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新たな日常
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結局、二人が家に帰宅したのは明け方の5時過ぎだった。
巽の店に長居して、三人で思い出話や近況を話し合い、帰り道で24時間営業のスーパーに立ち寄って食材を買い込んで来た。
「いくら龍弥が高給取りだからって、毎回外食ばかりじゃ体が心配だものね」
「なに。じゃあ修が弁当でも作ってくれんの」
冷蔵庫に買い物をしまう修を見ながら冗談めかして龍弥が喉を鳴らすと、弁当じゃ足りないだろうねと修はサラッと素で返事を寄越す。
「手作りがいいなら僕は構わないけれど、量も限られるし、お弁当は傷みやすいからね」
「いや、俺も流石にそこまでガチでお願いしてないから。たまに家に居る時に修の飯食えるだけで満足だよ」
アンタも仕事あるんだからと龍弥が困惑した顔で見つめると、修は表情を和らげて別にお弁当くらい作るのにと冷蔵庫に視線を戻す。
食事に関しては気負って欲しくないと龍弥は思う。そもそも家での食事は野菜ジュースかスムージーで済ませていた龍弥だ。3食しっかりの生活に胃が追い付くとは思えない。
それに龍弥は別に料理が苦手な訳ではない。だから修だけの負担にならないように、出来るだけ自分もキッチンに立とうとは思っている。
「どうかしたのかい。ほら、コーヒー淹れたよ」
「悪いな」
マグカップを受け取ると熱いコーヒーを啜りながら、料理や掃除はできる限り分担してお互いの負担を減らしたいと龍弥が切り出す。
「お互い自由が利く仕事とは云え、仕事の時間帯はすれ違いもあるからな。アンタに無理をさせたくない」
「龍弥はどこまで優しいんだろうね。僕は愛されてると勘違いしそうだよ」
「したらいいんじゃねえの」
「ふふ。じゃあ僕の勘違いじゃなくて、次ははっきり愛してると伝えてくれることを祈ってるよ」
「……ハードルを上げるなよ」
苦笑して修の頬をつねると、話を戻して龍弥がどうしようかと首を捻る。
「分担するにしても、お互いのスケジュール把握からだよな」
「龍弥は突発的に出ないといけないケースもあるんじゃないのかい」
「まあな、スタッフのフォローもあるし。人手が足りずにバタバタするとしたらそっちだろうな。事務的なことで言えば、いつまでにこれを絶対とかそう云うのは四半期、年度末くらいか。それも外注してるけど」
給与処理や経理処理をするスタッフも置いては居るが、基本的に投げられるものは全てアウトソーシング頼りだ。
となると、龍弥はほぼメインで深夜帯にシフト制で働いているのと変わりない。
日中営業している店をメインにすれば、深夜帯から生活軸をずらすことが出来なくもないが、関わる人数が多過ぎるので自分の都合だけでそれを強行する訳にもいかない。
「龍弥が無理に生活を変える必要はないよ。僕だって子供じゃないんだ。仕事とどっちが大事なんて騒ぐ気はないし、僕も仕事が好きだから譲れないことはあるからね」
修の理解ある反応が嬉しい反面、もっとワガママをぶつけて欲しい気持ちが芽生えるが、彼は龍弥より二つも歳上の自立した大人だ。
修は龍弥にワガママが言えないんじゃない。言わない。そもそもワガママを言う選択肢自体がないのだ。
(器用すぎるのも困りものだよな……)
修にどうやって甘えさせるか。龍弥の中で新たな問題が浮上したのだった。
巽の店に長居して、三人で思い出話や近況を話し合い、帰り道で24時間営業のスーパーに立ち寄って食材を買い込んで来た。
「いくら龍弥が高給取りだからって、毎回外食ばかりじゃ体が心配だものね」
「なに。じゃあ修が弁当でも作ってくれんの」
冷蔵庫に買い物をしまう修を見ながら冗談めかして龍弥が喉を鳴らすと、弁当じゃ足りないだろうねと修はサラッと素で返事を寄越す。
「手作りがいいなら僕は構わないけれど、量も限られるし、お弁当は傷みやすいからね」
「いや、俺も流石にそこまでガチでお願いしてないから。たまに家に居る時に修の飯食えるだけで満足だよ」
アンタも仕事あるんだからと龍弥が困惑した顔で見つめると、修は表情を和らげて別にお弁当くらい作るのにと冷蔵庫に視線を戻す。
食事に関しては気負って欲しくないと龍弥は思う。そもそも家での食事は野菜ジュースかスムージーで済ませていた龍弥だ。3食しっかりの生活に胃が追い付くとは思えない。
それに龍弥は別に料理が苦手な訳ではない。だから修だけの負担にならないように、出来るだけ自分もキッチンに立とうとは思っている。
「どうかしたのかい。ほら、コーヒー淹れたよ」
「悪いな」
マグカップを受け取ると熱いコーヒーを啜りながら、料理や掃除はできる限り分担してお互いの負担を減らしたいと龍弥が切り出す。
「お互い自由が利く仕事とは云え、仕事の時間帯はすれ違いもあるからな。アンタに無理をさせたくない」
「龍弥はどこまで優しいんだろうね。僕は愛されてると勘違いしそうだよ」
「したらいいんじゃねえの」
「ふふ。じゃあ僕の勘違いじゃなくて、次ははっきり愛してると伝えてくれることを祈ってるよ」
「……ハードルを上げるなよ」
苦笑して修の頬をつねると、話を戻して龍弥がどうしようかと首を捻る。
「分担するにしても、お互いのスケジュール把握からだよな」
「龍弥は突発的に出ないといけないケースもあるんじゃないのかい」
「まあな、スタッフのフォローもあるし。人手が足りずにバタバタするとしたらそっちだろうな。事務的なことで言えば、いつまでにこれを絶対とかそう云うのは四半期、年度末くらいか。それも外注してるけど」
給与処理や経理処理をするスタッフも置いては居るが、基本的に投げられるものは全てアウトソーシング頼りだ。
となると、龍弥はほぼメインで深夜帯にシフト制で働いているのと変わりない。
日中営業している店をメインにすれば、深夜帯から生活軸をずらすことが出来なくもないが、関わる人数が多過ぎるので自分の都合だけでそれを強行する訳にもいかない。
「龍弥が無理に生活を変える必要はないよ。僕だって子供じゃないんだ。仕事とどっちが大事なんて騒ぐ気はないし、僕も仕事が好きだから譲れないことはあるからね」
修の理解ある反応が嬉しい反面、もっとワガママをぶつけて欲しい気持ちが芽生えるが、彼は龍弥より二つも歳上の自立した大人だ。
修は龍弥にワガママが言えないんじゃない。言わない。そもそもワガママを言う選択肢自体がないのだ。
(器用すぎるのも困りものだよな……)
修にどうやって甘えさせるか。龍弥の中で新たな問題が浮上したのだった。
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