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捜査開始

45. 十日目(謹慎二日)、裏切られた男への対応①

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 後藤の方は信頼していた上司の裏の顔を知ってしまった事で思考が混乱して
しばらくは、何も考えられない状態が続いていた。聡が投げ掛ける会話にも生
返事が続いたので話す事、自体が困難だと判断された。そこで落ち着かせる為
にもダイニングテーブルの席に座らせて熱々のほうじ茶を出し、少しずつ飲ま
せるように指示をした。

 十分程すると要約、混乱が落ち着いてきたのか次第に焦点も定まってきてい
るようだった。
「後藤さん。大丈夫か?」
 後藤との最初の取り決めを気にしている状況では無いので一般人として扱う
事にした聡。
「何とか正気です」
 耳の下から汗が滲み出ていて首周り全体が水滴で覆われていた。表情だけに
気を取られていたので聡は急いで顔拭きタオルを用意して手渡す。
「色々と済みません」
 急いで首周りの汗を拭き取ると綺麗に畳んでテーブルの上に置いた。
「何、気にする事はないよ。僕にとっては新しい弟みたいなものだ。って言っ
ても結婚すらしてないんだがね」
「そんな風に言って貰えると嬉しいですっ」
 お礼の言葉を言い終えると抑えていた感情が溢れ出て止まらなくなり、嗚咽
まじりに泣き崩れる後藤。
(余程、ショックだったに違いない)
 タオルを使う事を忘れる位、大人の男性が打ちひしがれている姿を初めてみ
て目尻を濡らす聡。続けて見ていると貰い泣きしてしまいそうな気がして一旦
席を外す。時計を見ると深夜二時を過ぎていた。小腹も空いてきたので、メモ
用紙に大きな文字で二品を書いて後藤の手に握らせてから背中越しに言葉を掛
けた。
「好きな方を丸で囲ってくれ」
 後藤は涙で濡れたズボンの膝部分を衣類の上から顔拭きタオルで押し付けて
拭き取る作業を数回繰り返していた。気が済むと目尻に溜まった涙を人差し指
で拭い、メニューを凝視している。

 そこに書かれていたのは『オムライスと焼きうどん』だった。涙で視界が、
ぼやけていたが文字は認識できていた。その直後、携帯電話のメール着信と思
わせるバイブレーションの動きがあったが出る気になれなかった。
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