2 / 428
1
2
しおりを挟む
「おい、なんだよおまえ!」
怒鳴り声に驚いた彩香は、キーホルダーを持ったまま急いで正門の中に入った。
そこには、細身で背の高い男子生徒と、転んだまま立ち上がれない女子生徒がいた。
「ご、ごめんなさい・・・」
女子生徒は立ち上がることもできないまま、震えながら怒り顔の男子生徒を見上げていた。
「カバン、水浸しじゃねえか!」
言われるままに落ちているカバンを見た女子生徒は、さらに顔色を失って、目にいっぱいの涙を浮かべた。
女子生徒の涙に気づいた彩香は、慌てて女子生徒に駆け寄った。
「大丈夫?」
「ひゃぅ!だ、だいしょ、うぶ・・でしゅ・・」
彩香が突然来たことに驚いた女子生徒は、涙目のまま彩香を見つめた。
彩香は女子生徒をひとまず置いて、つかつかとカバンの方へ向かい、水たまりに落ちているカバンを拾い上げた。そして、自分のバッグの中からタオルを取り出して、水に濡れたカバンを拭いた。
「はい、これでいいでしょ!水たまりキレイだったから、そんなに汚れてないよ」
男子生徒は突然入ってきた彩香に驚いたようだったが、渡されたカバンを少し見回した。そして汚れていないことを確認すると、女子生徒をひと睨みして、ムッとした顔のまま立ち去った。
彩香は過ぎ去る男子生徒をしばらく見ていたが、思い出したように、転んだままの女子生徒の元に戻った。そして、女子生徒の前にしゃがみ込んで、ハンカチで涙を拭いてあげた。
「もう行っちゃったから大丈夫よ。立てる?」
「は、はい・・・」
小柄でふわふわなショートヘアの女子生徒は、差し出された彩香の手に捕まって、おどおどと立ち上がった。
「制服、少し汚れちゃったね。あっちにベンチあるから行こう」
そう言って優しく背中に手を添えて、彩香は女子生徒をベンチに連れて行った。
「あ、ありがとう、ございましゅ・・・」
彩香にホコリを払われてからベンチに座った女子生徒は、まだ少し涙声のまま彩香にお礼を言った。
「少しは落ち着いた?」
「くすん、くすん」
まだ涙が止まらないようなので、彩香は、背中に手を添えたままハンカチで涙を拭いてあげた。
「もう大丈夫だからね・・・私は遠野彩香。一年生よ。あなたも一年生よね?」
「ひゃ、はい・・わ、わらひ、は・・・と、藤野、ゆず・・・」
「あら、苗字同じ?わたしは遠い野で遠野よ」
「わ、わたし、は、ふじのでしゅ・・・」
「そうなんだ。一字違いなのね。クラスはもう確認した?」
「い、いえ・・・友達からもらった、大切なキーホルダー、落としちゃって、探してて・・・」
「え?もしかしてこれ?」
彩香は先程制服のポケットに入れてしまったキーホルダーを取り出して、ゆずに見せた。
「あ!ななちゃん!」
「そっか、これ、ゆずちゃんのだったんだね」
「はい、ありがとうございます。さ、さいか、さん・・よかったぁ」
ゆずはキーホルダーを両手で受け取り、愛おしそうに見つめた。
「ゆずちゃんは、一人で来たの?」
「はい・・・わたし・・・中学私立で、高校もある学校だったから・・・あまり外部に出る人・・・いなくて・・・」
「そうなんだ。ゆずちゃんはどうして、ここ受けたの?」
「わたし・・・は・・・怖がり・・・で、一人じゃ・・・何も・・・できなくて・・・高校も同じ・・・だったら、ずっとそのまま・・・に・・・なっちゃいそうだったから・・・」
「そうなんだ。頑張ったんだね」彩香はゆずに微笑んだ。
「でも・・・やっぱり、ひとり・・・怖いなって・・・そしたら・・・お友達が・・・キーホルダーくれて、カバンに・・つけてたんだけど、落としちゃって・・・」
ゆずが、困ったような顔になった。
「お友達、幼馴染で、双子で、いつも・・・私のこと守ってくれてたんです。私が違う高校受験するの知って、二人で作ってくれたんです」
「そっか。ステキな幼馴染だね」
「はい。ずっと一緒で・・・だから余計に・・・怖くなっちゃって・・・」
ゆずはななちゃんを胸の前でぎゅっと握った。
「見つかってよかったね・・・ゆずちゃんはクラスは確認した?」
「いえ、まだ、です」
「そう。じゃあそろそろ見に行かない?人多くなってきたみたいだし」
「そうです、ね」
キーホルダーを受け取って少し元気になったゆずを連れて、彩香は昇降口へと向かった。
怒鳴り声に驚いた彩香は、キーホルダーを持ったまま急いで正門の中に入った。
