが彼の目的は自分の手を汚さずに不幸にさせる事を望
んでいます」
「そんな事が本当に可能だと御思いですか?」
「何年も丁寧に練られた計画でしたので可能かとは思いました」
「朱美さんは、彼と連絡は取れるのですか?」
「それはもちろん。家族みたいな関係ですから喧嘩した事も一度もありません」
「もっと情報を小出しにする方だと思っていましたが……」
「あなたに駆け引きをするのは粋では無いと判断しましたし、あなたが迷宮入
りの例の事件を担当されてからは虻沼は毎日、笑うようになりました」
「何がそんなに嬉しいんでしょうか? 私にはさっぱり分かりません」
「私も全てを話す訳には行かないので、今日の所はこの辺でお開きにしましょ
う。私の身体がお気に召したなら、事件を無事に解決した時に、お相手致しま
す事をここに約束しますっ」
「それは本当ですか?」
「占い師の言う事は当てになりませんか?」
 巨乳を思わせるバストサイズを強調しながら触れるか触れないかの距離まで
近づいた時に左手にはめていたブレスレットを落としてしまう朱美。
「では信じて良いんですね! 朱美さん。あっブレスレット落ちましたよ!」
「私、今週は占いの件数が多過ぎて持病の腰が痛くって良かったら代わりに拾
って下さいませんか?」
「僕で良ければ喜んで」
 後藤は床に落ちたブレスレットを拾いながらも張りのある巨大な尻に見惚れ
ていた。その一瞬を逃さずに朱美はアクリル製のケースの中から素早く後藤の
携帯電話を取り出し、自局番号表示を呼び出して電話番号を表示させた一秒後
に正確な位置に戻した。短い時間だったが11桁の番号は完璧に記憶していた。
 後藤は楽園にでも来たかのように、さっきまでの顔色の悪さが嘘のように明
るさを増していった。
「でもあなたは別の人が好きな筈ですよね!? 確か高橋真悠子まゆこさんでしたね」
 意地悪な発言で男心を弄ぶ発言をする朱美。
「そこまで分かるのは怖い気もします。未だ大人の女性の扱いを知らないので
純粋に経験値を上げたいんです」
「えぇ、では最後まで捜査を諦めないで下さいね」
 服の上からでもムチムチな丸みを帯びた身体が強烈なフェロモンを放って、
いたので長居をすれば押し倒してしまいそうだった。預かっていた携帯電話を
返却された後、後藤が部屋を出て行くのを見送ると知り合いの調合師に男性が
興奮してしまうパフュームを調合して、それを首筋と手首に振り掛けていたの
だった。

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