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3月14日。
早めに登校して自分の席についた大和は、いつにない緊張感でスマホと格闘していた。
「これで、いいよな?」
書いた文章を何度も読み返して、大和は送信ボタンを押した。
「あとは放課後、屋上に行けば・・・」
送った後も緊張を感じて額に汗を浮かべる大和だった。
その放課後。
ホームルームの後、慌てて教室を出たゆずは、屋上のドアのところまで来て、これまた慌てて身だしなみを整えた。
「・・・ふう」
大きく深呼吸をしたゆずは、震える手でドアを開けた。
「や、大和くん・・・」
すでに屋上で待っていた大和にゆずが声をかけた。その声は緊張しているようだった。
「ゆ、ゆずちゃん・・・」
呼び出した大和の方も、緊張感をみなぎらせながら応じた。
「れれれ、連絡もらったから、来た、よ・・・」
大和と二人っきりで会うことを意識しすぎたゆずは、すでに顔を真っ赤にしていた。どうしても目を合わせることができず俯いたままだった。
「す、すまん。こんなところまで・・・あ、あのさ・・・」
大和は自分のザックに勢いよく手を突っ込み、中からリボンのついた小さな包みを取り出した。
「これ・・・この前の、お礼に・・・」
震える手を前に差し出す大和。
「チョコ、っていうか、ケーキ?うまかった、よ」
「そ、そう・・・ありがとう」
大和に褒められて、ゆずは少しだけ顔を上げ、ほおを染めたままはにかんだ。
「受け取ってもらえるか?」
「・・・うん」
ゆずはおずおずと大和に近づき、包みを受け取った。
「開けても・・・いい?」
「ああ・・・」
ゆずが緊張しながら丁寧に包みを開けると、ゆずの小さな手にちょうどいい可愛らしいピンクのミトン手袋が出てきた。
「手袋・・・」
ゆずはドキドキが収まらないながらも、ゆっくり手袋をはめてみた。
「・・・あったかい」
「これさ、指も、出せるんだぜ」
と言いながらゆずに近づいた大和は、手袋をつけたゆずの手を持ち上げて、反対の手で、ミトンの部分をずらした。
「ほんと、だ・・・」
大和に手を取られたことにびっくりしたゆずは、耳まで真っ赤にしながら、呆然と答えた。
「これなら、手袋したまま、その・・・スマホとか、できる、だろ」
やってしまった後、ゆずの手を掴んでいるんだと気づいた大和も、寒空の中でへんな汗が出るのを感じた。だが、どうすればいいのかわからず、ずっと手を持ち上げたままだった。
「うん・・・」
自分の手を持つ大和の手をじっと見つめたまま、固まっているゆず。
「とにかく!それは、その・・・この前の、お、お礼、だから・・・」
「うん・・・あり、がと・・・」
「たたた、単なる、お礼、だから、さ・・・その、なな、なんていうか・・・」
ズキンとゆずの心が痛んだ。
「じゃあそういうことで!」
何がそういうことなのかわからないが、それだけ言い残すと大和はダッシュで階段を降りていった。
「お礼・・・」
大和からプレゼントをもらってとても嬉しいはずなのだが、ゆずの顔は寂しそうだった。
それからしばらくして、心を落ち着けたゆずが、カバンを取りに教室に戻ってきた。
「ゆず、お帰り!」
「明衣ちゃん・・・」
「あれぇ。どうしたのゆず?手袋してるぅ!」
「っ!」
ゆずは慌てて両手を後ろに隠した。
「隠さなくってもいいじゃん。もらったんでしょ。大和から」
誰もいなくなった教室で、それでも小さな声で明衣はゆずに囁いた。
「・・・う、うん」
「よかったじゃん、ゆず!」
明衣はゆずに抱きついた。
「めいひゅわん・・・で、でも・・・」
明衣の控えめな胸で口元を塞がれてしまったゆずは、声にならない声で叫んだ。
「どうしたの?」
「・・・お礼、なんだって・・・」
ゆずは寂しそうに言った。
「・・・でも、嬉しかったんでしょ?」
「そ、それは・・・」
「・・・なら、いいじゃん。大好きな大和からのプレゼントなんでしょ」
「・・・うん」
「ゆず、よかったね!」
「め、めいひゅわん・・・」
またも抱きしめられてしまったゆずは、今度は抵抗もせず、明衣の温もりを感じながらそっと涙を落とした。
