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第六十五話
しおりを挟む親フェンリルが王都までやって来た。
一応精霊を通じてミュリエルたちが暴れないよう説得はしてあるようだ。
『我が子を返せ。
拒むならばこの壁の向こうで探すこととしよう。
我を阻む者は相応の対応をさせてもらう。』
「おお、フェンリルともなると人の言葉話せるんかい。
流石高位の魔物だな。」
「ナギサ、あなたフェンリルの言っていることが分かるの?
わたしたちは精霊を通じて意思疎通しているだけよ?」
「あ、転移に付随する言語理解か。
フェンリル相手だと言語として認められるんだな。
おーい、フェンリルさんや、俺の言葉分かったりする?」
『ああ、話ができる者が居るのだな。
とにかく我が子を返すようにこの者たちに伝えてくれ。』
「ほーい、フェンリルさんは子供を返せと言ってるけど?」
「そうね、精霊も同じことを伝えてるわ。
本当にフェンリルと会話できるのね。
(久しぶりに異世界人の理不尽さを思い出したわ。)」
「で?王太子はどうするって?
返さないと自分で王都の中へ探しに行くと言ってたけど?」
「まだ王太子に引き渡される前だと思うわよ。
貴族が素直に諦めるとも思えないわね。」
「親フェンリルが来てるってのに呑気なものだね。
暴れられたら王都滅ぶだろうに。
交渉に応じてくれている間に解決しないとヤバいことになるでしょ。」
「そうね、相手が理性的なフェンリルだから助かっているけれど、暴れられたら王都は更地になるわね。
それで、兵隊さん、どうしろと命令は来てるの?」
王城側も突然の親フェンリル来襲で対応できていないようだ。
そんなもの予測しとけや。
「フェンリルさん、もうちょっと待っててもらって良いですかね?
ここから動くと絶対ちょっかい掛けて来る奴が出て面倒なことになると思うので。」
「ナギサが毛皮のお手入れしてあげたら良いんのではないの?
浄化しておいた方がお互いのためになるわよ?」
『ふむ、そこのダークエルフのような毛艶になるのならばやってもらおうか。
我が子の気配は捕えているから問題は無さそうだな。』
おい、精霊さんも同時通訳してるんじゃないよ、知らんけど。
後で子フェンリルも浄化する流れじゃないだろうな。
「まあ、折角なのでやりますか。
これはブラシでやった方が良いな。」
身体が大きいので何時間掛かるやら。
4tトラックくらい有るんじゃない?
どこかの姫サンの乗ってるのより大きいだろ。
「ブラシに残った毛はわたしに頂戴。
フェンリルの素材なんて久しぶりだわ。」
ミュリエルさん、ちゃっかり素材ゲットですか。
ローション代より高そうだよね?
2時間掛かって尻尾の先まで艶々。
「浄化も上手くいったようね。
ここまで艶々だと神獣みたいに見えるわ。」
抜け毛も沢山集まってミュリエルは上機嫌だ。
そろそろ王太子がどうにかしてくれないと、時間稼ぎのネタは無いぞ。
「ミュリエル殿、ナギサ殿、待たせたな。
捕えられたフェンリルを連れて来たぞ。」
王太子自ら魔物の前に出て来てどうするよ。
俺たちが親フェンリルさんと仲良くしてるとでも思ったのか?
「フェンリルを捕えさせた伯爵は王都を危険に晒した咎で捕えた。
フェンリルよ、子供はお返しする。」
『ナギサとやら、この子も浄化してやってくれるか。
人の住処に居たせいで我より穢れている。』
「はいよー、施術代は王国からもらっておくよ。
人の町で穢れる魔物ってどうなってるのよ。
ちょっとお子さん暴れないように押さえておいてね。」
親フェンリルが子フェンリルの首に前足を掛けて押さえたので浄化する。
ちょっと子フェンリルの後ろ足に怪我が有るな。
これが原因で捕えられたのか、捕えられるときに付いた傷なのか分からないけどヒールで治す。
親の半分以下の大きさなので浄化も1時間で終わるだろう。
何となく慣れたし。
「フェンリルたちはわたしたちの方で預かるわ。
丁度良い山と森が有るからそこに住んでもらうわよ。
獲物も居るし浄化もすぐにできるから良いでしょう。」
隠れ里近くで捕まらない場所に放すのね。
町に浄化されに来るのだろうか。
俺たちは王太子に2頭分の浄化代金を請求して飛行場の方へと帰る。
運河で別の子フェンリル2頭が遊んでいるそうだ。
魚とか居ないから詰まらんだろうに。
その2頭分の浄化費用も請求しておけば良かった。
フェンリル4頭は後でミュリエルたちが転移で里へ連れて行くそうだ。
攻撃されない限り人は襲わないらしいので大丈夫かな。
結界でよそ者は入れないからな。
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