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神のストーカー気質は置いておくとして
しおりを挟む聖女アーニャはとある国の夜会に出席していた。
依頼料は安かったが神がうるさかったので引き受けた案件だ。
「シルビア・マーカス、きさまが神の愛し子だと言い出してから5年、丸で領地も国も祝福を得られず、むしろ悪化しているではないか。
本当は貴様の義妹、アンナこそが愛し子だったのではないか?」
神の愛し子はそこに居るだけで、その土地に神の祝福を賜り、国を富ませると言い伝えられていた。
魔物被害を軽減させ、安寧を齎すとも。
「殿下、わたくしは自分が愛し子であるなどと言ってはおりません。
皆さんが勝手に広めているだけです。」
「何を言っている。
自分が愛し子であるとして、わたしの婚約者となり、その立場を利用して贅を極めていると聞く。
家族や使用人にも偉そうに命令しているそうではないか。
アンナから聞いているぞ。」
「そのような事実はありません。」
「もうよい。
偽の愛し子であるシルビアとの婚約を破棄し、真なる愛し子アンナとの婚約に差し替えるものとする。
神殿長からもアンナこそが愛し子であると認定されている。
シルビア、愛し子と偽った罪は重い。
シルビア・マーカスを国外追放処分とする。
これは父上も同意した決定である。」
「シルビア、父としても残念だ。
愛し子と呼ばれるようになってから傲慢になり、変わっていくお前を見るのも辛かった。
そこまで落ちてしまっては我が家の汚点となろう。
お前をマーカス侯爵家から除籍する。」
国王夫妻を始めとして貴族たちも多く出席する中、誰も止めることなく茶番を見ている。
恐らくシルビア以外には前もって知らされていたのだろう。
「はーい、神の愛し子ちゃんは今からわたしの庇護下に入りました。」
アーニャは脇で見ているのを止め踏み出した。
「まあ、聖女アーニャ様、わたくしを庇護していただけるのですね。
光栄でございます。」
義妹と呼ばれ殿下と呼ばれた男にくっ付いていた女性が声を上げた。
アーニャは目もくれずにシルビアの下へと進み、腕を取り出口へと向かった。
「愛し子ちゃん、3つの国から招聘が来てるけど、どこにする?
わたしのお勧めは獣人国だよ。
モフモフ天国で癒されるよー。」
「モフモフ……」
シルビアもケモナーかな。
「待たれよ、聖女様。」
国王?が引き留めた。
「何かな?
こんな法を無視する国なんて早く出てしまいたいのだけど。
わたしまで裁判も無く捕まるとか嫌なんですけど?」
アーニャは不機嫌に答えた。
「聖女様、シルビアが愛し子なのか?」
「そうですけど?
ちゃんと5年前教会に神託を賜ったんでしょ?
何?神託を否定したい訳?
神託を伝えた神官は例の神罰の嵐でくたばった?」
「いや、当時の神殿長は円満退職して地方の小さい教会でゆっくりと過ごしていると聞いている。
だが、領地も国も祝福をもらえなかったではないか。」
「え?祝福されてるよ?
あのね、愛し子が居るとその地に祝福を賜るのは何でだと思ってるの?
〈神の愛し子〉つまり、神のお気に入りだよ?
わたしみたいな神の使いっ走りとは違うんだよ?
愛し子ちゃんが困らないよう豊作にするわ、魔物は近寄らないようにするわと過保護に守るんだから。」
「だが、実際に我が国は……。」
「それは、あんたらのせいよ。
良い?愛し子なんだから神はちょくちょく愛し子ちゃんを見てるの。
そしたら愛し子ちゃんがお母さん亡きあと、実家では虐げられてるわ、国からは愛し子ちゃんの意思を無視してクソ王子と不幸な婚約はさせるわで、あ・ん・た・らに神罰が降ってるの。
祝福を打ち消して余りある程の神罰が降ってるの。
大体、そっちの嘘付き義妹が愛し子でも領地や国を富ませていないことに代わりないですよね?
あれ?もしかしてわたしの知らない神の愛し子?
でもでも、この世界は創造神たるアノ神、一柱だけよね?
どこかから別の神でも呼び出したの?
ねえ、いじめっ子義妹を愛し子に認定したとか言う神殿長は異教徒だったの?
アノ神の教会使って他の神を信仰させてる訳?
あー、それはアウトだわ、愛し子ちゃんが出てったあとの神罰はかなり厳しくなるわよ?」
「待て、国外追放処分は取り消す。
愛し子殿の待遇も改善させる。」
国王は慌ててるけれど、愛し子ちゃんが同意するとでも思ってるのかね?
