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52.これからもずっと
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街を彩るツツジがいつの間にか紫陽花に変わり、梅雨を迎えた6月下旬の土曜日。
堅苦しいのは性に合わないからと、ようやく住み慣れた転居先に互いの両親が遊びに来ている。
ここに、呼ばずして自分もとついてきた真彩に加えて、偶然遊びに来た慶太郎の姿もあるが、それはそれで置いておく。
元々は4LDKだった間取りをフルリノベーションした築37年のマンションは、リビングが広い3LDKSの二人暮らしには勿体無いほどの優良物件だ。
初めての顔合わせとなった親たちは、最初こそ緊張していた様子だったが、悠仁の母が持ち込んだ手作り梅酒で乾杯した辺りから、だいぶリラックスして息子たちの話題もそこそこに互いの親睦を深めている。
男手一つで絋亮を育ててきた彼の父の話に、悠仁の両親は強く感銘を受け、これからは家族同様に交流を深めようと何度も乾杯している様子が微笑ましい。
真彩は久しぶりに再会した慶太郎と積もる話があったのか、親たちが盛り上がっているすぐ隣で、女子会よろしく恋バナに花を咲かせているらしかった。
転居に関してはここに決まるまで少し大変だった。
物件の相場がそれなりに高いこともあって、二人が希望するエリアではルームシェアに否定的な管理会社が多く、一時はここら辺での部屋探しも断念しかけたくらいだ。
けれど絋亮の知り合いの中に、この辺りでマンションを所有している知人が居るとの噂を聞きつけ、思い切って相談したところ、ようやくこの家に巡り会えた。
内見して一目で気に入ってすぐに契約し、5月に入ってからやっと引っ越しを終えるに至った。
絋亮と悠仁は並んでキッチンに立ち、昼食の準備をしながら、家族の楽しそうな顔を眺めて顔を見合わせる。
これから始まっていくことだが、こんなにも心強い安心感を与えてくれる、支えてくれる家族や友人が居ることに感謝して、どんなことでも乗り越えていこうと言葉もなく誓い合う。
レシピサイトを見ながら作ったコロッケや唐揚げ。ちらし寿司は失敗しないように混ぜ込むだけの素を買って作った。錦糸卵が太いのはご愛嬌だ。
不恰好だが、思いを込めた手作りの料理をテーブルに並べると、ようやく全員揃って食事を始める。
それぞれが思い思いに好きなことを話し、誰が誰に返事をしているのか、全く訳が分からないカオスな空間がすぐに出来上がるが、それでもその場にいるみんなが笑顔で楽しそうにしているのが、二人にとってはこの上なく嬉しいことだった。
客間とリビングに布団を敷くと、父親たちはお酒を持ち込んで客間で語り合ってそのまま眠り、リビングでは悠仁の母と真彩、慶太郎が雑魚寝している。
片付けを終えてソファーにもたれるように座ると、慶太郎の変な寝言が聞こえてきて、絋亮と悠仁は顔を見合わせてお腹を抱える。
結婚という形ではないけれど、これから先もお互いを尊重し合って、ずっと一緒に過ごしていきたいと思う。
世間から見れば、まだまだマイナーで異質と言われる関係なのかも知れない。けれど周りがどうあれ、二人は互いの魂の伴侶を見つけた気分なのだ。
絋亮は左手の薬指に、悠仁はネックレスのトップに揃いの指輪をつけることにした。
悠仁は相変わらず職場ではカミングアウトしていない。絋亮の方は周知されているが、悠仁の意思を尊重して外を出歩く時は、気心知れた親友のような距離感を保ってくれている。
いつかは大手を振って堂々と歩きたい。そんな日が来ることを願って、たわいない話をしているうちに、絋亮がうとうとし始める。
梅雨の晴れ間に、開け放した窓から風が吹き込んで、白いレースのカーテンが翻る。
なんでもない些細な幸せかも知れないが、こんな日々が続いていくことを願って。この幸せを守るために。
家族をもてなした疲れが出たのか、気が付くと二人揃ってソファーで身を寄せ合ってうたた寝してしまった。
