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第一章:始まりの世界 ”自己啓発編”

68.霞実先生の告白③

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 明石は理想の女性像が音を立ててくずれていくのに耐え
られなくなって来たので一瞬だけタカフミを見ると人差
し指を突き合わせたり離したりして照れモードに入って
いる。その様子から告白の内容はほとんど耳に入っていな
いと分かったのでタカフミを紹介する絶好のタイミング
だと判断した。単に忘れてた事に気付いだけであるが。

「霞実先生。紹介が遅れましたが、隣の男子は小学4年
生の大山タカフミ君です」
「大山タカフミ君!? 聞いた気がするけど……」
「校長先生が特例を出した子ですよ!」
「あぁ、例の男の子なんだ。可愛い顔してるのね」
「どういたしまして」
 モジモジしているタカフミ。
「10年経ってサンドバッグ買える経済力があってイケ
メンなら、下着よりも過激かげきな大人の対応も考えるわよ」
「10年経ったら、おばさんな気がするけど……」
「女性を未だ分かっていないのよね。三十代半ばを過ぎ
ると色気が増してくるのよ。まぁ、母親の受け売りだけ
経験豊富けいけんほうふなお姉さんも悪くないって事じゃない」
「そうですか。未だガキなんで先生は高嶺たかねの花です」
「ふーん。お世辞も上手くなったわね。そう言えば明石
君って喧嘩は中学で卒業して高校からは彼女作ってエン
ジョイするんだよね?」
「そんな事、良く覚えてましたね。硬派はモテないです
から高校でテニス部に入るつもりです」
「でも中学で名前を売ってたらからまれるんじゃないの?」
「奴らも軟派になった俺には興味無くなると思いますよ」
「私達の時代とは微妙びみょうに違う気がするけど、まぁ良いか。
用務員室のスペアの鍵をあなたに渡しておくからシャワ
ールームでさっぱりして着替えなさい。洗濯機も自由に
使って良いから」
「凄く助かります。何から何まで霞実先生。ありがとう
ございます!」
「改まって言われると照れるけど教師として当たり前の
事をしたまでよ。タカフミ君。サンドバッグの騒音そうおん問題
をどう対処したのか聞きたくなったら、いつでも遊びに
来て頂戴。特別にOKするわ。最後に明石君。後日、話
せる範囲で構わないから何があったか話してね!」
 ツルハシを愛車のトランクに片付けてドライブ専用の
シューズにき替えると運転席に乗り込んでギアをニュ
ートラルに入れてエンジン音を響かせた後、”じゃぁね”
と手を振った後、加速して姿を消してしまった。

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