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「さて次は・・・」
とまとめが席を見回したところ、明衣が手を挙げた。
「私も参加していいですか?」
「明衣くんか、別に構わんが」
「わ、私も、いい・・・ですか?」
ゆずも恐る恐る手を挙げた。
「ゆずくん。ああ、もちろん構わんぞ。君はれっきとした写真部の部員だからな。では明衣くん、ゆずくんの順で頼む」
「はぁい!これ通信できますか?」
スマホを持った明衣が、ノートパソコンを覗き込んだ。
「ああ、貸してみろ」
まとめの操作で明衣の写真が無事パソコンに取り込まれ、スクリーンに表示された。
「お賽銭投げてるところです!」
映った写真を見た明衣が元気よく説明を始めた。
「彩香くんの写真か。めずらしいな」
「は、はい・・・」
彩香は恥ずかしそうに答えた。
「ほう、訪問着か。振袖ではないのだな」
「はい。年末に知り合いが貸してくれたんです」
「いや、なかなかいい柄だ。彩香くんによく似合っている」
賽銭箱の前で手を合わせている着物姿の彩香は、騒々しい初詣客の中にあっても不思議な静かさを醸し出していた。
「あ、ありがとうございます」
和服にも造形の深そうなまとめに褒められて、彩香はほおを染めた。
「あ、あの、写真は・・・」
すっかり彩香の話になってしまったが、これは明衣の写真だ。
「すまん、彩香くんが写っている写真というのも珍しいのでな。そういう意味でもこれはいいのではないか」
「ですよね!彩香あんまり撮らせてくれないから、OKもらえてちょっと嬉しかったんです」
「だ、だって恥ずかしいじゃない」
人の写真は容赦なく撮るくせに、自分が撮られるのは恥ずかしいらしく、彩香はスクリーンから目をそらした。
「出品していいよね?」
「・・・う、うん」
彩香は恥ずかしそうに頷いた。
「やったぁ!じゃあ、私はこれでお願いします」
「うむ。よかろう」
実はまとめも彩香をモデルにしたいらしく、少し羨ましそうに明衣の写真を見ていた。

「つ、次は私のです・・・」
ゆずは恥ずかしそうに席について準備を始めた。
「う、映し、ます!」
言葉の勢いとは裏腹に、そっとパッドをタップすると、スクリーンにゆずの写真が表示された。
「母の実家近くの景色を、撮ってきました」
「そうか・・・ん、これは?」
まとめは不思議そうな顔をした。
「年始に撮ったんですけど、夕日とか空っぽの田んぼってなんか年末っていう感じに思えたので・・・」
ゆずが写真の説明をする。
「なかなかいいセンスだな。ところで、これは小田原の××という地域ではないかな?」
「えっ、先輩、どうしてわかるんですか⁉︎」
「この一本杉がな。私の母方の実家の近くにもあるから、もしやと思ってな」
「藁科さん・・・あっ!うちの4軒隣に!」
「やはりそうであったか。4軒と言うことは、ゆずくんの母上の実家は上杉様か?」
「は、はい、そうです」
「そうか・・・」
まとめはじっとゆずの顔を見つめた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない・・・なかなかいい写真ではないか」
「そうですか?」
写真を褒められたゆずは嬉しそうに微笑んだ。

「では、最後に彩香くん」
「はい」
呼ばれた彩香はパソコン席に移動した。
「私のは『おせち』です」
彩香の言葉の後に、綺麗な重箱に詰められた色とりどりのおせち料理が映し出された。
「おお・・・」
3段の重箱がいいバランスに配置されていて大写しにされたおせち料理は、それまでの写真とは異なるインパクトがあった。
「このおせちは・・・」
「はい、バイト先で撮らせてもらいました」
ニコニコしながら彩香が説明する。
「このおせち、全部彩香が作ったんですよ!」
明衣の言葉に、みんな驚きの表情を浮かべた。
「さ、彩香くんは料亭のバイトでもしているのか?」
「い、いえ、家政婦のバイトです」
「なんと!それでこのクオリティとは・・・いや、お見それした」
まとめは深々と頭を下げた。
「そ、そんな・・・先輩、頭をあげてください」
「いや、これはそこらの料亭より美しいおせちだ。女子高生がここまでのものを作れるとは・・・」
スクリーンを見ながら、まとめはしきりに感心していた。
「あ、あの。写真は・・・」
「おっと、失礼した。おせちのクオリティ同様、写真としても新年の明るさが見て取れる、良いものだと思うが、どうだろうか?」
まとめの言葉に、誰も反論するものはいなかった。
「さ、彩香くん。もし、もしよければ、だが、今度、彩香くんの料理をご馳走になってもいいだろうか?」
まとめは恥ずかしそうに彩香に尋ねた。
「はい。お弁当でよければ明日にでも」
「彩香のお弁当、めっちゃ美味しいですよ」
もはや彩香エキスパートの明衣が、彩香の料理の感想を口にした。
「えー、私も食べたい!」
「ぼ、僕も!」
「確かに。これは食べてみる価値のある料理だな」
なみもりはおろか、真司に善夫まで便乗してきた。
「じゃあみなさんの分持ってきますね」
人数の急増も気にせず、彩香は平然と答えた。
「い、いいのか⁉︎4人分だぞ!」
まとめは、予想外に拡大してしまったリクエストに、慌てながら尋ねた。
「少しくらい増えても大丈夫です」
「彩香、毎日5、6人分作ってるみたいですよ」
と付け加える明衣。彩香のことならなんでも知っている。
「ななな、なんと!」
すでにそんなに作っているのか、しかも毎日!
まとめは驚きを隠せなかった。
「妹と二人でやってますし。量増えるだけで、やることそんなに変わりませんから大丈夫ですよ」
とこともなげに答える彩香だった。

その夜。
夕食を終えたゆずが自室に戻ると、明衣から連絡が来ていた。
「ゆず、お待たせ!」
という一言の後、トーク画面にゆずと大和が写っている写真が何枚か表示された。
「こんなに撮ってたの?」
1枚かと思っていたゆずは、どんどん送られてくる写真に驚きを隠せなかった。
真っ赤になりながらも、ゆずは嬉しそうに写真を見ていった。
「スクープ!」
と返事とも取れない言葉の後、最後の一枚がやってきた。
「ど、どうやって撮ったの⁉︎」
大和がゆずの手をしっかりと握っている写真だった。
ゆずの本当に嬉しそうな笑顔が印象的だった。

「彩香も!」
ゆずに写真を送り終えた明衣は、彩香のスマホにも写真を送った。
「なに?」
そのあと送られてきた写真は、先ほどのとは違うが、人通りも少ない道を彩香と鷹文が並んで歩いている、こちらも後ろ姿だった。微妙な距離感で付かず離れずといった感じの二人。彩香の顔がわずかに鷹文の方を向いている。
「やっぱり夫婦みたいだよね」
その写真のあと、明衣はそんなコメントをよこした。
彩香は返事も送らず、その写真を見つめていた。
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