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想定外のお誘い
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年が明けて早くも2ヶ月が経ち、2月初頭、憬の百箇日は墓参りだけで済ませるという修に付き添って、午前中にお参りを済ませた。
修の両親は既に亡くなっているため、憬は両親が眠る場所に一緒に弔われている。
修が墓前でなにを思ったのか、龍弥には判りかねることだったが、彼が龍弥に向ける笑顔は晴れやかなものだった。
そんな帰り道の車の中で、修のスマホが突然鳴った。
「あれ、漯だ。今日は休みなのにどうしたんだろう」
電話していいかと短いメッセージが届いたらしく、龍弥が承諾して頷くと修は早速スマホをタップすると漯に電話を掛けた。
「もしもし?どうかしたのかい。ああ、今帰りだよ」
漯が弟分だと分かっていても、隣で楽しそうに笑う修に少し嫉妬してしまう。相変わらず成長のない自分に苦笑すると、龍弥は断りを入れてタバコを吸って窓を少しだけ開ける。
「龍弥、今日仕事休めるかい」
修は今すぐ確認したいのか、スマホを肩に当てて龍弥の顔を覗き込む。
「別に無理じゃないけど、どうかしたのか」
「朱鳥が会社でミュージカルのチケットを貰ったらしいんだけどね、4枚貰ったから2枚余ってるらしいんだ」
「ミュージカル……」
あの突然歌い出すやつか。龍弥は心の中で毒付きながらも、行きたそうにソワソワする修の眼差しに気付いて苦笑する。
「チケットをくれるってことか?」
「うん。連番だから漯たちと一緒に観ることになるけど、どうかな」
「修は行きたいんだろ。いいよ、俺も顔出すよ。漯には会ってみたいからな」
「ありがとう。あ、今スピーカーにするね」
そう言うと、修はスマホをホルダーにセットしてスピーカーに切り替える。
「漯?龍弥が一緒に行ってもいいって言ってくれたよ。今スピーカーにしてるから、彼と話すかい」
『良かった、龍弥くん来てくれるなら良かったじゃないか。声掛けるのが今日の今日になって悪かったよ』
印象と違って艶のある低めの声がスマホから聞こえてくる。それに彼は会ったこともない龍弥を龍弥くんと呼んだ。人懐っこい気さくな性格なのだろうか。
『もしもし龍弥くん?はじめまして。うちのポンコツがお世話になってます。漯です』
「なんだい。ポンコツだなんて、酷いな」
そう言いながらも、修は肩を揺らして嬉しそうに笑っている。
「あーどうも。はじめまして。それよりチケット、俺らが貰って良かったのか」
『いえいえ、助かります。座席が俺たちと並びなので、そこは申し訳ないんですけど』
「こっちこそ、奥さんとデートなんだろ?邪魔じゃないのか」
『全然大丈夫ですよ。俺も朱鳥も龍弥くんに会いたかったから嬉しいです。チケットは会場で渡しますね。じゃあステフ、後でメッセ送るから時間と場所確認しとけよ?』
漯も修をステフと呼ぶのか。龍弥は憬もそう呼んでたなと思い出して眉を寄せる。
「分かった。じゃあ連絡待ってるよ。会場でね」
電話はそこで切れ、修はホルダーからスマホを取り外してポケットにしまう。
龍弥はタバコを灰皿に突っ込んで火を消すと、隣でウキウキと楽しそうにスマホを眺める修に声を掛ける。
「龍弥くんなんて小学生以来だよ。漯は随分と人懐っこいんだな」
「なんだろうね。年上に甘える術を知ってるんだろうね、体に染み込んでるとでも言うか。まあ僕たち兄弟が構ってきたせいもあるんだろうけどね」
「だからお前をステフって呼ぶのか?」
「いやいや、漯だけじゃなくて大抵の人はそう呼ぶよ。それが本名だからね。子供の頃は周りが混乱するから修と呼ばれていたけど、それも中学くらいまでじゃないかな。基本的に特別な人にしか呼ばせないからね」
修が意味深に笑って龍弥の頬を撫でる。
だがその発言で龍弥はムスッとした顔になって修を軽く睨む。
「じゃあ巽も大事な存在ってことか」
急に不機嫌になった龍弥に、一瞬驚いて目を丸くすると、可笑しそうに肩を揺らしてお腹を抱えながら、そうじゃないと修が龍弥の肩を撫でる。
「あはは、巽くんは違うんだよ。彼の昔付き合ってた子が僕の同級生で、僕の本名を知らないだけなんだ」
