家政婦さんは同級生のメイド女子高生

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『斉藤』と書かれた表札のある玄関の前まできた彩香は、身だしなみを確認した後、もう一度深呼吸してインターホンを押した。
しばらくすると、ガラガラと玄関の引き戸が開いた。
「こんにちは、先程お電話した遠野彩香です」
彩香は、壮年の男性の顔を見ると勢いよくお辞儀した。
「とおの、さいか、さん・・・」
男性は彩香の名前を呼んでしばらく呆然としていた。
「は、はい。はじめまして!よろしくお願いします」
「あ、すいません。ではこちらへ」
家主らしき男性はリビングに彩香を案内した。

「どうぞおかけください。私は、斉藤盛雄と言います。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
彩香は座ったままお辞儀をした。その姿を見た盛雄は、なぜかぼうっとしていた。
「あ、すいません。それで、家事なんですが・・・」
「はい、家が母子家庭なので、家でも毎日家事はやっています。ですからすぐにできると思います」
「そうですか。それは大変ですね。とおの、さんは、高校・・・1年生ですよね?」
「はい。今日入学式でした」
「ですよね。うちの息子・・・鷹文も行っているはずです」
「息子さん、いらっしゃるんですか?」
「はい、一人、います・・・」
不思議な間があってから盛雄は続けた。
「それで、仕事ですが、お電話でも話した通り、大体週3回で掃除と洗濯をお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「はい。どちらも得意です!」彩香は元気よく返事した。
「それはよかった・・・」彩香が周囲を見回すと、少し散らかっていた。
「あはは、申し訳ない。男二人だとどうしてもね」
「今までは、どうされていたんですか?」
「もちろん家政婦さんをお願いしていたんですが、昨日、腰を痛めたとかで、お年のせいもあってか、もう働けそうもないということになりまして・・・」
「腰、ですか。大変ですね」
「ええ。今朝電話がありまして、慌ててポスターを書いたというわけです」
「じゃあ、あのポスターは朝貼ったばかりなんですか?」
「はい。お電話いただいたのも遠野さんが最初です」
「よかったぁ。あ、すいません!あの・・・私でも、大丈夫ですか?」
彩香の質問を遮るように
「先生、どこですかぁ?」
と、先ほどの女性らしい元気な声が、家の奥からこちらに向かって聞こえてきた。
「あ、いた!早く原稿あげてくださいよ!って、すいません、お客様でしたか」
慌てた様子もなく、その女性はニコニコしながら彩香の方へ向いた。
「って制服!女子高生!先生、まさか隠し子・・・」
「な、何を行ってるんですか、和泉くん。さっき話したじゃないですか、家政婦の面接ですよ」
「えっ、この子が家政婦?」
「は、はい。面接に来た遠野彩香です」
「さいかちゃん、名前までかわいらしい。私は、先生の担当編集している永山和泉。よろしくね。彩香ちゃんおいくつ?」
「はい、15歳です」
「じゅ、15歳!うわぁ、若い!」
「・・・和泉くん。私は面接を・・・」
盛雄の発言も気にせず、和泉は続けた。
「それにしても・・・こんな可愛い子が家政婦なんて・・・もったいない。ねえ遠野さん、家政婦なんかよりアイドルやったほうがいいわよ。あなた可愛いし。よかったらどこかの事務所紹介するよ!」
「あ、ありがとうございます・・・でも、私、そういうの興味なくって・・・」
「そっかぁ、残念。私ファン第1号になりたかったぁ・・・」
「い、いえ・・・ところであの、担当編集って?」
「先生、まだ話してないんですか?」
「あ、いや、その、タイミングが・・・」
「まったく、先生はいつも呑気なんだから」
和泉は呆れたような顔で、盛雄を見つめた。
「あのね、彩香ちゃん。北村鹿苑っていう小説家知ってる?」
「はい。『ひとりぼっちの王様』書いた方ですよね」
「お!彩香ちゃんも知ってるんだ。嬉しいな。そう、その童話書いたのが北村先生がこのお方なのよ」
「ほんとですか!」
「うー‼︎なんか嬉しいなぁ、そのリアクション。いいわよ、彩香ちゃん!」
「私、童話シリーズ全部読みました。まさかその先生だったなんて」
「楽しかったでしょう。あんなに笑ったり泣いたりできる作品を書くことができる、とおってもすごい先生なのよ!」
