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第一章:始まりの世界

37.父親の存在③

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 タカフミはずっと欲しかった言葉が父親から発せられ
た事が何よりも嬉し(褒められたいより、自分に興味きょうみ
持って欲しかったのだ)くて両目から涙がこぼれていた。
 学校の話、友達の話など一度も聞かれた事がなかった
り、一緒に運動して遊んだ記憶も無く親子関係と呼べる
思い出は外食だけだった。
「無く奴があるか。給料前だから回転寿司かいてんすしには連れて行
けないけどハンバーグでも食べに行くかっ」
「うん。絶対行く」
 父親から一番の大好物の提案ていあんに涙は急停止していた。
「今日は月曜日だからペンダント式のネックレスが届く
までの間は私からの説明はせるので想像をふくらましな
がら過ごしてくれよ」
 
 本当は頭をでてほしかったが黒い皮手袋では、ゴワ
ゴワしていて露骨ろこつ拒否きょひした事がある。そんな事もあっ
て二度と息子の頭を撫でる事は無かった。
 人の大好物を記憶するのを得意とする父親だったので
食事に連れて行って貰えるのは単純たんじゅんに嬉しかった。
 ちなみに両手にはめられてる黒の皮手袋はお風呂に入
る時以外は外さないし就寝時しゅうしんじはナイト用の綿手袋を装着
していたり、月に二回程、無言で週末に出かける事があ
ったりとミステリアスな行動も多かった。

 ゴミ出しは父親の担当だったがギュウギュウ詰めにし
ないと集積場しゅうせきじょうに出したがらない所やプリンのフタ等を舐
めるクセが嫌いだった。一番嫌いだった事はボロボロに
なって穴が開いた服を捨てずに家で着ている事だった。
外出するときは絶対に着ないので当時は理解できなかっ
た。もちろん、全てを嫌ってたわけはなく、カステラの
下にいてある紙に付着ふちゃくしている茶色い部分をスプーン
やフォークですくって食べる時の一時の幸せは、十分に
理解出来ていた。

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