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不意の再会
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亮太の店、6 feet underを出てから更に南下して裏通りを二本進んだ先の一画。
目の前を流れる竪乃川は一部の人間の間では三途の川と呼ばれている。その所以は、川を隔てた橋向こうには住宅街が広がり、夜の街がここで完全に分断されるからだ。
そんな夜の街の最果てに、龍弥の目的地である馴染みのショットバーTartarosがある。
分厚い一枚板の扉を開けるとくぐもったドアベルの音が鳴り、カウンターに立つ線の細い男性がこちらに顔を向けた。
「よお、久しぶりだな。どうしてたんだよ」
「それ亮太にも言われたよ。どうもこうも、仕事漬けだったに決まってんだろ」
平日なのと時間的なものも相まって、店内は想像よりも閑散としている。
龍弥はカウンターのど真ん中に無遠慮に腰掛けると、駆けつけ一杯、歩いて喉が渇いたからと、マスターで友人でもある細谷巽が用意したテコニックを水代わりに一気に飲み干す。
「随分と忙しくしてるみたいじゃないか」
「あー?おかげさんでな。でもオーナーが出張って働き過ぎだって言われた」
「なんだよ、凛太郎か」
「アイツしか居ないだろ、俺に説教すんの」
龍弥が苦笑いしながら腐れ縁の友人を思い浮かべていると、何も言わずとも褐色のドリンクが目の前に置かれる。
「パンペロ、アニバサリオ」
「ああ。前に飲ませてもらってハマったやつ」
「客の嗜好は一応頭に入ってるもんで」
龍弥に顔を寄せてフッと笑うと、巽は思い出したようにカウンターに灰皿を置き、ごゆっくりと呟いてから別の客の相手を再開した。
こんな風に構われ過ぎないところが心地好い。龍弥は少し出来過ぎた対応に苦笑しながらタバコを取り出すと、火を点けようとライターを探す。
「どうぞ?」
ふわりと香る甘い蜜のような香り。背後からスマートに差し出された手元で、小さな炎が揺らめいている。
「……本当なんなんだ。今日は厄日か」
龍弥は溜め息を吐き出しながらもライターの火を借りる為、伸ばされた手首を押さえてタバコに火を点ける。
フッと笑う気配の後、龍弥が感じ取った甘ったるい香りはより一層濃くなって、ライターの蓋を閉じる音と一緒に、タバコが焼ける別の匂いがした。
「ね?また縁があった」
タバコの煙をゆっくりと吐き出し、隣の席で意味深に微笑むのは、プラチナブロンドのあの美しい顔をした男だ。
龍弥はうんざりした顔のままタバコの煙を吐き出すと、灰皿に灰を落としてそのままタバコを置き、グラスを手に取ってダークラムを一気に飲み干す。
「……縁も何もただの偶然だろ。巽、キャプテンモルガンのブラックラベルくれないか。ロックで」
灰皿の中で白く燻るタバコをまた手に取ると、少し離れたところで客と談笑する巽に声を掛ける。
「そっか。じゃあ巽くん、僕も同じものをちょうだい」
巽に向かって親しげな笑顔を浮かべる男にギョッとした顔を向けると、男は何も言わずに龍弥にも笑顔を向けるだけだ。
「なんだ。修と知り合いなのか龍弥」
「……修?」
「なあに」
困惑した龍弥がオウム返しで声に出した名前に反応すると、真横のプラチナブロンドの彼がスラリと伸びる細い指を顎に添えてカウンターに肘をつく。
その脇で細い白い煙が一筋、灰皿から立ち上っている。
目の前を流れる竪乃川は一部の人間の間では三途の川と呼ばれている。その所以は、川を隔てた橋向こうには住宅街が広がり、夜の街がここで完全に分断されるからだ。
そんな夜の街の最果てに、龍弥の目的地である馴染みのショットバーTartarosがある。
分厚い一枚板の扉を開けるとくぐもったドアベルの音が鳴り、カウンターに立つ線の細い男性がこちらに顔を向けた。
「よお、久しぶりだな。どうしてたんだよ」
「それ亮太にも言われたよ。どうもこうも、仕事漬けだったに決まってんだろ」
平日なのと時間的なものも相まって、店内は想像よりも閑散としている。
龍弥はカウンターのど真ん中に無遠慮に腰掛けると、駆けつけ一杯、歩いて喉が渇いたからと、マスターで友人でもある細谷巽が用意したテコニックを水代わりに一気に飲み干す。
「随分と忙しくしてるみたいじゃないか」
「あー?おかげさんでな。でもオーナーが出張って働き過ぎだって言われた」
「なんだよ、凛太郎か」
「アイツしか居ないだろ、俺に説教すんの」
龍弥が苦笑いしながら腐れ縁の友人を思い浮かべていると、何も言わずとも褐色のドリンクが目の前に置かれる。
「パンペロ、アニバサリオ」
「ああ。前に飲ませてもらってハマったやつ」
「客の嗜好は一応頭に入ってるもんで」
龍弥に顔を寄せてフッと笑うと、巽は思い出したようにカウンターに灰皿を置き、ごゆっくりと呟いてから別の客の相手を再開した。
こんな風に構われ過ぎないところが心地好い。龍弥は少し出来過ぎた対応に苦笑しながらタバコを取り出すと、火を点けようとライターを探す。
「どうぞ?」
ふわりと香る甘い蜜のような香り。背後からスマートに差し出された手元で、小さな炎が揺らめいている。
「……本当なんなんだ。今日は厄日か」
龍弥は溜め息を吐き出しながらもライターの火を借りる為、伸ばされた手首を押さえてタバコに火を点ける。
フッと笑う気配の後、龍弥が感じ取った甘ったるい香りはより一層濃くなって、ライターの蓋を閉じる音と一緒に、タバコが焼ける別の匂いがした。
「ね?また縁があった」
タバコの煙をゆっくりと吐き出し、隣の席で意味深に微笑むのは、プラチナブロンドのあの美しい顔をした男だ。
龍弥はうんざりした顔のままタバコの煙を吐き出すと、灰皿に灰を落としてそのままタバコを置き、グラスを手に取ってダークラムを一気に飲み干す。
「……縁も何もただの偶然だろ。巽、キャプテンモルガンのブラックラベルくれないか。ロックで」
灰皿の中で白く燻るタバコをまた手に取ると、少し離れたところで客と談笑する巽に声を掛ける。
「そっか。じゃあ巽くん、僕も同じものをちょうだい」
巽に向かって親しげな笑顔を浮かべる男にギョッとした顔を向けると、男は何も言わずに龍弥にも笑顔を向けるだけだ。
「なんだ。修と知り合いなのか龍弥」
「……修?」
「なあに」
困惑した龍弥がオウム返しで声に出した名前に反応すると、真横のプラチナブロンドの彼がスラリと伸びる細い指を顎に添えてカウンターに肘をつく。
その脇で細い白い煙が一筋、灰皿から立ち上っている。
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