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第一章:始まりの世界 ”自己啓発編”

♯36.登山①

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 翌日、天候も崩れないとの事で当初の予定通り、御在
所岳を登る事に決まった。

 車でドライブかと思ったのだが帰りの渋滞を考えて、
電車で移動する事になり、朝早くの移動となっていた。
湯の山温泉駅から湯の山温泉行バスに乗り、8分で目的
地に到着すると霞実は入念なストレッチで身体を解して
から登山用のピンク色のリュックを背負ってヒップベル
トでしっかりと固定してから適当な岩の上にバランスを
崩さないように座りながらトレッキングシューズを履い
て準備を終えると皆に声を掛けた。
「本当は皆の分もトレッキングシューズを配布したかっ
たんだけど履きなれた靴でないと靴擦れしちゃうから、
避けたの。明日の名古屋観光に影響が出るのも困るしね」
「えっ名古屋観光が出来るんですか? じゃぁ山登りは
必要無かったんじゃぁ……」
 代表で明石が発言すると目を丸くした霞実が答えた。
「あれ? 私、言ってなかったかな~。エヘっ。明石君、
山登りは身体を鍛えのにも良いし、自然の中に身を投じ
る事によってリフレッシュ効果もあるのよ。体が自由に
動くのは若い内だけなんだから面倒臭いと思ったら駄目
よ!」
「ウエイトトレーニングは得意なんですけど……」
 哀川がグダグダな流れを解決しろと言わんばかりに、
立花に目で合図を送り続けている。
「先生、一言も聞いてませんよー。でも観光は皆喜ぶと
思います」
 立花は一応、抗議っぽい口調で言うも観光と聞いてワ
クワクしない訳が無かった。正直、山登りには興味が無
かっただけに登り終えた者だけだ貰える御褒美と思う事
にした。

 各自、自分が出来る範囲内(屈伸や開脚)でストレッ
チを開始して身体を解し終わると哀川が質問をする。
「僕、登山初心者なんですけど、この山は何時間掛かり
ますか?」 
「いい質問よ。大人で運動が得意な人だと2時間位かな。
子供だと3時間位ってとこかなっ」
「昨日、お父様に聞いたんですけどロープウエイもある
って聞きました」
 立花は霞実に変更プランの選択肢を意識する為に発言
をしたのだった。
「もちろん、あるわよ。でも行きは使わないから脱落者
が居ない場合で体力の消耗が激しいと感じられる者が一
人でも確認出来て自力で下山が無理と判断したら引率者
として無責任な行動は取れないから身体に負担を掛けず
に帰る事にします」
「やったーっ。ロープウエイの景色を一度、観たかった
んだよな~」
 昨日、鍛え上げられた腹筋を見せた割には、山登りに
消極的な発言を繰り返す明石だった。 
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