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それからしばらくすると、ワゴン車は会場に着いた。
和泉がウィンドーを開け、誰かと話し始めた。
「うん。みんなやってくれるって。もう少しで準備できるからさ、ちょっと待っててね」
そいういうと、和泉も後ろの席に移動してきて、カバンをごそごそと漁り始めた。
「明衣ちゃん、私のウィッグと眉毛・・・(鏡を見て)うん。まあこんなもんね。さてさてゆずちゃんは・・・おお!いいじゃない。ヒンシノ先生喜ぶわよ」和泉はさりげなくゆずの心に響くワードを織り交ぜ、ゆずを洗脳して行った。
「ヒンシノ・・・せんせい・・・サイン・・・ふふふふふふ」洗脳が完了しているゆずは、にまにましながら、和泉のチェックを受けていた。
「よし、ゆずちゃんも完成!次、彩香ちゃん」
一方、あきらめ顔の彩香は、明衣に髪をとかされ、改めてカチューシャをつけられながらうなだれていた。
「ほらほら、彩香ちゃん。せっかくの可愛いお顔が台無しよ。笑って笑って」
「ははは・・・」気の無い笑顔の彩香。
「彩香、ここまできちゃったら楽しんだもん勝ちだよ」
「・・・明衣、おぼえてらっしゃい!」
彩香の目に力が戻ってきた。
「そうそう、そんな感じ。でも、彩奈ちゃんはミカにゃんにいじられる役だから、あんまり強そうに見せないでね」
「強そうにって・・・」彩香は困った顔をした。
「そうそう、そんな感じ!彩香ちゃん演技も上手いのね」
「演技・・・っていうか・・・」彩香はほんとうに困っているようだった。
和泉はまたウィンドーを開け、外の人と話しを始めた。
「うん。じゃあ移動お願い」
和泉の言葉に運転席のドアが開いて、女性が入ってきた。
「こんにちは!私、和泉の同僚の森本さつきって言います。よろしくね!でね、和泉の希望でみんなを会場近くまで連れて行くからもう少し待ってね」
そう言うと、さつきはワゴン車を動かした。
しばらくするとワゴン車が停まり「ここから先は歩いていってね。でも、もう会場のすぐ前だから、みんなコスプレしてるし、そんなに恥ずかしくないと思うわ」
運転席を出たさつきは、そとからスライドドアを開けた。
「うわぁ!」
ドア越しに見えた会場には、沢山のメイドさんと猫耳の女の子が歩き回ったり、向けられたカメラにポーズをとったりしていた。
「みかん様、お手をどうぞ」
執事になりきった和泉が、恭しく猫耳ゆずの前に手を差し出した。
ゆずは人の多さに圧倒されながら、すがりつくように和泉の手を掴んだ。
その後ろから彩香も、意を決して出てきた。
「メイドさん沢山いるねぇ」明衣が会場を見回しながら言った。
「そうですね。みかんちゃんよりも、メイドの彩奈さんの方がコスプレしやすいですから」
にゃんぱらのイベントに慣れているさつきが答えた。
「でもさあ、よく見ると、彩香のとは少し違うね」
「あったりまえでしょ明衣ちゃん。私の彩奈メイド服は完全再現のオリジナルよ。既製品とはクォリティが違うのよ!」と男装らしからぬ女性言葉の和泉が、自慢げに胸を張った。
「和泉、あんた一応執事のおじいちゃんなんだから、もう少し男っぽい喋り方したら?」
「あ、すまんすまん。ウオッホン!」とわざとらしい言葉で弁解した。
「ヒンシノ・・せんせい・・?」
恥ずかしがりながらも、ゆずはヒンシノ先生を探した。
「ごめんね。みかんちゃん。先生、ちょー恥ずかしがりだから、どこかに隠れて見てるかも」
さつきが申し訳なさそうにゆずを見た。
「わた・・・しも・・・し、しんぞう・・・が・・・」ゆずは上ずった声で、口をパクパクさせていた。
「ねえ、和泉。この子大丈夫なの?」
「あー、ゆず。こっちおいで」慌てて明衣がゆずを抱きしめて視界をさえぎった。
「めい・・・ちゃん・・・」くたっと明衣の腕におさまるゆず。
「ごめん、和泉さん。ゆずちょっと連れてくね」
明衣はあらかじめ預かっていた鍵を取り出しながら、ワゴン車にゆずを連れて行った。
「彩奈さん。お嬢様はしばらくお休みのようですので、私と一緒にいきましょうか」
と和泉は一瞬で切り替え、笑顔で彩香の腕をとって歩き始めた。
「い、和泉さん。私、どうすれば・・・」
彩香は小声で和泉の耳元にささやいた。