「あの・・・今度サインもらってもいいですか?」彩香は盛雄を見ながら少し恥ずかしそうに言った。
「もちろんいいですよ」盛雄は嬉しそうに答えた。
「ありがとうございます!今度、本持ってきます!」彩香は盛雄に笑顔を向けた。
「そして・・・その担当編集者が私、永山和泉。改めてよろしくね、彩香ちゃん。私もちょくちょく来ると思うから」
「はい、よろしくお願いします。和泉さん」彩香も元気よく答えた。
「ところで先生、彩香ちゃんはいつからバイトするんですか?」
「君ねえ・・・私もまだ名前くらいしか伺っていないんだが・・・」
「あー、すいませぇん!ねえねえ彩香ちゃん。彩香ちゃんってお料理得意?」
まるで気にしていない和泉は、彩香に質問を続けた。
「はい。家でも毎日作ってます」
「うわぁすごい!毎日ですってよ先生!他の家事も?」
「はい、母が働いていますので、妹と一緒に掃除や洗濯もしています」
「・・・なんて親孝行な娘たち。私もこんな子ほしい!」
和泉は涙ぐんだような仕草をした。
「あ、あの・・・面接は・・・」彩香は困ったように盛雄を見た。
「先生。彩香ちゃん、もちろん採用ですよね?」
和泉は当然のように盛雄に聞いた。
「ま、まあ、彩香くんさえ大丈夫なようでしたら、ぜひお願いしたいのですが・・・」
困ったように盛雄は答えた。
「彩香ちゃん良かったねぇ。採用だってよ」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
彩香はホッとした表情を浮かべた。
「ところで先生、面接なのに、お茶も出してないんですか?」
和泉が意外なところを突っ込んできた。
「あ、すいません、うっかりしていました」
盛雄はしまった!という顔をした。
「あの、私やりましょうか?」
言うが早いか、彩香は立ち上がってキッチンに向かっていた。
「彩香ちゃん、場所とかわかる?」
「はい、多分大丈夫だと思います」
キッチンに入った彩香は、周囲を少し見回した後、見つけたヤカンに水を入れてお湯を沸かし始めた。
「大丈夫そうね。わからないことあったら私に聞いてね。先生じゃ、全然頼りにならないから」
和泉は笑いながら言った。
「あはは、申し訳ない。いつも家政婦さんに任せきりで、どうも私には・・・」
「こんな先生だけど見捨てないでね、彩香ちゃん」
和泉は盛雄の保護者にでもなったかのように、彩香にお願いした。
「は、はい・・・」
答えに困った彩香は、お茶の準備を進めた。
「あれ?お茶っ葉切れちゃってる。買い置きないかしら」
うちではここにいれてるんだけど、と思いながら戸棚の引き出しを開けると、お茶っ葉の予備が置いてあった。
「うちと同じお茶だ。それに置いてある場所も同じみたい」
お茶を淹れるだけなので、キッチンを使ったのはほんの少しだったが、随分使い勝手良くまとめられているなあと感心した彩香だった。
「お待たせしました。使いやすいキッチンですね」
「そうですか。それはよかった。あれは妻が生きていた頃のままにしてもらっています。その方が私たちもどこになにがあるかわかりやすいですので」
「そうなんですか。じゃあ私もなるべく動かさないように気をつけますね」
「そうしてもらえると助かります」
「はい!」
彩香は話をしながら盛雄と和泉の前に茶碗、お茶受けを置いた。
と突然、和泉が彩香をまじまじと見つめた。
「ねえ、彩香ちゃん。ちょっとその場で一回りしてもらっていいかな?」
「ひとまわり・・・すればいいんですか?」
「うん。ゆっくり目でお願いね」
彩香は言われるまま和泉の前で、ゆっくりと一回りした。
「ありがとう、彩香ちゃん!・・・そうだ!あれ、手直しすれば・・・うん!いいかも・・・」
どうやら満足した様子の和泉は、彩香の持ってきたお茶を美味しそうに飲んだ。
「あの、先生・・・私、少しリビングの片付けしてもいいですか?」
キッチンで準備をしながらなんとなく、リビングの方を見ていた彩香は、所々散らかっているのが気になっていた。
「あ、すみません。つい出しっぱなしにしてしまって・・・」
「いえ、すぐ片付くと思いますから」
そう言うと、彩香はすぐに片付けを始めた。
「よく気づく子ですね」
「そうですね」
「それにあんなかわいいし。鷹文くんのお嫁さんにほしくなっちゃったんじゃないですか?」
「鷹文・・・お嫁さん・・・」
盛雄は何か考え事でもしているかのように、ブツブツと独り言を言っていた。

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