入れ違うようにトイレで起きた慶太郎が、こっそりとそんな二人の寝顔を写真に収めたのはまた別の話。
おわり。
堅苦しいのは性に合わないからと、ようやく住み慣れた転居先に互いの両親が遊びに来ている。
ここに、呼ばずして自分もとついてきた真彩に加えて、偶然遊びに来た慶太郎の姿もあるが、それはそれで置いておく。
元々は4LDKだった間取りをフルリノベーションした築37年のマンションは、リビングが広い3LDKSの二人暮らしには勿体無いほどの優良物件だ。
初めての顔合わせとなった親たちは、最初こそ緊張していた様子だったが、悠仁の母が持ち込んだ手作り梅酒で乾杯した辺りから、だいぶリラックスして息子たちの話題もそこそこに互いの親睦を深めている。
男手一つで絋亮を育ててきた彼の父の話に、悠仁の両親は強く感銘を受け、これからは家族同様に交流を深めようと何度も乾杯している様子が微笑ましい。
真彩は久しぶりに再会した慶太郎と積もる話があったのか、親たちが盛り上がっているすぐ隣で、女子会よろしく恋バナに花を咲かせているらしかった。
転居に関してはここに決まるまで少し大変だった。
物件の相場がそれなりに高いこともあって、二人が希望するエリアではルームシェアに否定的な管理会社が多く、一時はここら辺での部屋探しも断念しかけたくらいだ。
けれど絋亮の知り合いの中に、この辺りでマンションを所有している知人が居るとの噂を聞きつけ、思い切って相談したところ、ようやくこの家に巡り会えた。
内見して一目で気に入ってすぐに契約し、5月に入ってからやっと引っ越しを終えるに至った。
絋亮と悠仁は並んでキッチンに立ち、昼食の準備をしながら、家族の楽しそうな顔を眺めて顔を見合わせる。
これから始まっていくことだが、こんなにも心強い安心感を与えてくれる、支えてくれる家族や友人が居ることに感謝して、どんなことでも乗り越えていこうと言葉もなく誓い合う。
レシピサイトを見ながら作ったコロッケや唐揚げ。ちらし寿司は失敗しないように混ぜ込むだけの素を買って作った。錦糸卵が太いのはご愛嬌だ。
不恰好だが、思いを込めた手作りの料理をテーブルに並べると、ようやく全員揃って食事を始める。
それぞれが思い思いに好きなことを話し、誰が誰に返事をしているのか、全く訳が分からないカオスな空間がすぐに出来上がるが、それでもその場にいるみんなが笑顔で楽しそうにしているのが、二人にとってはこの上なく嬉しいことだった。
客間とリビングに布団を敷くと、父親たちはお酒を持ち込んで客間で語り合ってそのまま眠り、リビングでは悠仁の母と真彩、慶太郎が雑魚寝している。
片付けを終えてソファーにもたれるように座ると、慶太郎の変な寝言が聞こえてきて、絋亮と悠仁は顔を見合わせてお腹を抱える。
結婚という形ではないけれど、これから先もお互いを尊重し合って、ずっと一緒に過ごしていきたいと思う。
世間から見れば、まだまだマイナーで異質と言われる関係なのかも知れない。けれど周りがどうあれ、二人は互いの魂の伴侶を見つけた気分なのだ。
絋亮は左手の薬指に、悠仁はネックレスのトップに揃いの指輪をつけることにした。
悠仁は相変わらず職場ではカミングアウトしていない。絋亮の方は周知されているが、悠仁の意思を尊重して外を出歩く時は、気心知れた親友のような距離感を保ってくれている。
いつかは大手を振って堂々と歩きたい。そんな日が来ることを願って、たわいない話をしているうちに、絋亮がうとうとし始める。
梅雨の晴れ間に、開け放した窓から風が吹き込んで、白いレースのカーテンが翻る。
なんでもない些細な幸せかも知れないが、こんな日々が続いていくことを願って。この幸せを守るために。
家族をもてなした疲れが出たのか、気が付くと二人揃ってソファーで身を寄せ合ってうたた寝してしまった。
入れ違うようにトイレで起きた慶太郎が、こっそりとそんな二人の寝顔を写真に収めたのはまた別の話。
おわり。
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