「なんだよ紛らわしいな」
拗ねる龍弥の唇を指でなぞると、僕の特別な人は君だよと修が柔らかく微笑んだ。
修の両親は既に亡くなっているため、憬は両親が眠る場所に一緒に弔われている。
修が墓前でなにを思ったのか、龍弥には判りかねることだったが、彼が龍弥に向ける笑顔は晴れやかなものだった。
そんな帰り道の車の中で、修のスマホが突然鳴った。
「あれ、漯だ。今日は休みなのにどうしたんだろう」
電話していいかと短いメッセージが届いたらしく、龍弥が承諾して頷くと修は早速スマホをタップすると漯に電話を掛けた。
「もしもし?どうかしたのかい。ああ、今帰りだよ」
漯が弟分だと分かっていても、隣で楽しそうに笑う修に少し嫉妬してしまう。相変わらず成長のない自分に苦笑すると、龍弥は断りを入れてタバコを吸って窓を少しだけ開ける。
「龍弥、今日仕事休めるかい」
修は今すぐ確認したいのか、スマホを肩に当てて龍弥の顔を覗き込む。
「別に無理じゃないけど、どうかしたのか」
「朱鳥が会社でミュージカルのチケットを貰ったらしいんだけどね、4枚貰ったから2枚余ってるらしいんだ」
「ミュージカル……」
あの突然歌い出すやつか。龍弥は心の中で毒付きながらも、行きたそうにソワソワする修の眼差しに気付いて苦笑する。
「チケットをくれるってことか?」
「うん。連番だから漯たちと一緒に観ることになるけど、どうかな」
「修は行きたいんだろ。いいよ、俺も顔出すよ。漯には会ってみたいからな」
「ありがとう。あ、今スピーカーにするね」
そう言うと、修はスマホをホルダーにセットしてスピーカーに切り替える。
「漯?龍弥が一緒に行ってもいいって言ってくれたよ。今スピーカーにしてるから、彼と話すかい」
『良かった、龍弥くん来てくれるなら良かったじゃないか。声掛けるのが今日の今日になって悪かったよ』
印象と違って艶のある低めの声がスマホから聞こえてくる。それに彼は会ったこともない龍弥を龍弥くんと呼んだ。人懐っこい気さくな性格なのだろうか。
『もしもし龍弥くん?はじめまして。うちのポンコツがお世話になってます。漯です』
「なんだい。ポンコツだなんて、酷いな」
そう言いながらも、修は肩を揺らして嬉しそうに笑っている。
「あーどうも。はじめまして。それよりチケット、俺らが貰って良かったのか」
『いえいえ、助かります。座席が俺たちと並びなので、そこは申し訳ないんですけど』
「こっちこそ、奥さんとデートなんだろ?邪魔じゃないのか」
『全然大丈夫ですよ。俺も朱鳥も龍弥くんに会いたかったから嬉しいです。チケットは会場で渡しますね。じゃあステフ、後でメッセ送るから時間と場所確認しとけよ?』
漯も修をステフと呼ぶのか。龍弥は憬もそう呼んでたなと思い出して眉を寄せる。
「分かった。じゃあ連絡待ってるよ。会場でね」
電話はそこで切れ、修はホルダーからスマホを取り外してポケットにしまう。
龍弥はタバコを灰皿に突っ込んで火を消すと、隣でウキウキと楽しそうにスマホを眺める修に声を掛ける。
「龍弥くんなんて小学生以来だよ。漯は随分と人懐っこいんだな」
「なんだろうね。年上に甘える術を知ってるんだろうね、体に染み込んでるとでも言うか。まあ僕たち兄弟が構ってきたせいもあるんだろうけどね」
「だからお前をステフって呼ぶのか?」
「いやいや、漯だけじゃなくて大抵の人はそう呼ぶよ。それが本名だからね。子供の頃は周りが混乱するから修と呼ばれていたけど、それも中学くらいまでじゃないかな。基本的に特別な人にしか呼ばせないからね」
修が意味深に笑って龍弥の頬を撫でる。
だがその発言で龍弥はムスッとした顔になって修を軽く睨む。
「じゃあ巽も大事な存在ってことか」
急に不機嫌になった龍弥に、一瞬驚いて目を丸くすると、可笑しそうに肩を揺らしてお腹を抱えながら、そうじゃないと修が龍弥の肩を撫でる。
「あはは、巽くんは違うんだよ。彼の昔付き合ってた子が僕の同級生で、僕の本名を知らないだけなんだ」
「なんだよ紛らわしいな」
拗ねる龍弥の唇を指でなぞると、僕の特別な人は君だよと修が柔らかく微笑んだ。
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