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捜査開始

39. 十日目(謹慎二日)、真夜中の来訪者②

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 黒沢は会釈をして玄関に入ると酒瓶を棚に置いてから周りを観察して不自然な
点がないかを入念に確認し始めた。下駄箱の蓋を勝手に開けて中身を見る。来客
を告げる見慣れた靴が一切無い事に気が付いて許可を取る前に行動していた事に
気付いた黒沢。
「いきなり、物色ですか?」
「長くやってると刑事の癖が染み付いてまして体が勝手に動いてしまうんですよ」 
「そういうもんですかね」
「気を悪くしないで下さいね。すぐ終わりますから」
 会話をするというよりは部屋を覗きにきたという事が態度に出ている。
「しかし、半年も顔見せていないのに、いきなり連絡も無しに押し掛けてくるの
は関係者とは言え、かなり迷惑です。しかも深夜にですよっ!」
「……」
 黒沢は聡の質問には何も答えずにトイレや風呂場の水周りを入念に見ている。
「捜査は打ち切りになったと他の捜査員の方から聞きましたけど」
 黒沢の返事が無かったので苛々した口調へと変わる聡。その間、後藤は押して
入った扉を反対側から隙間がないように押して床に座り込んだ。右手には棒状の
芯を持ったままだ。

「それがですね。最近、新人と組むようになりまして。その男がこちらへ、お邪
魔してないかと思いましてね」
「そうですか。残念ながら家には来てませんけど仕事熱心な方ですか?」
「別に有能という訳ではありませんが熱血感の固まりのような男です。ですが、
熱血だけでは難事件を解決する事はかなり無理がありますな」
 解決する気がない事が明白過ぎて怒る気力が薄れていく聡。

 黒沢は押入れを見終わり、掛け軸付近の廊下に置かれている高級品と思われる
花瓶を眺めていた。
「宜しかったら御名前だけでも教えて貰えませんか?」
「後藤です。もしこちらに来る事があったら必ず私に連絡して下さい」

 後藤は芯棒を力強く握り締めて事の成り行きを見守ると同時に頭の中に天然石
が灰色だった事を思い出していた。

「何か問題でも?」
 黒沢の要求に対して質問で返す聡。
「トラブルを起こして今、謹慎中でして。警察手帳も持ってない状態なので色々
と問題を起こされると私の責任になるんですよ」
「新人に手厳しいんですね」
「どこの世界も同じですよ。それと何度も現場を調べた私達が何の証拠も見付け
られなかったんだ。若造に見付けられる筈はない」
 酔いが回ってきたのか敬語もなくなり、最後にはタメ口になっていた。


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