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捜査開始

42. 十日目(謹慎二日)、 木島の部屋Ⅰ

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 黒沢が棚上の酒瓶を回収してから玄関を出て扉を静かに閉めると同時に施錠を
して花瓶が置かれている場所まで全力疾走する聡。その音に驚いた後藤は、扉の
前に居るのが危険な感じがして扉に当たらないよう左側に移動した。その瞬間、
眼前の扉が大きく開かれると灰色の天然石が目に止まり、手招きする動きが目に
入った。聡の手だと分かった後藤は急いで中へ入ると扉を閉めて、その上に背中
を預けて天井を仰いだ。床には、乱雑になった掛け軸が放置されていたが一刻を
争うと判断した行動であったので誰も気に止めなかった。

 鍵を開けた黒沢は懐中電灯を持っていない事に気付き、再び聡の玄関の前に立
ってノブを回すが鍵が掛かっている事に気付く。
「ちぇっ」
 黒沢は面倒だとは思ったが再びインターホンを押す事にした。チャイムの音で
急いで玄関に向かった聡。
「どちら様ですか?」
「後藤です。一分も経ってないのに鍵を掛けられてるんですね」
「別に驚く事じゃないです。防犯ですよ」
 無難な答えに言い返す言葉が見付からないので用件を口にする黒沢。
「私の記憶ですと照明器具が取り外されていたと思うんですけど。懐中電灯は、
ありますか?」
「よく覚えてらっしゃいますね。おっしゃる通り、照明器具は全て外しました。
懐中電灯の件に関してですが、現在、電池を切らしてまして……」
「そうですか。分かりました。こちらで何とか対応します」

 聡の機転が後藤を救った。一つは金額の違う領収書を用意していた事。金額
の違う花瓶は神奈川県の実家に預けてある。二つ目は、懐中電灯の電池をエア
コン上側の壁際に隠していた事である。もし、後藤が隣の部屋に居る間に懐中
電灯の話をしたら空の懐中電灯を見せるつもりでいたのだ。

 黒沢は頭の中で部屋の中を確認できる手頃な物が無いかを考えていく。する
と一つの答えが浮かび、自分の車の鍵が納まっているホルダーに付属されてい
る物を取り出した。夜、車の鍵穴を照らし出す為に使う道具だ。
「ピュ~」
 機嫌が良くなった時に無意識に出る動作だった。口笛が拭き終わると部屋に
入り、玄関の扉を閉める。LEDライトを照らしながら部屋の中の変化が無い
かを見渡して行く。と言っても一番奥に旧式の冷蔵庫がポツンとあるだけで他
は聡が全て引き取っていた。冷蔵庫に近づくと今でも使用してると分かる重低
音が耳に入ってくる。二層式で上が冷凍室で下が冷蔵室だ。念の為に下の扉を
開けるが何も入っていない。上も開けて確認するが事件当日と何ら変わらず、
山盛りの氷が所狭しと敷き詰められていた。外側は、それらを覆うように厚い
霜の層で出来ていた。
「相変わらず、辛気臭い部屋だぜ」
 酒瓶に口を付けて一口だけ含むと冷蔵庫の扉を閉めて玄関へと足を運んだ。
玄関まで移動すると携帯の着信音が鳴り響く。画面には、木島が自殺した日の
数ヶ月前から頻繁に顔を合わせるようになった名前が表示されている。組員の
恩田で債権回収では名の通った人物だ。借金の返済を度々遅らせた常習犯だっ
たので担当が変えられてしまっていたのだ。
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