「彩香ちゃんはそのまま、普通にしててくれればいいわよ」
和泉と彩香が歩き始めると、早速カメラを持った人たちがまわりに集まり始めた。
「うわ、この子すごくね」「彩奈のイメージぴったりかも」「っていうかむしろ彩奈そのもの?」「3次元の彩奈だ!」
彩香の周りに大きな輪ができて、みんな彩香にカメラを向けてシャッターを切り始めた。
和泉は、彩香を巧みに誘導し、彩奈特有のポーズをしっかりと取らせて行った。
「あ。あの、し、執事・・・さん?」
「彩奈さんは私の動かす通りにしてくだされば大丈夫ですよ。万事お任せください」
「お!決め台詞だ!」
どうやら『万事お任せください』は執事の決め台詞らしく、ほうぼうから「うおおおお」と言う声がなりひびいてきた。
「お待たせ!」
しばらく和泉のなすがままに撮影されていると、落ち着いたらしいゆずが戻ってきた。
と言っても、相変わらず震えている。
「今度はみかにゃんだぞ!」「この子もクォリティたけぇ!」「みかにゃんだ!」
ゆずを見た人たちは、今度はミカにゃんことゆずを一斉に撮りだした。彩香を連れた和泉
もさりげなくゆずに近づいて、ゆずの手を取った。
「・・・にゃ・・・にゃはっはっ・・・」ゆずは、もてる力をふりしぼってみかにゃんの笑い声を再現しているようだった。「みかにゃん笑ったぞ!」「かわいい!」「ミカにゃんこっち向いて」
彩香の時は圧倒的に男性客が多かったが、ミカにゃんの登場に、女性客もどんどんスマホを持って近寄ってきた。
「ミカにゃん。かわいい♡」
ミカにゃんはいたずら好きと言う設定でゆずとは正反対だが、ゆずの見た目はそのままミカにゃんだった。
「彩奈さん。ミカにゃん。並んでもらっていいですか?」
ひとりの声にみんなが同意したので、和泉はゆずの手を彩香に渡した。
彩香も、和泉の誘導で大体の感じを掴んできたようで、ゆずの手をしっかり握りながら、彩奈のポーズをとって行った。そんな中、スマホ女子たちの中にひとりすごくおどおどしている人を見かけた気がした彩香だった。
それからしばらくするとアナウンスがあり、みんなで拍手をしてイベントが終了した。
和泉がウィンドーを開け、誰かと話し始めた。
「うん。みんなやってくれるって。もう少しで準備できるからさ、ちょっと待っててね」
そいういうと、和泉も後ろの席に移動してきて、カバンをごそごそと漁り始めた。
「明衣ちゃん、私のウィッグと眉毛・・・(鏡を見て)うん。まあこんなもんね。さてさてゆずちゃんは・・・おお!いいじゃない。ヒンシノ先生喜ぶわよ」和泉はさりげなくゆずの心に響くワードを織り交ぜ、ゆずを洗脳して行った。
「ヒンシノ・・・せんせい・・・サイン・・・ふふふふふふ」洗脳が完了しているゆずは、にまにましながら、和泉のチェックを受けていた。
「よし、ゆずちゃんも完成!次、彩香ちゃん」
一方、あきらめ顔の彩香は、明衣に髪をとかされ、改めてカチューシャをつけられながらうなだれていた。
「ほらほら、彩香ちゃん。せっかくの可愛いお顔が台無しよ。笑って笑って」
「ははは・・・」気の無い笑顔の彩香。
「彩香、ここまできちゃったら楽しんだもん勝ちだよ」
「・・・明衣、おぼえてらっしゃい!」
彩香の目に力が戻ってきた。
「そうそう、そんな感じ。でも、彩奈ちゃんはミカにゃんにいじられる役だから、あんまり強そうに見せないでね」
「強そうにって・・・」彩香は困った顔をした。
「そうそう、そんな感じ!彩香ちゃん演技も上手いのね」
「演技・・・っていうか・・・」彩香はほんとうに困っているようだった。
和泉はまたウィンドーを開け、外の人と話しを始めた。
「うん。じゃあ移動お願い」
和泉の言葉に運転席のドアが開いて、女性が入ってきた。
「こんにちは!私、和泉の同僚の森本さつきって言います。よろしくね!でね、和泉の希望でみんなを会場近くまで連れて行くからもう少し待ってね」
そう言うと、さつきはワゴン車を動かした。
しばらくするとワゴン車が停まり「ここから先は歩いていってね。でも、もう会場のすぐ前だから、みんなコスプレしてるし、そんなに恥ずかしくないと思うわ」
運転席を出たさつきは、そとからスライドドアを開けた。
「うわぁ!」