早めに登校して自分の席についた大和は、いつにない緊張感でスマホと格闘していた。
「これで、いいよな?」
書いた文章を何度も読み返して、大和は送信ボタンを押した。
「あとは放課後、屋上に行けば・・・」
送った後も緊張を感じて額に汗を浮かべる大和だった。
その放課後。
ホームルームの後、慌てて教室を出たゆずは、屋上のドアのところまで来て、これまた慌てて身だしなみを整えた。
「・・・ふう」
大きく深呼吸をしたゆずは、震える手でドアを開けた。
「や、大和くん・・・」
すでに屋上で待っていた大和にゆずが声をかけた。その声は緊張しているようだった。
「ゆ、ゆずちゃん・・・」
呼び出した大和の方も、緊張感をみなぎらせながら応じた。
「れれれ、連絡もらったから、来た、よ・・・」
大和と二人っきりで会うことを意識しすぎたゆずは、すでに顔を真っ赤にしていた。どうしても目を合わせることができず俯いたままだった。
「す、すまん。こんなところまで・・・あ、あのさ・・・」
大和は自分のザックに勢いよく手を突っ込み、中からリボンのついた小さな包みを取り出した。
「これ・・・この前の、お礼に・・・」
震える手を前に差し出す大和。
「チョコ、っていうか、ケーキ?うまかった、よ」
「そ、そう・・・ありがとう」
大和に褒められて、ゆずは少しだけ顔を上げ、ほおを染めたままはにかんだ。
「受け取ってもらえるか?」
「・・・うん」
ゆずはおずおずと大和に近づき、包みを受け取った。
「開けても・・・いい?」
「ああ・・・」
ゆずが緊張しながら丁寧に包みを開けると、ゆずの小さな手にちょうどいい可愛らしいピンクのミトン手袋が出てきた。
「手袋・・・」
ゆずはドキドキが収まらないながらも、ゆっくり手袋をはめてみた。
「・・・あったかい」
「これさ、指も、出せるんだぜ」
と言いながらゆずに近づいた大和は、手袋をつけたゆずの手を持ち上げて、反対の手で、ミトンの部分をずらした。
「ほんと、だ・・・」
大和に手を取られたことにびっくりしたゆずは、耳まで真っ赤にしながら、呆然と答えた。
「これなら、手袋したまま、その・・・スマホとか、できる、だろ」
やってしまった後、ゆずの手を掴んでいるんだと気づいた大和も、寒空の中でへんな汗が出るのを感じた。だが、どうすればいいのかわからず、ずっと手を持ち上げたままだった。
「うん・・・」
自分の手を持つ大和の手をじっと見つめたまま、固まっているゆず。
「とにかく!それは、その・・・この前の、お、お礼、だから・・・」
「うん・・・あり、がと・・・」
「たたた、単なる、お礼、だから、さ・・・その、なな、なんていうか・・・」
ズキンとゆずの心が痛んだ。
「じゃあそういうことで!」
何がそういうことなのかわからないが、それだけ言い残すと大和はダッシュで階段を降りていった。
「お礼・・・」
大和からプレゼントをもらってとても嬉しいはずなのだが、ゆずの顔は寂しそうだった。
それからしばらくして、心を落ち着けたゆずが、カバンを取りに教室に戻ってきた。
「ゆず、お帰り!」
「明衣ちゃん・・・」
「あれぇ。どうしたのゆず?手袋してるぅ!」
「っ!」
ゆずは慌てて両手を後ろに隠した。
「隠さなくってもいいじゃん。もらったんでしょ。大和から」
誰もいなくなった教室で、それでも小さな声で明衣はゆずに囁いた。
「・・・う、うん」
「よかったじゃん、ゆず!」
明衣はゆずに抱きついた。
「めいひゅわん・・・で、でも・・・」
明衣の控えめな胸で口元を塞がれてしまったゆずは、声にならない声で叫んだ。
「どうしたの?」
「・・・お礼、なんだって・・・」
ゆずは寂しそうに言った。
「・・・でも、嬉しかったんでしょ?」
「そ、それは・・・」
「・・・なら、いいじゃん。大好きな大和からのプレゼントなんでしょ」
「・・・うん」
「ゆず、よかったね!」
「め、めいひゅわん・・・」
またも抱きしめられてしまったゆずは、今度は抵抗もせず、明衣の温もりを感じながらそっと涙を落とした。
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