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捜査開始

13. 六日目、同期からの食事の誘い (前半)

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 翌日の18日(月)午前七時に目を覚ますと歯を磨いてから洗顔をする。眠気
が取れたのが確認できると鼻歌を歌いながらシャワーに入る。さっぱりして出て
くると早々と濡れた体をバスタオルで拭いて新しい下着に着替える。タオルで髪
の毛を丁寧に拭きながらそのままの格好で台所に入り、目玉焼きを作り始めた。
タオルを首に掛けながら調理するのが癖となっていた。

 目玉焼きが半熟になると食パンをトースターで焼き始めて黄身が固まる頃には
トーストが焼きあがり、皿に盛り付けてバナナと野菜ジュースを添えて朝食の完
成である。平日の朝は、ほぼ同メニューで変わる事がなかったが目玉焼きの味付
けだけは日によってソース、塩、カレーパウダーと変化させており、この日は定
番の熟成ソースの出番だった。朝食が済むと髪をドライヤーで乾かしてサラサラ
仕上げにしてから服を身に着けて昨日の黒沢警部の自宅の様子を思い出して見る。
 昔懐かしい、指を掛けて回すタイプの黒電話と煙草の吸殻に付いていた口紅の
色が珍しい紫色だった事を思い出す。口紅の色を警察手帳に記録すると革のジャ
ンバーを着て近所のコンビニに寄り、週刊少年雑誌を立ち読みする。小学生から
バトルもの(善と悪が戦う格闘系)と呼ばれる漫画が大好きで警察官になった今
でも止められなかった。雑誌を買わない代わりに喉飴を買い続けているので喉飴
専用の瓶が三個有り、知人に会うと飴を配って減らしているのが現状である。

 署に出勤すると行動予定を記したホワイトボードの中から自分の欄を探して、
帰宅から出勤の表示(マグネットで作られた物)に切り替えて黒沢の欄を見てみ
る。行動の欄は二日間、大阪に出張となっていた。突然の事に少し驚いたが、自
分の仕事を始める。特に事件も起こらずに定時が来たので帰ろうとすると同期の
小林が声を掛けて来て一緒に食事をする事となった。

 小林の通い続けている広島風お好み焼きの店に決まり、座敷に通されると看板
メニューのモダン焼きを注文する。自分達でも焼く事は出来るのだが、お店の人
に任せた方が間違いないとの事で焼かせてはくれなかった。『焼きそば』を中に
入れる為、素人には難しいのだと言う。モダン焼きが運ばれて店員が退席すると
座敷は襖で閉まり、密室が出来上がる。その仕切りに防音材が入っているらしく
会話を気にする必要が無くなるから利用しているのだと小林は打ち明けた。
「まだ、例の事件を捜査しているのか?」
「あぁ。未解決ってのが、どうにも気に掛かるんだ」
 後藤は、お節介な奴だと思いながらも食事に手を付ける。外側がパリパリの焼
き具合で中がもっちりの焼きそばの食感に頬を緩ませて半分程、平らげていく。
箸が止まった所を見て小林が小難しい表情を浮かべて話を始める。
「お前には一応、話しておくけど、上層部に聞いた話だと東新宿署に勤務してた
頃の黒沢警部が解決した事件は殆んど相棒の木島さんが解決したんじゃないかっ
て思われているんだ……」
「憶測だろ?」
「確かにそう言われると痛い所だが、この世に存在しない人から真実は聞けない
しな」
「死人に口無しってヤツか」
「自殺だから余計に信憑性が高いって専らの噂だ」
「木島さんって本当に自殺なのか!?」
「お前、警部から聞いてないのかよ」
「亡くなった事だけは聞いたよ」
「そうか。内容が内容だけに伏せていたのかもな」
 小林の勿体つける口調に痺れを切らす後藤。
「前置きは良いから、話してくれないか」
「そうだな。お前は、知っておいた方が良い気がするから、話すよ。但し、その前
に完食させてくれ」
 小林が最後の一切れを食べるのを苛々しながら待つ。途中、極度の緊張からか喉
が渇いてきたので水を飲み干す後藤だった。

 
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