家政婦さんは同級生のメイド女子高生

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「先輩!」
麻希は鷹文を追いかけてついには鷹文の部屋まで上がり込んでいた。
憧れの先輩の部屋に初めて入ったのに、そのことにも気付いていないようだ。
「今日こそは受けてもらいます!」
麻希は紙束を鷹文の前に置いた。
「なんだこれ?」
「署名集めました」
「署名?」
「よく見てください」
言われて一番上の髪を見ると、そこには『2年3組の斉藤隆文さんが演劇部の脚本を書くことに賛成する署名』と書かれていた。
「100人分集めました。先生も入ってるんですよ!」
「お、おまえ・・・」
麻希は自信たっぷりに机に座る鷹文を見下ろした。
「どうですか?もうみんな知っちゃってるんですよ。やらないなんて言えませんよね」
余裕の笑みを浮かべる麻希。

「鷹文くん、お客様?」
とドアをノックする声が聞こえた。
「あ、ああ」
「お茶持ってきたんだけど」
と彩香がドアを開けた。
「やっぱり麻希さんだったのね」
入ってきた彩香がニコッと微笑んだ。
「な、なんでメイド服・・・」
バイトをしていることは知っていたが、あられもない姿の彩香を見て、麻希は開いた口が塞がらなかった。
「あっ・・・そ、そうよね。変よね・・・でもこれ、意外と動きやすいのよ」
と彩香もわけのわからない言い訳をした。

それから彩香は、麻希にメイド服になった経緯を話した。
「遠野先輩のメイド服姿とか・・・誰かに知られたら大変ですね」
「・・・かなり知られちゃったけどね」
彩香が苦笑いした。
「ところで彩香先輩」
「なに?」
「これ、見てください」
「うわぁ、すごい!署名集めたんだ」
「はい。先輩も書いてもらえませんか?」
「わたしが?」
「はい。身内に近い人の署名があれば効果も大きいですから」
「お、小野田!」
「麻希さん、明衣から聞いたんだけど、鷹文くんの舞台ってそんなにすごかったの?」
「はい。わたしも2回見て、2回とも感動しました」
「そうなんだ。鷹文くんが書いたら、またそんな素敵なお話できるのかな?」
「はい!絶対できます!」
「お、おい!」
「鷹文先輩なら間違いないですよ!」
麻希がダメ押しした。
「そう・・・じゃあ」
彩香は空欄に自分のクラスと名前を記入した。
「ありがとうございます!鷹文先輩、彩香さんのサインももらいましたよ」
麻希は嬉しそうに彩香のサインを見せた。
「さ、彩香・・・」
「頑張ってね、鷹文くん」
彩香にそう言われた鷹文は、ガックリと肩を落とした。

「ねえ、鷹文、最近あの子といつも一緒にいるみたいだけど、何かあったの?」
日付は変わって朝の教室。今日は麻希が来なかった代わりに、玲が鷹文の机の前に立っていた。
「あの子?」
「あの子って言ったらあの子でしょ!演劇だかなんだか鷹文に書かせようとしてる」
「ああ、小野田か。台本書くことになってな」
鷹文は本に目を落としたまま答えた。
「ななな、なんですって!じゃ、じゃあ私の方早く仕上げてよ!」
「やるって言った覚えはないが・・・」
「ねえ大和、鷹文、まだこんなこと言ってるわよ。交渉の件どうなってるの?」
「す、すまん。あれからまだ・・・」
どうにも玲には逆らえない大和が、自分の席からやってきた。
「あんたなにのんびりしてるの?」
「・・・頼むよ鷹文。前に話したことあるだろ。オレ、親父とは関係ないところでチャレンジしてみたいんだ」
「・・・そういえば言ってたな」
鷹文は大和を見た。
「だからさ、チャンスなんだよ。今回の話」
「他のやつじゃダメなのか?」
「わかってるだろ。おまえの歌詞があったから向こうも興味持ったんだ。だから、おまえじゃなきゃダメなんだよ!」
鷹文は黙ったまま答えない。
「なあ、頼むよ」
「やりなさいよ、鷹文」
大和はすがるように、玲は相変わらず高飛車な態度を崩さずに、鷹文を見つめている。
「・・・今回はテーマ、ちゃんとしてるんだろうな?」
「前だってちゃんとしてたじゃない!」
といいながら玲が『制作概要』と書かれた紙の束を突きつけてきた。
「・・・さすがプロの仕事だな」
パラパラとめくりながら鷹文は唸り声を上げた。
「なに言ってるの、まだこんなのほんのラフよ。一応あんたたちの方は学園祭までに仕上がりってことになってるけど、デモはできるだけ早く聴きたいって言ってたから、6月中には仕上げてね」
「・・・完全にかぶるな」
麻希の台本も修正は何度してもいいから、できるだけ早めにとお願いされていた。
「あっちはアマチュアでしょ。こっちはスポンサーもある大きな仕事よ。どっちが優先かわかるでしょ」
「・・・大和、おまえはどれくらいかかりそうなんだ?」
「最低でも一か月はほしいな。今回のは学生イベントじゃないわけだし」
「だよな・・・」
「で、鷹文はどうなの?やってくれるんでしょ?」
期待の目を向ける玲に、すがるような目の大和。
「・・・やれるだけやってみるか」
「ありがとう鷹文!」
「頼んだわよ、2人とも!」
鷹文の返事に、玲もほっと胸を撫で下ろした。

それから鷹文は、また自室に篭ることが多くなった。
「・・・やっぱり、こっちからだよな」
鷹文は企画書と去年自分が書いた歌詞を何度も読み返していた。
「鷹文くん、玲さんの方も受けたの?」
彩香が鷹文のマグカップをお盆に乗せて入ってきた。
「ああ。これ、見てみろよ」
「『制作概要』・・・本当にプロのお仕事なのね」
「内容もさ、去年俺が書いた歌詞にリンクしてるんだ」
「すごいじゃない、鷹文くん。プロに影響を与えるなんて」
「俺が一番驚いてるよ。まさかそんなすごいことになるなんて考えてもみなかったから」
「そうよね。ちゃんとやらなきゃだね」
「そうだな」
「がんばってね」
「ああ。コーヒーサンキュー」
「ううん。何かあったら声かけてね」
彩香は鷹文の部屋を後にした。
「さて、どうやってまとめるか・・・」
鷹文はまた企画書に向かった。
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