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第一章:始まりの世界 ”自己啓発編”

58.上級生の決断①

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 明石は振り上げたツルハシを片手で静止させると動画
を撮影する為に蛇口じゃぐちより上部のコンクリートの平らな部
分に目星を付けておき、利き腕である右手でボンタンの
ポケットから携帯電話を取り出し、動画撮影できるよう
に操作し、正確に映るように角度を調整して置いた。後
日、幹部や上級生に証拠しょうことして提出する為の行動だ。口
では何とでも言えるので実際の映像が必要なのだ。その
鉄のおきてを破って嘘の証言をした二年幹部は夏休み明けに
頭を包帯ほうたいでグルグル巻きにして登校してきた事があった。

 南学園における不良軍団の中学1年生の仕事は、集合
写真や喧嘩けんか撮影があるので一年間みっちりと体で覚えて
おり、レンズを覗かなくても位置情報を簡単につかむ事が
出来た。体育館の裏側に隣接する手洗い場は蛇口が十個
着いてるのが特徴で左端は大型の洗濯物せんたくものが置けるような
作りになっていた。


 タカフミはツルハシを片手で静止出来る圧倒的な筋力
を見せつけられた事により、線の内側へ入るという選択
肢が消えている事に気が付いた。まるで、そこが檻の中
と錯覚してしまう程の威圧感いあつかんを感じていた。
(一歩踏み出せば何か出来る気がするのに、何だか凄く
遠くに感じる)
「タカフミ。心の準備は良いか?」
「……」
 さっきまでの雰囲気とは全く違うので掛ける言葉を見
つける事が出来なかった。







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