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捜査開始

19. 八日目、万引き捜査のその後③ 豹変Ⅰ

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「自白するまで缶詰だそうだ」
「やり方が汚いぞ」
「上の意見には逆らえんのだ」
「縦社会って事か?」
「そうだ。自白すれば、ここから出してやれる。弁護士でも呼んで罪を軽くして
貰えば良いだろう。俺には別の山がある」
「つまり、小物に関わってる時間が勿体無いって事だよな!?」
「どう理解して貰っても構わないさ。それより、腹減ったろ。昼飯にしないか?」
 二人の緊張を解す為に提案する後藤。壁掛け時計は十二時十分前を指していた。
「カツ丼って頼めるの?」
 大人しい少年が興味津々に質問する。
「今回は特別に頼んでみよう」
 後藤は、個人的に注文している店に電話を掛けて特別に持ってきて貰う。刑事
ドラマで放送している程、カツ丼の出前は行われてはいないのだ。出前が到着す
ると大盛りのカツ丼が三杯、机に置かれる。後藤が清算していると二人は蓋を外
して黙々と御飯と味が浸み込んだカツを口の中にかき込んでいた。そんな様子を
見て改めて子供なんだと感じてしまう自分がいた。

 手を洗うと後藤も負けずと御飯に、かぶりつく。二人が食べ終わる前に後藤が
箸を置いて完食すると口元に爪楊枝を刺して余裕の表情を浮かべる。学生時代か
ら早食いと大食い対決で負けた事が無いのだ。

 一人は腹が満たされて満足気な表情になり、眠気を催しているが大会社の後継
者の方の目は鋭いままだった。
「さっき話してた別の山って何だよ?」
「部外者には関係無い事だ」
「ひょっとして未解決の事件か?」
「お前には一切関係ない」
「きっと、兄さんには解決できないよ」
「どうして、そう言い切れる?」
「だって下っ端だろ!?」
「……」
 後藤は腿の上で拳を強く握り締めて耐えている。
「もしかして当たり? 悔しいなら、その拳で俺の顔を殴れば良いじゃん」
「俺は警官だ。お前の挑発には乗らない」
 冷静な対応を務めてはいるが抑えが効かなくなって拳が震えている。
「無能には、きっと無理だよ」
「ふざけるな!」
「別にふざけたくてしてる訳じゃなくて、こっちだってこんな狭い所に何時間も
閉じ込められてウンザリしてんだよ! ちなみに、その髪型はダサいと思うぜっ」
「お前に俺の髪型の何が分かる!? 流石に今の発言には堪忍袋の緒が切れたっ」
 後藤は座っていたパイプ椅子を豪快に蹴飛ばして上着を机の上に放ると相手の
胸倉を掴んで宙に浮かせたまま、壁に激突させる。眠りかけていた少年は態度が
急に変わった後藤が恐くて椅子から転げ落ちて膝を震わせている。
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