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「ふわぁ、やっと着いたぁ・・・ねえ、もうお昼だいぶ過ぎてるよねぇ」
高尾山口駅の改札を出た彩乃は、甘えるような目で彩香を見つめた。
「わかってるわよ。お蕎麦でしょ?ほんと食いしん坊よね、彩乃は」
呆れ顔で答える彩香。
「えへへぇ。お姉ちゃん鷹文さん、早く行こうよ!」
彩乃に引きずられるようにして3人は蕎麦屋に入った。

「ふう、お蕎麦おいしかったですね!」
「ああ。とろろそばなんて初めてかも」
「私も。今度お姉ちゃんに作ってもらおうっと!
あっ、そいういえば今日のお姉ちゃんのマフラー、鷹文さんのプレゼントですよね?」
今日の彩香は、ホワイトデーにもらったオフホワイトのマフラーをしていた。
「そ、そうだけど」
いきなりの質問に、鷹文はうろたえながら頷いた。
「お姉ちゃんすっごく喜んでましたよ。あの日お姉ちゃんの部屋覗いたら、嬉しそうにあのマフラーしてカメラいじってました」
「そうなのか?っていうか俺にそんなこと言っていいのか?」
「うふふ。鷹文さんなら黙っててくれるでしょ?」
彩乃は含みのある笑顔を向けた。
「ま、まあな。余計なこと言っても仕方ないし」
言ってしまった後の方が怖いだろ、と鷹文は想像した。
「ですよねぇ」
「・・・ところで彩香は?」
こんな話をしてていいのかと辺りを見回すと、いつのまにか彩香がいなくなっていた。
「ああ、お姉ちゃんならあっちですよ」
といつのまにかスマホを手にした彩乃が遠くにいる彩香を指差した。
「もう撮ってるんだ」
「はい。カメラ持つといつもあんな感じですよ。それよりいいんですか、鷹文さん。お姉ちゃんの荷物持ちみたいな真似して」
鷹文は、彩香の三脚を手に歩いていた。
「ああ。彩香と歩いてるとただでさえ注目されるのに、俺が手ぶらだったら周りの目が余計に怖いからな」
「・・・なるほど」
納得する彩乃だった。
「それより、彩香は一人にしておいて大丈夫なのか?」
「・・・見ててくださいね」
彩乃が怪しげな笑みを浮かべた。
ガタン!
「ご、ごめんなさい」
パシャ!
「謝ったな・・・」
「謝りましたねぇ」
看板にぶつかった彩香は、よく確かめもせずすぐに頭を下げた。
「・・・こんな感じです」
とその光景をスマホに写した彩乃は、得意げに鷹文に見せた。
「いつもああなのか?」
「はい。お姉ちゃん写真撮り始めると周り全然見なくなっちゃって、しょっちゅうぶつかってますよ」
と笑顔で答える彩乃。
「危ないんじゃないか?」
「それが、意外と人にはぶつからないんですよねぇ」
よく見ると、彩香の姿を見た人たちが、さりげなく彩香を避けながら歩いていく。
「・・・なるほど」
「ね!でも電柱とか看板は・・・」
ガタン!
「ごめんなさい!」
カシャ。
また勢いよく頭を下げる彩香。
言っているそばから彩香がまた別の看板にぶつかった。
それをすかさず彩乃が撮っていく。
「そんなところ、なんで撮るんだ?」
「ふっふっふ。いざという時のための保険です」
「保険?」
「はい。ほんとに時々なんですけどね、お姉ちゃんとケンカするんですよ。その時にお姉ちゃんを攻撃するネタにするんです」
彩乃は自慢げに答えた。
「そんなの効果あるのか?」
「もちろんですよ!お姉ちゃんなんでも完璧じゃないですか。それに美人だし人気者だし。普段、お姉ちゃんのあんな姿ってほとんど見ないでしょ。だからこそケンカの時に役立つんです『これ、お友達に送っちゃっうよぉ』って」
と彩乃は彩香の写真を振りかざした。
「・・・なるほど、なかなかコスイな」
「だって、そうでもしなきゃ。あのお姉ちゃんですよ。勝てないですよ」
「・・・そうだな」
鷹文も納得した。
ガタン
また彩香がぶつかって謝っている。
「今日は大量だなぁ」
スマホを構えた彩乃はほくほく顔だった。
話を聞いた鷹文は、さりげなく彩香に近づいていった。
それに気づく様子もなく、彩香は謝った後も写真を撮り続けている。
「彩香!」
と彩香が看板にぶつかる寸前、鷹文が彩香の肩に手を添えてかばった。
「あ、ありがとう・・・」
突然現れた鷹文に守られてたことがわかり、彩香はほおを染めながらお礼を言った。
「・・・ラブラブだなぁ」
とつぶやきながら、彩乃はその光景もしっかり動画に収めた。
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