そこには、細身で背の高い男子生徒と、転んだまま立ち上がれない女子生徒がいた。
「ご、ごめんなさい・・・」
女子生徒は立ち上がることもできないまま、震えながら怒り顔の男子生徒を見上げていた。
「カバン、水浸しじゃねえか!」
言われるままに落ちているカバンを見た女子生徒は、さらに顔色を失って、目にいっぱいの涙を浮かべた。
女子生徒の涙に気づいた彩香は、慌てて女子生徒に駆け寄った。
「大丈夫?」
「ひゃぅ!だ、だいしょ、うぶ・・でしゅ・・」
彩香が突然来たことに驚いた女子生徒は、涙目のまま彩香を見つめた。
彩香は女子生徒をひとまず置いて、つかつかとカバンの方へ向かい、水たまりに落ちているカバンを拾い上げた。そして、自分のバッグの中からタオルを取り出して、水に濡れたカバンを拭いた。
「はい、これでいいでしょ!水たまりキレイだったから、そんなに汚れてないよ」
男子生徒は突然入ってきた彩香に驚いたようだったが、渡されたカバンを少し見回した。そして汚れていないことを確認すると、女子生徒をひと睨みして、ムッとした顔のまま立ち去った。
彩香は過ぎ去る男子生徒をしばらく見ていたが、思い出したように、転んだままの女子生徒の元に戻った。そして、女子生徒の前にしゃがみ込んで、ハンカチで涙を拭いてあげた。
「もう行っちゃったから大丈夫よ。立てる?」
「は、はい・・・」
小柄でふわふわなショートヘアの女子生徒は、差し出された彩香の手に捕まって、おどおどと立ち上がった。
「制服、少し汚れちゃったね。あっちにベンチあるから行こう」
そう言って優しく背中に手を添えて、彩香は女子生徒をベンチに連れて行った。
「あ、ありがとう、ございましゅ・・・」
彩香にホコリを払われてからベンチに座った女子生徒は、まだ少し涙声のまま彩香にお礼を言った。
「少しは落ち着いた?」
「くすん、くすん」
まだ涙が止まらないようなので、彩香は、背中に手を添えたままハンカチで涙を拭いてあげた。
「もう大丈夫だからね・・・私は遠野彩香。一年生よ。あなたも一年生よね?」
「ひゃ、はい・・わ、わらひ、は・・・と、藤野、ゆず・・・」
「あら、苗字同じ?わたしは遠い野で遠野よ」
「わ、わたし、は、ふじのでしゅ・・・」
「そうなんだ。一字違いなのね。クラスはもう確認した?」
「い、いえ・・・友達からもらった、大切なキーホルダー、落としちゃって、探してて・・・」
「え?もしかしてこれ?」
彩香は先程制服のポケットに入れてしまったキーホルダーを取り出して、ゆずに見せた。
「あ!ななちゃん!」
「そっか、これ、ゆずちゃんのだったんだね」
「はい、ありがとうございます。さ、さいか、さん・・よかったぁ」
ゆずはキーホルダーを両手で受け取り、愛おしそうに見つめた。
「ゆずちゃんは、一人で来たの?」
「はい・・・わたし・・・中学私立で、高校もある学校だったから・・・あまり外部に出る人・・・いなくて・・・」
「そうなんだ。ゆずちゃんはどうして、ここ受けたの?」
「わたし・・・は・・・怖がり・・・で、一人じゃ・・・何も・・・できなくて・・・高校も同じ・・・だったら、ずっとそのまま・・・に・・・なっちゃいそうだったから・・・」
「そうなんだ。頑張ったんだね」彩香はゆずに微笑んだ。
「でも・・・やっぱり、ひとり・・・怖いなって・・・そしたら・・・お友達が・・・キーホルダーくれて、カバンに・・つけてたんだけど、落としちゃって・・・」
ゆずが、困ったような顔になった。
「お友達、幼馴染で、双子で、いつも・・・私のこと守ってくれてたんです。私が違う高校受験するの知って、二人で作ってくれたんです」
「そっか。ステキな幼馴染だね」
「はい。ずっと一緒で・・・だから余計に・・・怖くなっちゃって・・・」
ゆずはななちゃんを胸の前でぎゅっと握った。
「見つかってよかったね・・・ゆずちゃんはクラスは確認した?」
「いえ、まだ、です」
「そう。じゃあそろそろ見に行かない?人多くなってきたみたいだし」
「そうです、ね」
キーホルダーを受け取って少し元気になったゆずを連れて、彩香は昇降口へと向かった。
0
お気に入りに追加
248
あなたにおすすめの小説
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男子高校生の休み時間
こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる