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第三話

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翌朝、子爵夫妻と朝食を共にし、治療結果は良好であると報告をもらった。
令嬢たち重症だった者たちは体力が衰えているので、すぐに起き上がることはないが、軽い食事は摂れているらしい。
後で彼女たちには念の為、もう一巡治癒魔法掛けてもらいましょうかね。
彼女たちの全快が確認できるのには時間が掛かるだろうから、1週間後に再び訪れることとなった。
子爵からの報酬は既にギルドに振り込まれているそうだ。

もう一巡治療してからお暇しようと思っていたのだが、令嬢と侍女さんたちはベッドを降りていた。
あれれー、おかしいぞー、何で一晩でここまで回復するかな。
すぐに起き上がることはないはずじゃなかった?
やつれて痩せていたのも少し戻ってるような。

ミュリエルとセラフィナさんの魔法が優秀?
多分それはあるのだろう。
他の人が同じ治療してもここまでの効果は無いと思う。

それとも治癒の魔法で傷が塞がるように、病気も掛かる前の状態に戻るのだろうか。
いや、あれは傷の再生促進のはずだ。
光魔法であって、時空魔法ではないはず。
そもそも菌やウィルスの考えが違っていたのかもしれない。
元々魔法の有る世界。
ピュリフィケーションが効いたということは、瘴気みたいなものが原因だった可能性も有る。
人に害が有るものという括りで菌なども瘴気と同じ扱いなのかもしれない。
それとも魔物化した菌、ウィルスだとか。

それにしても回復の早さよ。
人体の作りが違うのだろうか。
ゲームみたいにHPさえ回復すれば全快に成るのだろうか。

HP1残せ万能説が有力になりそうだけど、色々な可能性で頭の中がぐるぐる。
これはあれだわ、転生だか転移だかで俺orわたしが主人公って言い出す奴が居るのが判るわ。
あっちと違い過ぎる何でも有な世界。
自分に都合よく動いてるように感じるんだろうな。
他の人も同じ恩恵を受けてるのを忘れちゃうんだ。
つまり、考えるのがめんどくさい。
俺は主人公体質ではないので思考停止しない。

だが今は市場でお野菜見るんだ。
お米があるかもしれないじゃないか。
良くある、飼料喰うのか、と聞かれるんだ。
あるいは東の島国から運んでるとか言われるんだ。
原産地はそこじゃないだろうとか思っちゃダメなんだ。

「ナギサ?大丈夫?何か目が死んでるわよ?」

「大丈夫、大丈夫。
ただ摩訶不思議世界が改めて俺を襲って来ているだけだから。
ミュリエルとの楽しい生活の為ならどんな理不尽も無視して取り込んでみせる。」

「そこは理不尽と戦うべきじゃないの?
あっちではそういうものなの?」

流石Sクラス冒険者、数々の理不尽を粉砕してきたんだろうな。
知識チートっぽかったのに根本から違った可能性に、俺は限界の有る一般人だったことを思い出しただけなのだ。
そうさ、ご都合主義でないフィクションなど無いと軽井沢なコマ外が言ってたじゃないか。
あちらでの想像上の異世界とは違う異世界なんだ、ここは。


とりあえず色々買えたので帰りましょうかね。

「セラフィナはどうする?
うち来る?」

「そうね、予定していたより早く終わったからお邪魔するわ。
まだ聞きたい事も有るし。」

町の外へ出て転移で帰る。
行きも帰りもミュリエルの転移なのですよ。
もううちの嫁が最強かと思ってたのにSランクエルフさんの出現で最強が結構居る世界だと理解したのだ。
魔王倒せとかでこの世界へ呼ばれた訳では絶対無いと確信した。
きっと魔王とかは名乗った瞬間に泣かされるぞ。

黒の森の家に着いてから屋台で買った物で昼食にする。
ミュリエルのストレージに入れていたのですよ。
セラフィナさんも同じように取り出してるし。
最強さんたちは俺が聞きかじった魔法はすべて使えるに違いない。


「わたしが強く成る可能性を見せて頂戴。」

美人エルフSランク冒険者は設定を増やしたいようだ。
まだ211歳と若いので貪欲なのだとミュリエルが言っている。
江戸幕府を1代で済ませそうな年齢でも若いのです。
青春だったね、で済みそうな寿命なのです。

