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「彩香ちゃん、おみやげありがとう。鷹文くんからもらったわ。おいしかったぁ」
修学旅行から帰った次の日の斉藤家。
彩香はもうバイトを再開していた。
「よかったです。本当はふたばの大福にしようかと思ったんですけど」
「あー、あの豆大福!食べたかったぁ」
「日持ちしないですからね・・・」
「そうよねぇ。あれは買った日に食べないとねぇ・・・行きたくなってきちゃったわ」
彩香は、カウンター席に座った和泉の前にお茶を置いた。
「ところで先生はどうでした?」
「あー、いつも通りよ。パンとコーヒー」
「だから作り置きのもの、あんまり減ってなかったんですね」
「夜はね、私が来るから温めて一緒に食べさせてもらったんだけど、朝はねぇ・・・来るともうパンとコーヒー食べ終わってるのよ・・・」
和泉が苦笑いしていると、マグカップを持った盛雄がやってきた。
「彩香くん、おかわりいただけますか?」
「はい、お待ち下さい」
「あーキタキタ、コーヒーおじさん」
「なんですか和泉くん。コーヒーおじさんとは」
「だって先生、朝食は・・・」
「あっそれは、彩香くんには・・・」
「もう聞きましたよ、先生。朝ごはんちゃんと食べてくださらなかったんですね」
「す、すいません・・・」
盛雄は母親に叱られる子供のように小さくなった。
「鷹文くんは覚えてくれましたから、今度は先生にお料理教えましょうか?」
彩香はにっこりと微笑んだ。
「い、いえ!それはぜひ、和泉くんに・・・」
「ご飯炊いてお魚焼くくらいできた方がいいですよ」
「それはそうですが・・・」
「あはは。キッチンで魚焼いてる先生なんて、なんか想像できない!」
和泉が笑った。
「わ、私だって昔はやっていたんですよ」
「大学に入って上京して一人暮らしを始めた、あの頃はまだ私も、紅顔の美少年でした・・・」
盛雄が昔を懐かしむように回想を始めた。
「風呂もない四畳半一間の安アパートで、赤貧に耐えつつも火鉢で一本のイワシを焼く慎ましい生活を送り・・・」
「あれ?先生のご実家ってお金持ちじゃありませんでしたっけ?」
「うっ・・・それは・・・」
「うわぁ、過去の捏造とか」
「そ、創作です!新しい小説の!」
「へぇー、そうですか。じゃあその新しい小説について詳しく伺いましょうかぁ」
「い、いや、ですから・・・」
「はい先生、こっちへいらっしゃい」
和泉は、彩香からマグカップを受け取り、盛雄を書斎へ連行していった。
「相変わらず仲良いな」
二人を見送った彩香は、残った煮物をどうアレンジしようか考えながら、夕食の支度を再開した。
その頃鷹文は、2階の自室で自分の机に向かっていた。
すると、盛雄にお説教を終えて満足顔の和泉が、鷹文の部屋にやってきた。
「ねえ鷹文くん、橋畑さんに会ったって聞いたけど?」
「えっ、どうして知ってるんですか?」
「そりゃあ私、一応業界の人だし」
「そういえば・・・」
すっかり忘れていたという顔の鷹文。
「なんかひどくない?」
「いや、普通に家にいる人だから有名人と知り合いなんて、なんか想像つかなくて」
「あー、まあそうよね。で、なんか橋畑さん、鷹文くんのこととっても気に入ってたみたいだけど、何かしたの?」
「いえ、学園祭のことで話しただけです」
「そうなんだ・・・」
「まあ、映画のアイディアに繋がったみたいですけど」
「そうなの⁉︎それすごいじゃない!この前あった時、めっちゃ煮詰まった顔してたのよ、橋畑さん」
「そうなんですか?ああ、そういえばそんなこと言ってましたね」
鷹文は、京都でのやりとりを思い出した。
「でしょ。それ解決させたんなら・・・やるわね、鷹文くん。で、どんなこと話したの?」
「玲からまた1曲書けって言われてたんですけど」
「あー、あれね」
「はい。それを演劇部の劇で使わせてもらいたいなって」
「・・・なるほど。次作にリンクさせたってわけね」
「はい」
「だからアニメなのに実写班準備するとか息巻いてたんだ」
「はい、学園祭の舞台、撮影に来るって言ってました。ってあれ?言っていいことだったのかな?」
「大丈夫よ。私、関係者だもん」
「・・・玲がらみですか?」
「ええ。私、玲ちゃんのマネージャーだし」
和泉は得意げに胸を張った。
「相変わらず手広くやってますね」
「まあねぇ。で、どうなるんだって?」
「映画の方にも学園祭のシーンがあるらしくって、それをうちの舞台をもとに作るみたいです」
「それって、鷹文くんが脚本書くとか言ってたやつ?」
「はい。実際にアニメでもその脚本使うみたいです」
