上 下
104 / 281
第一章:始まりの世界 ”自己啓発編”

♯4.立花マイカ VS 中邑ヒカル ①

しおりを挟む
「誰かの駆け足の音が近づいてくる」
 哀川が危機感をつのらせた顔をしながら全員に聞こえる
ようにしっかりとした口調で呟いた。
「男子は急いで隠れて、ここは私が何とかする」
「くれぐれも手荒なマネはしないでくれよ」
「言われなくても分かってる。元々、ターゲットにした
相手だし対策は練ってあるから」
 博士との会話のやりとりで、呼吸を整えていく立花。
博士とタカフミはカーテンを左右に開いて出口側に集め
た方のカーテンの裏側に隠れて哀川は教壇きょうだんの机の下に、
もぐり込んだ。

 ヒカルの方はドアを押さえていた二人に御礼を言って
深呼吸を繰り返しながら足踏みをして息切れを整えてか
ら後側の扉から入った。
「ここは一時的に封鎖してるから袋のネズミよ」
「あらっ何の事かしら。ここには、私しか居ないと思う
けど、あなたの目は節穴ふしあなかしら?」
「今は立花さんしか確認できないけど、きっと、どこか
に隠れているに決まってる」
 立花を確認したヒカルが急接近して至近距離からにらむ。

 ここで博士は、ズボンのポケットから遠隔操作が出来
るリモコンを使って室内を写す為の隠しカメラを起動さ
せて女子二人に焦点を合わせると胸ポケットから小型の
液晶えきしょうモニターを取り出して二人の様子をうかがった。

「そう言い切れるだけの根拠は何? 中邑さん」
「立花さんの立場で合同体育の時間が迫ってるにも関わ
らずに視聴覚室に居る事がとっても不自然だと思うの」
「それを言うなら、あなたも同類よね。何を好き好んで
視聴覚に来てるのかしら? 学級委員長の役割を放り出
してまでする事かしら」
「安い挑発には乗らないわ。少し探させて貰うから、そ
の間、私の邪魔はしないでね!」
「分かったわ。あなたに何を言っても無駄な事が。正直
に言うわ」
 立花は、お気に入りのカチューシャに触れてから高圧
的な態度を解除した。
 
「急に態度を変える所が凄く怪しんだけど……」
「確かにそう思われても仕方がないわね。今、影で操っ
ている黒幕と携帯電話が繋がってるから知りたいことを
直接、聞き出して頂戴」
 立花は自身の携帯電話をB探偵に繋げてからヒカルに
手渡した。

「もしもし、あなたは誰なの?」
「……」
「立花さん。相手から返事が無いけど、これも作戦!?」
「ゴメン。言い忘れてた。彼、女性と話すの苦手だから
メールでお願い」
「もう、そういう事は早く言ってよね。時間無いんだか
ら遅刻して先生に怒られるのは立花さんも同じなのよ!」
「私はそうは思わないわ。優等生を演じるのって疲れる
し、たまには怒られてみたいけどね」
 どこまでが、本当か分からない無邪気な表情で舌先を
ペロッと出すとヒカルが手にしてる携帯電話から着信音
が鳴り響いた。隣に居る立花からメールの着信音だと説
明されて携帯の画面を覗くとメール着信BOXの最上部
にB探偵と書かれた差出人のメールがあり、内容を確か
めるべく、開いてみる。
(B探偵!? そんな渾名あだなの男子が、うちの学園に在籍
してたかな?)
『全ては僕の責任であり、証拠の品の確認は添付てんぷファイ
ルを見て欲しい』
 
 ヒカルは短い文面だったが特に怪しい感じがしないの
で直ぐに添付ファイルを開いて画面を覗き込んだ。
「えっえっ………。これって!」
 画面に映し出されたのは、ヒカルの最大の弱点である
”イボガエル”だった。
 
しおりを挟む

処理中です...