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修の悩み
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修こと、ステファン・ラクスネスは、龍弥との愛の巣である自宅からほど近い場所にあるカフェでコーヒーを飲んでいる。
「ステフ、おいステフ……ステファン!!」
「なんだい、突然大声を出さないでおくれよ」
「突然じゃない。見てみろ、お前だけが上の空だ」
黒い艶のあるツーブロックを後ろで束ねた色男は呆れた溜め息を吐き出し、怒気を孕んだ声で前を見ろと丸めた書類で彼に頭を叩かれて、ハッと気付くと苦笑いしたクライアントと目が合う。
そうだ。ここはあくまでカフェスペースで、今はクライアントとギャラリーで打ち合わせをしていたのだった。
修が一緒に仕事をしている建築デザイナーで新進気鋭の芸術家でもあるルイ・スケーヴィングこと、鷹伊良漯が今日は珍しく打ち合わせに同席している。そのせいで少し気が緩んでいたのかも知れない。
今日の打ち合わせは来年秋の個展の件で、漯のファンである学生たちが主体となって、子供たちを対象とした個展を趣旨に、クラウドファンディングで集めた資金をもとに企画、実施が予定された少し特殊なものである。
個展の規模やギャラリー内部の構造、展示内容の確認とクライアントが希望するテーマなどの擦り合わせ。
もちろんそれにはギャラリー側との挨拶も含まれていたのだが、いつのまにか意識を飛ばしてしまい、最後の最後で修は失態をおかしてしまった。
「なにやってんだよステフ。どうした、熱でもあんの?」
「ああ。すまないね漯」
「すまないね、じゃないんだよ。相手が学生だからって失礼だろ」
「いや本当に申し訳なかった」
修は漯に頭を下げると、手帳を開いて今日のスケジュールを再確認する。この後は事務所で取材と打ち合わせが一件ずつ。15時までには終わる予定だ。
タクシーで事務所を兼ねた漯のアトリエに向かうと、パソコンを立ち上げてメールをチェックする。
「なあ、ステフ」
「なんだい?」
パーテーションに肘を掛けて向こうから顔を出す漯をチラリと一瞥して、またパソコンに視線を移してキーボードを叩く。
「お前恋人となんかあったの?」
修は驚いて目を丸くすると、漯に龍弥のことを話しただろうかと記憶の糸を手繰り寄せる。
「いやいや、知らないよ。勘だよ勘。憬くんのことで大変だったろうけど、その割によく笑うようになったからそんな気がするだけ」
先んじて心の中まで読まれてしまったらしい。
「……漯にしては僕のことをよく見てるね」
「ステフといつから一緒にいると思ってんの」
「確かにそうだね」
漯との関係は少々ややこしく、遠縁の親戚ではあるが実際のところ、修の父親の妹婿の兄嫁の甥に当たるのが彼で血の繋がりは無い。
そんな漯とは親が国際結婚してる境遇が似ていて、昔から交流があり面倒を見て来た経緯がある。
「その恋人と喧嘩でもした?」
「喧嘩なんてしないよ」
「じゃあ何が原因であんなつまんないミスしたんだよ」
相変わらずパーテーションの向こうから肘をついて顔だけ覗かせる漯が、少し厳しい口調で修を問い正す。
「そうだね、仕事に支障が出てしまったんだ。プライベートなことだけど、漯に相談してみようかな」
仕事が終わったら時間を取ってもらうことにして、修は再び画面に視線を戻してキーボードを叩いた。
「ステフ、おいステフ……ステファン!!」
「なんだい、突然大声を出さないでおくれよ」
「突然じゃない。見てみろ、お前だけが上の空だ」
黒い艶のあるツーブロックを後ろで束ねた色男は呆れた溜め息を吐き出し、怒気を孕んだ声で前を見ろと丸めた書類で彼に頭を叩かれて、ハッと気付くと苦笑いしたクライアントと目が合う。
そうだ。ここはあくまでカフェスペースで、今はクライアントとギャラリーで打ち合わせをしていたのだった。
修が一緒に仕事をしている建築デザイナーで新進気鋭の芸術家でもあるルイ・スケーヴィングこと、鷹伊良漯が今日は珍しく打ち合わせに同席している。そのせいで少し気が緩んでいたのかも知れない。
今日の打ち合わせは来年秋の個展の件で、漯のファンである学生たちが主体となって、子供たちを対象とした個展を趣旨に、クラウドファンディングで集めた資金をもとに企画、実施が予定された少し特殊なものである。
個展の規模やギャラリー内部の構造、展示内容の確認とクライアントが希望するテーマなどの擦り合わせ。
もちろんそれにはギャラリー側との挨拶も含まれていたのだが、いつのまにか意識を飛ばしてしまい、最後の最後で修は失態をおかしてしまった。
「なにやってんだよステフ。どうした、熱でもあんの?」
「ああ。すまないね漯」
「すまないね、じゃないんだよ。相手が学生だからって失礼だろ」
「いや本当に申し訳なかった」
修は漯に頭を下げると、手帳を開いて今日のスケジュールを再確認する。この後は事務所で取材と打ち合わせが一件ずつ。15時までには終わる予定だ。
タクシーで事務所を兼ねた漯のアトリエに向かうと、パソコンを立ち上げてメールをチェックする。
「なあ、ステフ」
「なんだい?」
パーテーションに肘を掛けて向こうから顔を出す漯をチラリと一瞥して、またパソコンに視線を移してキーボードを叩く。
「お前恋人となんかあったの?」
修は驚いて目を丸くすると、漯に龍弥のことを話しただろうかと記憶の糸を手繰り寄せる。
「いやいや、知らないよ。勘だよ勘。憬くんのことで大変だったろうけど、その割によく笑うようになったからそんな気がするだけ」
先んじて心の中まで読まれてしまったらしい。
「……漯にしては僕のことをよく見てるね」
「ステフといつから一緒にいると思ってんの」
「確かにそうだね」
漯との関係は少々ややこしく、遠縁の親戚ではあるが実際のところ、修の父親の妹婿の兄嫁の甥に当たるのが彼で血の繋がりは無い。
そんな漯とは親が国際結婚してる境遇が似ていて、昔から交流があり面倒を見て来た経緯がある。
「その恋人と喧嘩でもした?」
「喧嘩なんてしないよ」
「じゃあ何が原因であんなつまんないミスしたんだよ」
相変わらずパーテーションの向こうから肘をついて顔だけ覗かせる漯が、少し厳しい口調で修を問い正す。
「そうだね、仕事に支障が出てしまったんだ。プライベートなことだけど、漯に相談してみようかな」
仕事が終わったら時間を取ってもらうことにして、修は再び画面に視線を戻してキーボードを叩いた。
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