「うわぁ。1シーン丸投げってわけ。そりゃあ喜ぶわ」
「でもクオリティが低ければ使わないって」
「そうなんだ。でも元々作中だって高校生が作ってるわけだし。リアル高校生が作るなんてある意味本物じゃない」
「ああ、そういう考え方もありますね」
「作品のクオリティって意味じゃむしろ良くなるとも言えるわね。橋畑さんが書いたんじゃ洗練されすぎちゃう可能性もあるでしょ」
「なるほど・・・」
「あー、別に鷹文くんのが悪いって言ってるわけじゃないのよ。あくまでも橋畑さんが作ったら大人の感性になっちゃうってだけで」
「・・・フォローありがとうございます」
「あははぁ。鷹文くんって意外とめんどくさいわね」
「そうですか?」
「まあいいじゃない。脚本家デビューできるんだし」
「いえ、そのつもりはありません」
鷹文はキッパリと言った。
「そうなの?」
「はい。今回は俺の名前は出さないってことでお願いしました」
「あら、もったいない」
「小説で勝負したいですから」
「そっか・・・ってことはペンネームで出すの?」
「まあ、そうなりますね」
「もう名前決めたの?」
「・・・」
鷹文は答えない。
「決まってるんだ」
和泉がにやりと笑った。
「橋畑さんが・・・」
「何なに、面白い名前とか?」
「いや・・・多分、普通、です」
「ねえ、教えてよ」
「いやです」
「そっかぁ、じゃあ橋畑さんに直接聞いちゃお!」
和泉がスマホを取り出した。
「わ、わかりました!・・・せ、St.Hawk」
「セイントホーク⁉︎ぷーっ!めちゃくちゃ厨二!」
「サファイア様に言われたくありません!」
「あら言うわね、セイントホーク!」
言いながら、和泉はケラケラ笑った。
「・・・鷹 hawk
文 sentence→St.
ってことらしいです」
鷹文は顔を赤くしてそっぽを向いた。
「まあ、高校生脚本家につける名前としては・・・いい、わね」
和泉はこみ上げる笑いをおさえられなかった。
「それ、クレジットされるんでしょ?」
「はい・・・メール?」
開いていたパソコンにメール着信のメッセージが表示された。
「・・・橋畑さんからだ」
メールを開くと、なんのコメントもなく、ただURLだけが表示された。
「ムービーダウンロードするみたいね」
「なんでしょう?」
鷹文は、リンクをクリックした。
修学旅行から帰った次の日の斉藤家。
彩香はもうバイトを再開していた。
「よかったです。本当はふたばの大福にしようかと思ったんですけど」
「あー、あの豆大福!食べたかったぁ」
「日持ちしないですからね・・・」
「そうよねぇ。あれは買った日に食べないとねぇ・・・行きたくなってきちゃったわ」
彩香は、カウンター席に座った和泉の前にお茶を置いた。
「ところで先生はどうでした?」
「あー、いつも通りよ。パンとコーヒー」
「だから作り置きのもの、あんまり減ってなかったんですね」
「夜はね、私が来るから温めて一緒に食べさせてもらったんだけど、朝はねぇ・・・来るともうパンとコーヒー食べ終わってるのよ・・・」
和泉が苦笑いしていると、マグカップを持った盛雄がやってきた。
「彩香くん、おかわりいただけますか?」
「はい、お待ち下さい」
「あーキタキタ、コーヒーおじさん」
「なんですか和泉くん。コーヒーおじさんとは」
「だって先生、朝食は・・・」
「あっそれは、彩香くんには・・・」
「もう聞きましたよ、先生。朝ごはんちゃんと食べてくださらなかったんですね」
「す、すいません・・・」
盛雄は母親に叱られる子供のように小さくなった。
「鷹文くんは覚えてくれましたから、今度は先生にお料理教えましょうか?」
彩香はにっこりと微笑んだ。
「い、いえ!それはぜひ、和泉くんに・・・」
「ご飯炊いてお魚焼くくらいできた方がいいですよ」
「それはそうですが・・・」
「あはは。キッチンで魚焼いてる先生なんて、なんか想像できない!」
和泉が笑った。
「わ、私だって昔はやっていたんですよ」
「大学に入って上京して一人暮らしを始めた、あの頃はまだ私も、紅顔の美少年でした・・・」
盛雄が昔を懐かしむように回想を始めた。
「風呂もない四畳半一間の安アパートで、赤貧に耐えつつも火鉢で一本のイワシを焼く慎ましい生活を送り・・・」
「あれ?先生のご実家ってお金持ちじゃありませんでしたっけ?」
「うっ・・・それは・・・」
「うわぁ、過去の捏造とか」
「そ、創作です!新しい小説の!」
「へぇー、そうですか。じゃあその新しい小説について詳しく伺いましょうかぁ」
「い、いや、ですから・・・」
「はい先生、こっちへいらっしゃい」
