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捜査開始

37. 十日目(謹慎二日)、金属板が指し示す者

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「木島課長に兄が居たとは知らなかったな」
 資料室にある個人ファイルには何も記入されていなかった。つまり、意図的に
作成されており、詳しく知りたい者は秘密のパスワードが必要かも知れないとい
う考えが頭に浮かんだ。都合の悪い事は全て削除されているとみて間違いない。
警察内部に共犯者がいる可能性が高いと判断すると気を引き締めて捜査に当たら
なければと心に誓って聡の住む家へと歩き出した。興奮している性か、痛みが薄
れて予定より早い十分前に到着する。

 後藤は、呼び鈴の代わりに携帯電話へと連絡すると玄関のドアが開き、中へと
招待された。二人が応接間のソファーへ腰を掛けると聡が中央にあるテーブルの
上に名刺を差し出す。
「初めまして後藤刑事。先程の話に出ていた金属板を見せて頂いても良いでしょ
うか?」
「刑事って呼ばれるのは苦手なので巡査で、お願いします」
 憧れの人だった身内に当たる人なのであずまとの対応とは真逆の対応に出る後藤。
「分かりました。後藤巡査」
 階級が分かると微笑みを浮かべる聡。

 後藤はズボンのポケットから、目当ての物を相手に差し出すと聡は左の手の平
に置いて真剣な表情で吟味している。
「間違いないですね。弟が私に依頼して作成した物です。あれは亡くなる三日前
でした」
「どうして聡さんの番号何でしょうか!?」
「実は弟以外の身内や警察にも私が携帯電話を所有している事を教えていないん
ですよ」
「つまり、事件の真相に迫っている人間だけにあなたと連絡できるように隠した
と……」
「恐らく。その線で間違いないでしょう」
「でも待って下さい。犯人側が見付ける事だって充分に考えられます」
「もちろん。その可能性は大いに有り得ます。しかし、私に関して言えば会社を
何十年と経営してきて今日まで人事を一人で担当して来た経験があるので人を見
抜く力は普通の方より遥かに持っていると自負しております」
「そうかもしれません。しかし……」
 腑に落ちない表情を浮かべる後藤に対して聡は明るい表情で続きを話し始める。
「本当は、弟の受け売りなんですよ。生前、アイツは自分が解決できそうにない
壁にブチ当たると『未解決の事件を解決するのは熱血感の塊のような新人だって』
いつも言ってました」
「そうでしたか……。でも私には解決できる自信が未だ無いんです」
「最初から自信がある人間は一人も存在しないですよ。そんな人が居たら気持ち
が悪いですし、教え甲斐がないですね」
 聡流の励ましなのだろう。この会社で働いている社員が少し羨ましく思えた瞬
間だった。
 
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