21 / 41
そして真相を知る
しおりを挟む
二人きりで話したいだろうからと、修は龍弥と憬を会わせるなり職員と手続きの話があるからと言い残して早々に部屋を出ていってしまった。
「なんだよさっきから威嚇して。懐かない野良猫みたいだ」
「うるせえよ」
「はは。簡単には撫でさせないって吠えた」
猫じゃなくて犬だねと憬は可笑しそうに肩を揺らして小さく咳払いすると、情けない再会になったと自虐的に笑って視線を落とす。
「最期まで俺に会う気なんかなかったろ」
「……どうせステフに焚き付けられたんじゃない?アイツはお節介だからね」
「ステフ?なんだそれ、あだ名かなんかなのか」
「ステファン・ラクスネス。弟の名前だよ」
「は?アイツ本当はそんな名前なのかよ」
「なんだよ龍弥、お前アイツの名前も知らなかったのか。傑作だな」
「笑い事じゃねえよ。じゃあ修って偽名なのかよ」
咳き込みながら肩を揺らす憬を心配した眼差しで見つめると、気管支がもうイカれてると憬が笑う。
「はは、ごめん。揶揄っただけだよ。お前は本当に揶揄い甲斐があるヤツだね。修はお袋がつけた和名だよ。義理の親父、ステフの父親は外国人でアイツには名前が2個あるってだけだ」
「……アンタら本当に兄弟なんだな」
「まあね。全然似てないって思うんだろ、まあ誰が見てもそう思うだろうなぁ」
憬は二人が幼い頃の話を面白おかしく龍弥に聞かせると、それにしても驚いたと口角を上げる。
「まさか龍弥に会えるとはね。冥土の土産にしては上々だね」
「本気か冗談か判断し辛いことをサラッと言うな」
「ははは。龍弥も大人になったんだね。店は潰してない?アレからだいぶ経ったけど」
「10年だ。譲り受けた分はなんとか切り盛りしてる。スタッフの顔ぶれが変わってない店も残ってる」
ポケットからスマホを取り出すと、内装に手を入れた店もあるけど何も変わってないと言いながら憬に画像を見せる。
「凄いじゃないか。はは、凛太郎だ。他にも懐かしい顔が何人も居るね」
嬉しそうに画面を見つめる憬の眼差しは少年のようにキラキラしている。この人がもう去ろうとしているのは、実際に対峙すれば誰にでも分かること。それほどに憬は衰弱した様子なのだ。
「……修から聞かされた話を確認したい」
「さて。お前はなんて言い含められたのかな」
スマホの画面から目を離して愉快そうに笑みを作ると、憬は龍弥の手を取って話すなら今のうちにと弱い握力に力を込めた。
「アンタは俺のために俺を捨てたのか」
「そんな格好の良い話じゃないんだけどな」
「茶化すなよ。じゃあそれが真相なんだな?」
「今更それを知ってどうするの?俺は自暴自棄になって恋人と仕事を投げ捨てた。それだけだよ、美談にするような話じゃない」
憬は龍弥を真っ直ぐに見つめて、俺を善人にしなくていいと呟いた。その言葉で龍弥の溜飲が下がった。
「嫌ったまま本当に別れることになる前で良かったよ」
「惚れ直しただろ」
「少しだけな」
「はは、ステフが嫉妬で怒りそうだ」
悪戯を楽しむ子供のような笑顔で憬が笑う。
この人のこんな屈託のない笑顔が好きだった。それだけに突き放された時の冷たい声音や表情を、いつまで経っても受け入れられなかった。
「泣くなよ。男前が台無しになるぞ」
「泣いてねえよ。老眼鏡要るんじゃないか」
「そこまで年寄り扱いしないでよ」
静かな部屋に和やかな笑い声が響く。
この時間は続かない。それが分かるからこそ、流れ落ちる涙は拭わずに、減らず口を叩いていつまでも彼を笑わせたかった。
「なんだよさっきから威嚇して。懐かない野良猫みたいだ」
「うるせえよ」
「はは。簡単には撫でさせないって吠えた」
猫じゃなくて犬だねと憬は可笑しそうに肩を揺らして小さく咳払いすると、情けない再会になったと自虐的に笑って視線を落とす。
「最期まで俺に会う気なんかなかったろ」
「……どうせステフに焚き付けられたんじゃない?アイツはお節介だからね」
「ステフ?なんだそれ、あだ名かなんかなのか」
「ステファン・ラクスネス。弟の名前だよ」
「は?アイツ本当はそんな名前なのかよ」
「なんだよ龍弥、お前アイツの名前も知らなかったのか。傑作だな」
「笑い事じゃねえよ。じゃあ修って偽名なのかよ」
咳き込みながら肩を揺らす憬を心配した眼差しで見つめると、気管支がもうイカれてると憬が笑う。
「はは、ごめん。揶揄っただけだよ。お前は本当に揶揄い甲斐があるヤツだね。修はお袋がつけた和名だよ。義理の親父、ステフの父親は外国人でアイツには名前が2個あるってだけだ」
「……アンタら本当に兄弟なんだな」
「まあね。全然似てないって思うんだろ、まあ誰が見てもそう思うだろうなぁ」
憬は二人が幼い頃の話を面白おかしく龍弥に聞かせると、それにしても驚いたと口角を上げる。
「まさか龍弥に会えるとはね。冥土の土産にしては上々だね」
「本気か冗談か判断し辛いことをサラッと言うな」
「ははは。龍弥も大人になったんだね。店は潰してない?アレからだいぶ経ったけど」
「10年だ。譲り受けた分はなんとか切り盛りしてる。スタッフの顔ぶれが変わってない店も残ってる」
ポケットからスマホを取り出すと、内装に手を入れた店もあるけど何も変わってないと言いながら憬に画像を見せる。
「凄いじゃないか。はは、凛太郎だ。他にも懐かしい顔が何人も居るね」
嬉しそうに画面を見つめる憬の眼差しは少年のようにキラキラしている。この人がもう去ろうとしているのは、実際に対峙すれば誰にでも分かること。それほどに憬は衰弱した様子なのだ。
「……修から聞かされた話を確認したい」
「さて。お前はなんて言い含められたのかな」
スマホの画面から目を離して愉快そうに笑みを作ると、憬は龍弥の手を取って話すなら今のうちにと弱い握力に力を込めた。
「アンタは俺のために俺を捨てたのか」
「そんな格好の良い話じゃないんだけどな」
「茶化すなよ。じゃあそれが真相なんだな?」
「今更それを知ってどうするの?俺は自暴自棄になって恋人と仕事を投げ捨てた。それだけだよ、美談にするような話じゃない」
憬は龍弥を真っ直ぐに見つめて、俺を善人にしなくていいと呟いた。その言葉で龍弥の溜飲が下がった。
「嫌ったまま本当に別れることになる前で良かったよ」
「惚れ直しただろ」
「少しだけな」
「はは、ステフが嫉妬で怒りそうだ」
悪戯を楽しむ子供のような笑顔で憬が笑う。
この人のこんな屈託のない笑顔が好きだった。それだけに突き放された時の冷たい声音や表情を、いつまで経っても受け入れられなかった。
「泣くなよ。男前が台無しになるぞ」
「泣いてねえよ。老眼鏡要るんじゃないか」
「そこまで年寄り扱いしないでよ」
静かな部屋に和やかな笑い声が響く。
この時間は続かない。それが分かるからこそ、流れ落ちる涙は拭わずに、減らず口を叩いていつまでも彼を笑わせたかった。
10
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる