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捜査開始

10. 黒沢からの食事の誘い

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 帰り際、黒沢から食事の誘いがあったので同行すると何を食べるのか気になっ
て仕方がなかった。黒沢は、そんな後藤の気持ちに関係なく、自宅である年季の
入った古い木造アパートの一室に招き入れると座布団に座らせて一本の電話を掛
けた。五分後、出前桶を持った人物が入ってきて中身がラーメンだと分かる。桶
には”来々軒、西新宿店”と赤字で書かれていた。

「最近、開店したラーメン店の中で特に評判が良いから食べてみたら、病み付き
でな。美味いぞ」
 ラーメンを拝見すると特製ラーメンである。憧れの人がラーメン通だったので
思わず笑顔が零れる後藤。二人は割り箸を手に取ると早々とラーメンを食べ始め
る。後藤は、ピリ辛の焼豚を最後に食べる為に残しておいて麺をペロリと平らげ
スープを飲み干すと嬉しそうに焼豚を味わっている。黒沢は、猫舌なのか後藤の
半分程のペースである。

 後藤は早く食べすぎて時間が余ったので部屋の様子を覗いてみるとお世辞にも
綺麗とは言えない状態だった。特に台所の洗い場がレトルト食品のゴミで溢れて
いて食器を置くスペースもない。悲惨と言わざるを得なかった。部屋の奥には、
コタツがあり、卓上には麻雀牌が乱雑に詰まれているが埃がなかったので時々、
使用しているのが分かる。麻雀牌の隣には陶磁器で作られた丸い形の灰皿が置い
てあり、煙草の吸殻が数本入っていた。良く見ると半分は口紅が付いていたので
彼女か女友達が出入りしているのであろう。玄関を見てみると天狗の面が壁に掛
けられているのが分かる。

 スープを飲み干す音が聞こえてきたので慌てて視線を元に戻すと目の前に出前
の店員が同じ姿勢のまま立っていた。
「何かありました?」
 後藤は理解出来なかったので思わず質問してしまう。
「経費を抑える為に食器を最低限の保有で済ませているので早めに回収しておき
たいんです」
「あぁ、そう言う事なら遠慮しないで持って帰ってくれ」
 黒沢がテノール声を響かせながら二人分の御代を払うと店員はラーメンの丼を
片付ける際に壁に掛けられた天狗の鼻に帽子を引っ掛けて絨毯に落としてしまう。
次の瞬間、綺麗な銀髪が現れて背中側に髪が流れると左耳の上半分が切り取られ
ているのが分かった。


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