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「おお、彩香ちゃん、よく来たね」
「お忙しいとことお時間ありがとうございます」
土曜日の午後、彩香は荒田のいる日陽大学の教授室に来ていた。
「いやいや、彩香ちゃんのためなら大丈夫じゃよ。そういえば、この前は知ちゃんに電話してくれてありがとう。とっても喜んどったよ」
「そうですか。私、全然覚えてなくて・・・」
「そうみたいじゃな。でも知ちゃんは大きくなった彩香ちゃんの声が聞けて、とっても嬉しいって言っとったよ」
「・・・よかったです。ところで、今日は」
「ああ、持ってきたかね」
と彩香がバッグからファイルを出した。
「はい。これです。あ、データでも持ってきましたけど」
「そうか。ならパソコンの画面で見るとしようか」
持ってきたメモリをパソコンに接続し、大きな画面に写真を映し出した。
「すごい!画面大きいといいですね」
「そうじゃろ。細部までよく見えるんじゃ。細かいシワまでしっかりな」
ガハハと笑いながら、荒田は彩香の写真をひとつひとつ見始めた。
「ほう。やはり血は争えんな」
荒田の目が変わった。
「そうですか?」
「ああ、雄大も昔こんな感じに撮っとった」
「お父さんが・・・」
「こっちも・・・これも、うん、いい構図だな」
荒田は次々と画像を切り替えていった。
「あ、ありがとうございます」
「これは、どこかに出品するのかね?」
「今回のは、学園祭で部活の写真展に使う予定です」
「じゃあ、構成も考えにゃいかんな。何かプランはあるのかい?」
「はい。一応こんな風に考えているんですけど」
彩香はあらかじめ作ってきた書類を荒田に見せた。
「ほう。こういうところはやはり女の子じゃな。きっちり作っとる」
「そうですか?」
「ああ、雄大んときは全部手書きで、結構めちゃくちゃじゃった」
「お父さん・・・そういえばそうですね。わたし、あれ見せてもらっても何なのか全然わかりませんでした。でも、いざ写真展になるとちゃんとしてて」
「そう、それがあいつのいいところじゃった。頭の中には完全なイメージがあったからできたんじゃろうな」
荒田は少し遠い目をして、それから彩香の書類にまた目を落とした。
書類に目を通しつつ、パソコンの画像を送ったり戻したりしながらしばらくすると
「うん。これなら大丈夫じゃろ。初めてにしちゃよくできとる」
「ありがとうございす!」
「だが、最後のところに、もう少し、日常の写真があってもいいのかもな」
「あ、はい、わたしもそう思ってたんです」
「まだ、時間はあるのかね?」
「はい、まだ1ヶ月くらいあります」
「そうか・・・なら、うちの写真でも取りに来るか?」
「え?先生の家ですか?」
「ああ、わしのところもなかなか古くてな。『映える』写真が撮れるぞ」
「先生、女子大生みたいですね」
「ああ、わしもまだまだ負けとられんからな」
荒田は可笑しそうに笑った。
「これがわしんところの住所じゃ。知ちゃんはいつもいるから、電話一本入れてくれればいつでもいけるはずじゃ。彩香ちゃんが来ると知れば、知ちゃん大喜びじゃぞ」
「そうですか・・・よかったです」
彩香が困ったように答えた。
「・・・色々なものを見ていれば、そのうち思い出すじゃろう。焦ることはないよ。それに、彩香ちゃんが小さかった頃、うちに何度か来たことあるから。もしかしたら思い出すきっかけになるかもしれんしな」
荒田は優しい顔で彩香を見つめた。
「そう、ですね」
「ああ、わしなんて昔のことは、ほとんど忘れちまってるがな」
と荒田はまたガハハと笑った。
「お忙しいとことお時間ありがとうございます」
土曜日の午後、彩香は荒田のいる日陽大学の教授室に来ていた。
「いやいや、彩香ちゃんのためなら大丈夫じゃよ。そういえば、この前は知ちゃんに電話してくれてありがとう。とっても喜んどったよ」
「そうですか。私、全然覚えてなくて・・・」
「そうみたいじゃな。でも知ちゃんは大きくなった彩香ちゃんの声が聞けて、とっても嬉しいって言っとったよ」
「・・・よかったです。ところで、今日は」
「ああ、持ってきたかね」
と彩香がバッグからファイルを出した。
「はい。これです。あ、データでも持ってきましたけど」
「そうか。ならパソコンの画面で見るとしようか」
持ってきたメモリをパソコンに接続し、大きな画面に写真を映し出した。
「すごい!画面大きいといいですね」
「そうじゃろ。細部までよく見えるんじゃ。細かいシワまでしっかりな」
ガハハと笑いながら、荒田は彩香の写真をひとつひとつ見始めた。
「ほう。やはり血は争えんな」
荒田の目が変わった。
「そうですか?」
「ああ、雄大も昔こんな感じに撮っとった」
「お父さんが・・・」
「こっちも・・・これも、うん、いい構図だな」
荒田は次々と画像を切り替えていった。
「あ、ありがとうございます」
「これは、どこかに出品するのかね?」
「今回のは、学園祭で部活の写真展に使う予定です」
「じゃあ、構成も考えにゃいかんな。何かプランはあるのかい?」
「はい。一応こんな風に考えているんですけど」
彩香はあらかじめ作ってきた書類を荒田に見せた。
「ほう。こういうところはやはり女の子じゃな。きっちり作っとる」
「そうですか?」
「ああ、雄大んときは全部手書きで、結構めちゃくちゃじゃった」
「お父さん・・・そういえばそうですね。わたし、あれ見せてもらっても何なのか全然わかりませんでした。でも、いざ写真展になるとちゃんとしてて」
「そう、それがあいつのいいところじゃった。頭の中には完全なイメージがあったからできたんじゃろうな」
荒田は少し遠い目をして、それから彩香の書類にまた目を落とした。
書類に目を通しつつ、パソコンの画像を送ったり戻したりしながらしばらくすると
「うん。これなら大丈夫じゃろ。初めてにしちゃよくできとる」
「ありがとうございす!」
「だが、最後のところに、もう少し、日常の写真があってもいいのかもな」
「あ、はい、わたしもそう思ってたんです」
「まだ、時間はあるのかね?」
「はい、まだ1ヶ月くらいあります」
「そうか・・・なら、うちの写真でも取りに来るか?」
「え?先生の家ですか?」
「ああ、わしのところもなかなか古くてな。『映える』写真が撮れるぞ」
「先生、女子大生みたいですね」
「ああ、わしもまだまだ負けとられんからな」
荒田は可笑しそうに笑った。
「これがわしんところの住所じゃ。知ちゃんはいつもいるから、電話一本入れてくれればいつでもいけるはずじゃ。彩香ちゃんが来ると知れば、知ちゃん大喜びじゃぞ」
「そうですか・・・よかったです」
彩香が困ったように答えた。
「・・・色々なものを見ていれば、そのうち思い出すじゃろう。焦ることはないよ。それに、彩香ちゃんが小さかった頃、うちに何度か来たことあるから。もしかしたら思い出すきっかけになるかもしれんしな」
荒田は優しい顔で彩香を見つめた。
「そう、ですね」
「ああ、わしなんて昔のことは、ほとんど忘れちまってるがな」
と荒田はまたガハハと笑った。
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