「俺がお前を愛することはない」と言われた次期辺境伯は王都へ進軍した

もぶぞう

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「俺がお前を愛することはない」と言われた次期辺境伯は王都へ進軍した

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「俺がお前を愛することはない。」


ボーソー王国の王都に2日前から響いている声が今日もお昼を告げる。
知り合いの騎士様によると元第三王子のチャーリー様と彼が婿に入ったウラーヤース辺境伯次期当主マリネーゼ様の会話を魔道具で再生しているそうだ。
貴族の婿って、つまりは種馬よね?
そのお役目放棄の宣言が婚姻の日に行われたと言うから驚きよね。
種馬と言ったら騎士様に苦笑いされてしまったけど。


「それは困りましたね。
わたくしは世継ぎを産まなければなりません。」


騎士様が既に王都は10万の兵に囲まれていると言った。
それも他国の兵ではなくボーソー王国各地の貴族の領兵や私兵だという。


「それならば、ソワレが産んだ子を嫡子とすれば良い。
父上も目障めざわりだった辺境伯家を自分の孫が継ぐのだ、喜んでくれるだろう。」


王都は兵が集まり始めた初日こそ混乱したけれど、ある程度情報が行き渡った今は以前と変わらぬ日常が過ごされている。
と言うより少し浮かれている。


「ソワレ様と言うのはわたくしが陛下にお願いしてチャーリー様と縁を切って頂いたはずの愛人ですわね?
婚約継続の条件として王命で遠ざけると約束頂いたのは反故ほごにされたのですか。」


国王側の兵たちは王都に響くやり取りを聴いて王と王子を守ることを止めたそうだ。
元々王都を囲む10万の兵にはかなわない数しか居ないのだけれど。
頼みの王国騎士団と近衛騎士団は貴族や貴族の子息が多いので辺境伯様の味方になって、王都の外での手合わせに忙しいそうだ。
特に辺境伯領の領軍には強者が沢山居るらしい。
この機会に教えを乞う者が列を作っているとか。


「父上が裏技を教えてくれた。
婚姻まではソワレにメイドの格好をさせて離宮に住まわせればお前に知られることは無いだろうと。
今回もメイドのフリをして同行しているぞ。
婚姻が済んだ今となってはどうしようもないだろう?」


何度聞いてもくずな国王と元王子だと王都の住民はあきれかえっている。
まあ、1か月前に録音されたというこの会話の片割れ、チャーリー元王子は既に処刑されたと聞いて留飲を下げてはいるけれど。
どうしようもない、なんてことは無くて、婚姻が済んだからこそご当主である辺境伯様がどうとでも処罰できたのだ。
婿に入ると言うことはご当主様の傘下さんかに入ると言うことなのだから当たり前よね。


「なるほど、ソワレ様とのお子を嫡子にするというのも陛下の案なのですか?」


次期辺境伯様は冷静に必要な言葉を引き出してるわよね。
お貴族様のご令嬢はこういう対処も学院で習うのかしら。
婿の愛人に様付けなんて普通出来ないわよね?


「まあな。
先に産まれた子を嫡子とすれば良いと父上が言っていた。
お前を愛さないのだからソワレの産む子が嫡子となるのが当たり前だろう。」


それは犯罪だろうと平民のわたしでも分かるわ。
貴族は血のつながりを重んじるのだから辺境伯様の血を少しも引かない子に継がせるとか、あり得んわ。


「もう十分でしょう。
誰か、この者を地下牢へ入れておきなさい。
お父様の沙汰さたを待ちます。
陛下の関与も白状させたので王都へ向かいましょう。
きっと国中の貴族が共に進軍してくれます。」


録音再生はここまで。
聞こえてるように、十分よね。
でもさすが次期辺境伯様。
女性なのに軍を率いて王都に向かうことを即決よ。
各領地には必要な兵を置いてきたと言うのに10万も集めるとか、人望も有るのね。


国王自らが貴族をないがしろにしたことがバレたのだから他の貴族たちも他人事ではないわよね。
騎士様によると〈爵位簒奪さんだつ〉と言う重罪だそうだ。
一族郎党死罪になることもあると言っていた。
一族と言うことは王族全滅よね?

王都の皆が協力して処刑の場を組み立ててる。
それに街角には投げ易い大きさの石が集められ山と積まれているの。
子供たちは的へ向けて投げる練習をしているわ。
わたしも練習しておかないと引き出された国王に届かないわよね?
首が落ちる前に1発は当てたいものね。
ほとんどお祭り騒ぎよ。
石を投げて人形の首を落とす屋台が大人気なのは当然の成り行きね。

王都を囲んでいる兵たちが周辺の魔物や獣を狩っているので王都に肉が豊富に入って来るの。
自分たち10万の兵の食料を確保した上で王都民に供給できるって、どれだけ狩っているのよ。
食べられないゴブリンも狩っているのよ?

