239 / 428
1
238
しおりを挟む
彩香との話の後、鷹文はしばらく自分の部屋にこもっていた。
自分の部屋でいくら考えても思い出しようがなく、ふと思いついた鷹文は、盛雄の書斎へやってきた。
「親父、今いいか?」
鷹文は書斎のドアをノックした。
「鷹文。なんだね?」
執筆の途中だったが、鷹文の呼びかけに、盛雄は顔を上げた。鷹文はどことなくいつもと様子が違うようだった。
「あのさ、さっき彩香と話したんだけど・・・小さい頃の彩香、ここに来たことあるのか?」
鷹文は、どう切り出せばいいのかわからず、まるで他人のことのように問いかけた。
「・・・そのことですか」
盛雄はゆっくり立ち上がった。
「そこに座りなさい」
鷹文にソファを進めた。
「なあ、どうなんだよ」
「ああ、彩香くんはこの家に来たことがありますよ」
ゆっくりと向かいの席に座った盛雄が、そう答えた。
盛雄の言葉に愕然とする鷹文。父親の口から出た言葉をどうしても信じることができなかった。
「最初から知ってたんだろ!なんで今まで黙ってたんだよ!」
鷹文は盛雄に食ってかかった。
「4月に彩香くんに会うまで、私も気づかなかったんだ。お前の記憶がなくなっていることに」
盛雄の声は静かだった。
「それに、彩香くんまで記憶をなくしていて・・・鷹文。今、お前、混乱しているだろう?」
「あ、当たり前だろ!」
盛雄の言葉に強く反応する鷹文。
「それで、4月にこんなこと言われたらどうなったと思う?」
「そ、それは・・・」
盛雄の意図が、鷹文にも理解できた。
「私も迷った。2人に話すべきか。でも、あの時すぐにそんな話をしていたら、今、彩香くんはここにはいなかったかもしれない」
「・・・」
「記憶がどうあれ、私は今のお前と彩香くんに仲良くしてほしかった」
盛雄は優しい目で鷹文を見つめた。
「だから言えなかった。申し訳ない」
盛雄は頭を下げた。
「彩香は、お父さんがいなくなって記憶をなくしたって・・・」
「そのようだね」
「俺も、なのか?」
「おそらくは。お前も由美さんを失ったショックだろう。
あれから私も調べたんだが、心に大きなストレスがかかると、それを無理やり忘れようとして記憶を失うことがあるらしい。鷹文にとって由美さんを失うことがどれだけ辛いことだったか、思い出すまでもないだろ」
言われた鷹文は、辛そうな顔をした。
「彩香くんも、大好きだったお父さんを・・・」
盛雄は彩香がいるだろう方を向いた。
「親父は、彩香のお父さんのこと知ってるのか?」
「遠野雄大くん。荒田先生の弟子で風景写真家」
「とおの、ゆうだい」
盛雄は落ち着いた動作で立ち上がり、書棚へ向かった。
「・・・確か、この辺りに」
しばらく探した後、写真集とアルバムを見つけてテーブルに置いた。
「見てみなさい」
鷹文は、少し迷って先に写真集を手に取った。
「これが彩香くんのお父さん、遠野雄大の作品だ」
「・・・」
声もなくページをめくる鷹文。
「どころなく似てるだろ、彩香くんの写真に」
「・・・ああ」
鷹文はゆっくりと写真集のページをめくっていった。
自分の部屋でいくら考えても思い出しようがなく、ふと思いついた鷹文は、盛雄の書斎へやってきた。
「親父、今いいか?」
鷹文は書斎のドアをノックした。
「鷹文。なんだね?」
執筆の途中だったが、鷹文の呼びかけに、盛雄は顔を上げた。鷹文はどことなくいつもと様子が違うようだった。
「あのさ、さっき彩香と話したんだけど・・・小さい頃の彩香、ここに来たことあるのか?」
鷹文は、どう切り出せばいいのかわからず、まるで他人のことのように問いかけた。
「・・・そのことですか」
盛雄はゆっくり立ち上がった。
「そこに座りなさい」
鷹文にソファを進めた。
「なあ、どうなんだよ」
「ああ、彩香くんはこの家に来たことがありますよ」
ゆっくりと向かいの席に座った盛雄が、そう答えた。
盛雄の言葉に愕然とする鷹文。父親の口から出た言葉をどうしても信じることができなかった。
「最初から知ってたんだろ!なんで今まで黙ってたんだよ!」
鷹文は盛雄に食ってかかった。
「4月に彩香くんに会うまで、私も気づかなかったんだ。お前の記憶がなくなっていることに」
盛雄の声は静かだった。
「それに、彩香くんまで記憶をなくしていて・・・鷹文。今、お前、混乱しているだろう?」
「あ、当たり前だろ!」
盛雄の言葉に強く反応する鷹文。
「それで、4月にこんなこと言われたらどうなったと思う?」
「そ、それは・・・」
盛雄の意図が、鷹文にも理解できた。
「私も迷った。2人に話すべきか。でも、あの時すぐにそんな話をしていたら、今、彩香くんはここにはいなかったかもしれない」
「・・・」
「記憶がどうあれ、私は今のお前と彩香くんに仲良くしてほしかった」
盛雄は優しい目で鷹文を見つめた。
「だから言えなかった。申し訳ない」
盛雄は頭を下げた。
「彩香は、お父さんがいなくなって記憶をなくしたって・・・」
「そのようだね」
「俺も、なのか?」
「おそらくは。お前も由美さんを失ったショックだろう。
あれから私も調べたんだが、心に大きなストレスがかかると、それを無理やり忘れようとして記憶を失うことがあるらしい。鷹文にとって由美さんを失うことがどれだけ辛いことだったか、思い出すまでもないだろ」
言われた鷹文は、辛そうな顔をした。
「彩香くんも、大好きだったお父さんを・・・」
盛雄は彩香がいるだろう方を向いた。
「親父は、彩香のお父さんのこと知ってるのか?」
「遠野雄大くん。荒田先生の弟子で風景写真家」
「とおの、ゆうだい」
盛雄は落ち着いた動作で立ち上がり、書棚へ向かった。
「・・・確か、この辺りに」
しばらく探した後、写真集とアルバムを見つけてテーブルに置いた。
「見てみなさい」
鷹文は、少し迷って先に写真集を手に取った。
「これが彩香くんのお父さん、遠野雄大の作品だ」
「・・・」
声もなくページをめくる鷹文。
「どころなく似てるだろ、彩香くんの写真に」
「・・・ああ」
鷹文はゆっくりと写真集のページをめくっていった。
0
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。


雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!
コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。
性差とは何か?

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる