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捜査開始

56. 十日目(謹慎二日)、動画映像に出てた謎の男の正体

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 再配達までに未だ時間があったので同期の小林の携帯電話に連絡する事に決
めた。今の所、他にやるべき事が見付からないので普通の人の声が聴きたかっ
たのが正直な心境だった。時刻は壁掛け時計で午前11時前を指していた。

 6回目のコールで小林が電話に出ると時折、女性の喘ぎ声が聞こえる気がし
たが機嫌を損ねさせて相手にされないのを避ける為に何事も無いようなトーン
で会話するように心掛けた。
「後藤か。今、割と忙しいんだが急ぎの要件か?」
「嫌、急って訳じゃないんだが、腰を痛めたってメールに書いてあったから、
心配で具合を確認したくてさ」
「俺に嘘付いてどうすんだよ。例の映像を観たんだろ!? いつもの明るい声
が形無しになってるぞ。もうすぐフィニッシュだから、終わったら俺から電話
する。あんな映像見て、まともに仕事なんかしてられるかよ。痛み止めの注射
を打ってでもセフレと夢心地にならないと精神が保てないぜ」
 最もな意見を言ったかと思うと通話は切られており、五分後、タバコを吸う
息遣いをさせながら小林から電話が掛かってきた。電話だけでは声の認識しか
行う事が出来ないから小林は電話機能を好んでいた。先程まではスクール水着
を着て貰ったコスチュームプレイであったが初恋の相手が小学時代の水泳部の
一年後輩だったのでビート版を嗅ぎながらの合わせ技でもあった。映像として
観られていたのなら、かなりドン引きだったに違いない。

「セフレはもう帰ったよ。だから気兼ねなく話せよ」
「あぁ、そうして貰えると助かる」
「お前は真面目過ぎる所があるから、観終わった後に吐いたんだろ?」
「あぁ、前夜に食べた残りカスも全部だ」
「どう思った?」
「警部はもちろんの事だが暴行を受け続けていた奴の目と表情がイッてる気が
したよ」
「そうか、そこまで感じたなら正直に話すが、あいつが虻沼だ!」
「な、何だって!? 黒沢警部の麻雀仲間として忍び込んでいるのか?」
「そういう事だ。映像を観たお前なら分かったと思うが虻沼の目や鼻までは、
映像に映っていない」
「いや、そうは言っても一年後の映像では頭の輪郭までバッチリ映ってるぜ」
「サユリの話が本当だとすると一年後は後から編集した特別版らしく動画検索
で出回っている種類の物ではなく個人向けらしいんだ」
「それなら余計にタチが悪いぜ!」
「俺は邪魔されたくないのかもしれないと考えるのが普通だと思うがな」
「つまり、戦意喪失を狙った作戦って事かっ」
「詳細は分からないが占い師のアケミなら、何か知ってるかもしれない」
「そう。実は、俺もアケミとコンタクトを取ろうと思っていた所なんだ。でも
住所を知る術が無くて小林に最後の頼みとして教えて貰おうと考えていたんだ」
「随分、大袈裟な最後の頼みだな。分かった。知ってる人数分の情報をお前に
渡す事を約するよ。FAXって送信できたか?」
「偶然なのか必然なのか分からないが今日の昼に使えるようになる」
「そうか。なら利用させて貰うよ。そうそう、あんまり根を詰めんなよ。どう
しても眠れない時は一発抜くに限るぜっ。ちなみに余談だがサユリ嬢を絶頂に
導いた体位は難度高めの”シャチホコ”だ。諸刃の剣なのが欠点だけどな」
「やっぱり、電話して良かったよ。気持ちが楽になった。助かったよ」
「堅苦しいのは無しにしようぜ。下らない話なら、いつでも付き合うぜ」
 こういう、さり気ない気遣いと軽妙な下ネタを上手くチョイスするテクニッ
クが両性に受け入れられる気がして少し羨ましい気持ちになっていた。人は、
自分に無い物に憧れて、時に嫉妬する生き物だと改めて感じた後藤だった。

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