とは言え、生活魔法がやっとの俺では無理なのでミュリエルにお願いする。

「ミュリエル、掌に火を出して、そこに酸素送り込むイメージで。
火が拡がるかもしれないから気を付けてね。」

そうです、定番、見た目に派手な燃焼促進。
簡単だけど使い道は思い付かない魔法ですな。
金庫とか鉄の扉を破ることは無いだろうから。
鍛冶に使えるかもしれないけど、金属も異世界仕様なんでしょう?。
ふいごで空気送り込むのと違いが判らないかもしれないのが難点か?
然程違いが無いとも言えるが。

「あっちでは魔法が無いから、物の性質とか、現象の仕組みとかが研究されてるんだ。
魔法と組み合わせることで威力も上がるし、使い方も広がるんじゃない?
ただ、その知識が通用するとも限らないと、ついさっき気が付かされたんだけど。」

「なるほど、病気の仕組みも知られてるんだね?
その炎の使い道は思い付かないけど、知ってると知らないじゃ、いざと言うときに差が出るって事ね。
一応、病気は治ったんだから良いじゃない。
わたしも教えてもらいたいけど、Sランクとしてあちこちに呼ばれるから時間がね。」

「だからこそ妻に成って少しでも一緒に居られる様にするのよ、セラフィナ。
ナギサを良く知れば変な依頼よりナギサを優先する様になるわ。
大体あなたじゃなきゃダメな依頼なんて殆ど無いでしょう?
あなたが何でも引き受けるからギルドが調子に乗ってるのよ。
一度休んで思い知らせてやる方がお互いの為にも良いわ。
Sランク様が便利使いされちゃダメ。
他の2人のSランクなんて殆ど表に出て来ないって聞いているわよ。」

Sランク冒険者3人しか居ないのかー。
恐らく冒険者ギルドは世界中に拡がってるだろうから、世界最強の3人か。
ミュリエルみたいにランクに出ない人も多いだろうから10人くらいの最強が居るな。
本来、そんな最強なSランクが呼ばれる案件が頻繁に有ったら世界滅ぶだろ。
Noと言わないエルフなのかな、セラフィナさんは。

「そうね、依頼にかこつけて言い寄って来る男を断るのも面倒だし、少し依頼受けるの減らすわ。
まあ、妻になるかはしばらくここにお世話になって考えるわね。
代わりにわたしも魔法や剣を教えるから。」

「そう?いつでも妻になると言ってくれて良いのよ。
わたしはセラフィナを歓迎するわ。
わたしが出掛けて居る間はナギサを任せるわね。
これで遠くへ泊り掛けでも安心して行けるわ。
セラフィナもいつでも狩りにも行って構わないから。」

執行猶予が付いたようです。
俺もいつでも歓迎しますけどね。
「遠くへ泊り掛け」って転移使えるのにふたりきりにする気満々だな。

それからセラフィナにもあっちの世界の様子を話した。
ミュリエルには前に話した内容も有ったが楽しそうに聞いている。
まあ、彼女らにすればおとぎ話みたいなもんだからね。

そして折角だから新しい家を建てることに決まった。
あちら式の道具を出来る限り再現した上で。
ミュリエルは家電に興味を持ったので錬金術を使って作る気に成っている。
まずは灯りの道具を考えていた。
セラフィナは水洗トイレを絶対新居に設置すると言っている。
シャワー式のあれはミュリエルと要相談な状態だ。

そうなると下水処理のシステム考えないとな。
良く有るスライムが何でも取り込んで溶かしちゃうってのはこの世界でもアリだった。
しかもスライムの表皮はゴム替わりに使えそうだし、中身は接着剤に成ると言う。
スライムが優秀素材過ぎてその内狩り尽くされるんじゃね?
まあ、どんどん沸くし、それ程の害にも成らないから大丈夫と言われた。

そして間取りは、と思ったら、ミュリエルが2階建てを主張した。
どうせ増えるんだから、と謎な理由で。
いやいや、増える機会は無いと思うのですけれど。
むしろミュリエルとセラフィナが無双しててモテモテだろう。

俺はお風呂設置の希望だけは出しておいた。


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