これまた騎士様によると、今まで王都周辺の狩りが不十分だったので、これで王都周辺の魔物は安全なレベルまで減るだろうと安堵あんどしていた。
魔物を狩る冒険者に法外な税を掛けていたから不人気で狩られていなかったそうだ。
むしろ王都の方が辺境と呼ばれるに相応ふさわしい魔物の領域だと騎士様が笑っている。
兵たちが進軍の間も狩りをしていたので各地の魔物も減っているだろうとも言っている。
危険が多く運搬に高額な護衛を必要としていたから物価が高かったのも国王のせいらしい。
国王が冒険者を嫌いだったかららしいわ。
早く国王処刑されないかしらね。

一応、辺境伯様ひきいる軍は裁判を行うそうだ。
流れている録音だけで国王も死罪にできるでしょうに。
次の王を決めないといけないので、処刑までには少し時間が掛かるだろうと騎士様が予想している。
国王は兄弟たちや従兄弟を暗殺していたらしく、次の王の候補が少ないそうだ。
国王の終わりが見えているので密告が相次いで調べるのも大変らしい。
王子たちの余罪もどんどん明らかになっているとか。
さすが屑の一族ね。

騎士様は暇そうに話してくれてるけど、大丈夫なのかしらね。
国王派閥のお家出身じゃないから閑職へ追いやられていたそうよ。
これから忙しくなるかもしれないから、今はゆっくりしているらしい。
町を回っている下っ端にしては情報通ね、と思っていたけれど、意外とできる騎士様なのね?
国王派閥が消滅して、もう会えない程偉くなってしまうのかしら。
町の皆にも声を掛けてくれる良い騎士様だったのに。
見回りのお金を要求したりしなかったし、要求してた騎士を殴ってくれたりもした。


辺境伯様の領地内での犯罪なので裁判権を持つ辺境伯様が裁いて元第三王子は即処刑したそうよ。
元王族だけど、婿入りしたからには辺境伯領の領民。
しかも辺境伯家では新入りの一番下っ端の身分とされて当然だったらしいわ。
それなのにあんな偉そうにしているのはわたしでも不思議に思う。
だって入り婿なのよ?
話しているお相手は次期辺境伯様、つまり辺境伯領では2番目に偉いの。
それも辺境伯様からわれたのではなくて、国王のごり押しの婚約だったらしい。
辺境伯家に生まれる子供へ王位継承権が行かないように王族から籍も抜かれていたと聞いたわ。
王都から遠く離れた辺境伯領で、まだ王族のつもりで居たのかしら?

ああ言うのをお花畑の住人と呼ぶのね。
姿を見たことはなかったけど、お花畑で転がる自分の首を追いかける姿しか思い浮かばないわ。
ホラーね、やめてちょうだい。

未遂なのに処刑だけど、騎士様ならその場で首をねると言っていたわ。
むくろは魔物の居る森に捨てられたそう。
屑に相応しい終わりよね。

愛人は爵位なんたらの計画を聞いていなかったようで、関与無しとして修道院に送られたそうよ。
国王と元王子に振り回されただけなのかしらね。
無罪放免でないのは身分をいつわって辺境伯領へ入ったから。
スパイを一番警戒している領地だもの、もっと厳罰もあり得たそうよ。


10日後、騎士様が今までと違う鎧で皆に挨拶回りをしている。
あれからすぐに録音再生の音はしなくなった。
新しい王様にはお婆様が王女様だった侯爵様が決まったそう。
公爵家を飛び越えたのは元国王に暗殺された人が多くて公爵家の存在意義が無くなっているからだとか。
国王におびえて苦言もできなかったらしいわ。
皆、侯爵や伯爵に爵位が落ちるそうよ。

騎士様と言えば、新しい王様の近衛になるそうだ。
町回りの警備から王様周りの護衛に成るなんてかなりの出世よね。
元から実力が有ったのに元国王の被害者だったのね?


元国王は明日処刑される。
第一、第二の元王子も一緒に。
元王妃様や元王女様は爵位なんたらに関与しておらず、余罪も無かったことから数年離宮に隔離されるだけで済むそう。
元国王は男尊女卑の考えらしく、女性王族には何もできないようにしていたのが幸いしたようね。
一応保護の意味も有っての離宮行きとなった。
元国王から受けた暴力の心の傷を癒す為にふたりで過ごす期間となるらしい。

男尊女卑の元国王は女性である次期辺境伯様が継ぐのにも不満が有ったらしく、爵位なんたらを思いついたそうだ。
元第三王子はただ愛人が好きだっただけと明らかにされた。
愛する愛人の子に爵位を継がせたかったのは本心からだったみたい。
純粋と言えなくもないけど、元国王に利用されたのね。
婚姻後に愛人を持つだけなら、その愛人の子に辺境伯を継がせると言わなければと、たらればはあるけれど済んでしまったことは致し方ない。

愚かな元王子の罪は罪。
婿入りなんてせずに公爵家を起こせば愛人や愛人の子と幸せに暮らせたかもしれない。
優しい騎士様はそんな有ったかもしれない未来を語っていたわ。
それをつぶしたのは元国王と元第三王子自身だとも。

王都では元国王の罪を白状した部分だけ、元第三王子はめられてる。
他の大きな町でもあの録音再生が流されていたそうだから、全国民が前国王と元王子たちを処刑する足掛かりとなったことを評価しているだろうと騎士様、いえ、近衛騎士様が言っていたわ。

次期辺境伯様が上手く酒で口が軽くなった元王子に必要なことを白状させて王国を救ったと騎士様一番の評価だった。
馬鹿とはさみは使いようと言うのだと最後に教えて頂いたわ。

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