「どうする、愛し子ちゃん。」
「わたくしはモフ……獣人国へ行ってみたいですわ。」
ケモナーだな、やっぱり。
「そう、これ程酷い扱いをされた国になんて居たくはないよね。
当たり前よねー。
裁判も無しに処罰決められたり、目の前で爵位簒奪が行われても何も反応しないような無法の国だものね。
また馬鹿な言い掛かりで閉じ込められでもしたら嫌だよね。
そうなったら愛し子ちゃんひとり残して皆滅びるだろうけれど。」
「待て、爵位簒奪とは何のことだ。」
「ええー、王様のくせに貴族の家系図くらい覚えて無いの?
さっき婿養子が正当後継者を追い出すのを見てたでしょう?
で、王子がそこの継承権を持っていない娘と結婚して侯爵家乗っ取るのが王家の思惑なのでしょう?
あらあら、よくも貴族たちはこんな杜撰な計画を認めたわね。
他の貴族たちも他人事ではないのが分からなかったのかしら。
前例ができたのだもの、このやり口で沢山の貴族家が乗っ取られて行くのね。」
静かだった貴族たちがこそこそ話合いを始めた。
ちゃんと考えれば自分たちにも降り掛かる違法行為を黙認していたことに気付いたのだろう。
この国には馬鹿しか居ないのだろうか。
「そもそもこの国はかつて女王が居たくらいだから女性でも爵位をもらえるのでしょう?
普通、当主である母親が亡くなったら婿は子供が成人するまでの代理よね?
だけど、どこかの代理が唯一の正当後継者を追い出しちゃったわよね?
それともこの国は血統関係無しに爵位継げるの?
王家とか公爵家とか初代国王と血が繋がって無かったりする訳?」
「いや、我が国も血統主義だ。
男も女も血筋を持つ者しか王位、爵位を継げん。
その為の公爵家、分家だ。」
「あらー、じゃあシルビアちゃんの元実家は断絶ね。
婿養子と愛人だった後妻にその後妻との子供だけになって侯爵家の血を引く者は居なくなったのだもの。
いや、分家から連れてくれば良いのね。
婿養子家族は追い出されて爵位簒奪失敗ねー。
ああ、無法王子と娘が結婚するんだから無法王家の一員として養ってもらえるのかしら。
平民と成る娘と結婚する王子は大丈夫かしらね。
法さえ無視するんだから気にならないか。」
「わ、分かった。
マーカス侯爵、いやマーカス侯爵代理を捕えよ。
特例として成人前ではあるがシルビア嬢を当主として認める。」
「陛下、話が違うではないですか。
きさまらその手を放せ、俺は愛し子の父親だぞ。」
どっちの愛し子を指してるやら。
散々イジメて来たシルビアちゃんの方じゃないでしょうね?
「えー、王様。
愛し子ちゃん本人もこの国を出るつもりのようですし、既にわたしの庇護下に入っておりますから勝手に色々決められても困ります。
元凶の王子も残っていますし、神罰が苛烈になるのが分かってる地に置いておくわけにはいきませんよ?」
「このあとも、し、神罰が降るのか?」
国王もその他も青ざめた顔をしているけど、自業自得よね?
「そりゃあ降るでしょう。
今まで降ってた神罰に加えて今回の件の神罰。
特に愛し子ちゃんを虐待したくせに逆の言い分で冤罪を掛けた元家族には神もかなり怒ってるわ。
もちろん今回の王家や貴族の行いにもね。
別に神は信教の自由を認めていない訳では無いのだけれど、今回は自分を祀る教会を利用されてるから悪質よね。
精霊信仰とかは分派扱いで許してるでしょ?
他の世界の神ともお付き合いがあるから万が一それらの神を祀る宗教ができても認めると思うわ。
無認可な神の邪教徒となった神殿長や邪神の愛し子にはどれ程の神罰が降るのか知りたくもないわ。
ああ、あの王子も邪教徒認定で良いわよね?」
打ちひしがれている皆を横目にアーニャとシルビアは出て行った。
もちろん行先はモフモフの国、獣人国だ。
他の勧誘していた国にも年に数か月滞在する契約が結ばれた。
それぞれの国からお手当も出されるので快適に暮らせるだろう。
愛し子ちゃんが快適なほど神も喜んでその地に祝福を与えるのだから。
かの国は天災続きで大変らしい。
国民は挙って出国しているのに王侯貴族は国を出られないらしい。
愛し子ちゃんの耳には入れないように周りは配慮しているそうだ。
少しでも思い出して不快にならないように。
モフモフな侍女に囲まれた愛し子ちゃんはそんなことを気にする暇もなかったけれど。
「ねえねえ神、愛し子ちゃんと聖女なわたしの扱いの差が激しいんじゃない?
そりゃあ、シルビアちゃんが好みなのは解るけど、わたしだけ危ない目に会うのは違うんじゃない?
居るだけで感謝される愛し子ちゃん、うらやましす。
神の寵愛は要らんけどね。
わたしもモフモフメイドカフェでゆったり暮らしたいよー。」
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