和泉は、彩香からマグカップを受け取り、盛雄を書斎へ連行していった。
「相変わらず仲良いな」
二人を見送った彩香は、残った煮物をどうアレンジしようか考えながら、夕食の支度を再開した。
その頃鷹文は、2階の自室で自分の机に向かっていた。
すると、盛雄にお説教を終えて満足顔の和泉が、鷹文の部屋にやってきた。
「ねえ鷹文くん、橋畑さんに会ったって聞いたけど?」
「えっ、どうして知ってるんですか?」
「そりゃあ私、一応業界の人だし」
「そういえば・・・」
すっかり忘れていたという顔の鷹文。
「なんかひどくない?」
「いや、普通に家にいる人だから有名人と知り合いなんて、なんか想像つかなくて」
「あー、まあそうよね。で、なんか橋畑さん、鷹文くんのこととっても気に入ってたみたいだけど、何かしたの?」
「いえ、学園祭のことで話しただけです」
「そうなんだ・・・」
「まあ、映画のアイディアに繋がったみたいですけど」
「そうなの⁉︎それすごいじゃない!この前あった時、めっちゃ煮詰まった顔してたのよ、橋畑さん」
「そうなんですか?ああ、そういえばそんなこと言ってましたね」
鷹文は、京都でのやりとりを思い出した。
「でしょ。それ解決させたんなら・・・やるわね、鷹文くん。で、どんなこと話したの?」
「玲からまた1曲書けって言われてたんですけど」
「あー、あれね」
「はい。それを演劇部の劇で使わせてもらいたいなって」
「・・・なるほど。次作にリンクさせたってわけね」
「はい」
「だからアニメなのに実写班準備するとか息巻いてたんだ」
「はい、学園祭の舞台、撮影に来るって言ってました。ってあれ?言っていいことだったのかな?」
「大丈夫よ。私、関係者だもん」
「・・・玲がらみですか?」
「ええ。私、玲ちゃんのマネージャーだし」
和泉は得意げに胸を張った。
「相変わらず手広くやってますね」
「まあねぇ。で、どうなるんだって?」
「映画の方にも学園祭のシーンがあるらしくって、それをうちの舞台をもとに作るみたいです」
「それって、鷹文くんが脚本書くとか言ってたやつ?」
「はい。実際にアニメでもその脚本使うみたいです」
「うわぁ。1シーン丸投げってわけ。そりゃあ喜ぶわ」
「でもクオリティが低ければ使わないって」
「そうなんだ。でも元々作中だって高校生が作ってるわけだし。リアル高校生が作るなんてある意味本物じゃない」
「ああ、そういう考え方もありますね」
「作品のクオリティって意味じゃむしろ良くなるとも言えるわね。橋畑さんが書いたんじゃ洗練されすぎちゃう可能性もあるでしょ」
「なるほど・・・」
「あー、別に鷹文くんのが悪いって言ってるわけじゃないのよ。あくまでも橋畑さんが作ったら大人の感性になっちゃうってだけで」
「・・・フォローありがとうございます」
「あははぁ。鷹文くんって意外とめんどくさいわね」
「そうですか?」
「まあいいじゃない。脚本家デビューできるんだし」
「いえ、そのつもりはありません」
鷹文はキッパリと言った。
「そうなの?」
「はい。今回は俺の名前は出さないってことでお願いしました」
「あら、もったいない」
「小説で勝負したいですから」
「そっか・・・ってことはペンネームで出すの?」
「まあ、そうなりますね」
「もう名前決めたの?」
「・・・」
鷹文は答えない。
「決まってるんだ」
和泉がにやりと笑った。
「橋畑さんが・・・」
「何なに、面白い名前とか?」
「いや・・・多分、普通、です」
「ねえ、教えてよ」
「いやです」
「そっかぁ、じゃあ橋畑さんに直接聞いちゃお!」
和泉がスマホを取り出した。
「わ、わかりました!・・・せ、St.Hawk」
「セイントホーク⁉︎ぷーっ!めちゃくちゃ厨二!」
「サファイア様に言われたくありません!」
「あら言うわね、セイントホーク!」
言いながら、和泉はケラケラ笑った。
「・・・鷹 hawk
文 sentence→St.
ってことらしいです」
鷹文は顔を赤くしてそっぽを向いた。
「まあ、高校生脚本家につける名前としては・・・いい、わね」
和泉はこみ上げる笑いをおさえられなかった。
「それ、クレジットされるんでしょ?」
「はい・・・メール?」
開いていたパソコンにメール着信のメッセージが表示された。
「・・・橋畑さんからだ」
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「なんでしょう?」
鷹文は、リンクをクリックした。
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