ドア越しに見えた会場には、沢山のメイドさんと猫耳の女の子が歩き回ったり、向けられたカメラにポーズをとったりしていた。
「みかん様、お手をどうぞ」
執事になりきった和泉が、恭しく猫耳ゆずの前に手を差し出した。
ゆずは人の多さに圧倒されながら、すがりつくように和泉の手を掴んだ。
その後ろから彩香も、意を決して出てきた。
「メイドさん沢山いるねぇ」明衣が会場を見回しながら言った。
「そうですね。みかんちゃんよりも、メイドの彩奈さんの方がコスプレしやすいですから」
にゃんぱらのイベントに慣れているさつきが答えた。
「でもさあ、よく見ると、彩香のとは少し違うね」
「あったりまえでしょ明衣ちゃん。私の彩奈メイド服は完全再現のオリジナルよ。既製品とはクォリティが違うのよ!」と男装らしからぬ女性言葉の和泉が、自慢げに胸を張った。
「和泉、あんた一応執事のおじいちゃんなんだから、もう少し男っぽい喋り方したら?」
「あ、すまんすまん。ウオッホン!」とわざとらしい言葉で弁解した。
「ヒンシノ・・せんせい・・?」
恥ずかしがりながらも、ゆずはヒンシノ先生を探した。
「ごめんね。みかんちゃん。先生、ちょー恥ずかしがりだから、どこかに隠れて見てるかも」
さつきが申し訳なさそうにゆずを見た。
「わた・・・しも・・・し、しんぞう・・・が・・・」ゆずは上ずった声で、口をパクパクさせていた。
「ねえ、和泉。この子大丈夫なの?」
「あー、ゆず。こっちおいで」慌てて明衣がゆずを抱きしめて視界をさえぎった。
「めい・・・ちゃん・・・」くたっと明衣の腕におさまるゆず。
「ごめん、和泉さん。ゆずちょっと連れてくね」
明衣はあらかじめ預かっていた鍵を取り出しながら、ワゴン車にゆずを連れて行った。
「彩奈さん。お嬢様はしばらくお休みのようですので、私と一緒にいきましょうか」
と和泉は一瞬で切り替え、笑顔で彩香の腕をとって歩き始めた。
「い、和泉さん。私、どうすれば・・・」
彩香は小声で和泉の耳元にささやいた。
「彩香ちゃんはそのまま、普通にしててくれればいいわよ」
和泉と彩香が歩き始めると、早速カメラを持った人たちがまわりに集まり始めた。
「うわ、この子すごくね」「彩奈のイメージぴったりかも」「っていうかむしろ彩奈そのもの?」「3次元の彩奈だ!」
彩香の周りに大きな輪ができて、みんな彩香にカメラを向けてシャッターを切り始めた。
和泉は、彩香を巧みに誘導し、彩奈特有のポーズをしっかりと取らせて行った。
「あ。あの、し、執事・・・さん?」
「彩奈さんは私の動かす通りにしてくだされば大丈夫ですよ。万事お任せください」
「お!決め台詞だ!」
どうやら『万事お任せください』は執事の決め台詞らしく、ほうぼうから「うおおおお」と言う声がなりひびいてきた。
「お待たせ!」
しばらく和泉のなすがままに撮影されていると、落ち着いたらしいゆずが戻ってきた。
と言っても、相変わらず震えている。
「今度はみかにゃんだぞ!」「この子もクォリティたけぇ!」「みかにゃんだ!」
ゆずを見た人たちは、今度はミカにゃんことゆずを一斉に撮りだした。彩香を連れた和泉
もさりげなくゆずに近づいて、ゆずの手を取った。
「・・・にゃ・・・にゃはっはっ・・・」ゆずは、もてる力をふりしぼってみかにゃんの笑い声を再現しているようだった。「みかにゃん笑ったぞ!」「かわいい!」「ミカにゃんこっち向いて」
彩香の時は圧倒的に男性客が多かったが、ミカにゃんの登場に、女性客もどんどんスマホを持って近寄ってきた。
「ミカにゃん。かわいい♡」
ミカにゃんはいたずら好きと言う設定でゆずとは正反対だが、ゆずの見た目はそのままミカにゃんだった。
「彩奈さん。ミカにゃん。並んでもらっていいですか?」
ひとりの声にみんなが同意したので、和泉はゆずの手を彩香に渡した。
彩香も、和泉の誘導で大体の感じを掴んできたようで、ゆずの手をしっかり握りながら、彩奈のポーズをとって行った。そんな中、スマホ女子たちの中にひとりすごくおどおどしている人を見かけた気がした彩香だった。
それからしばらくするとアナウンスがあり、みんなで拍手をしてイベントが終了した。
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