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37.温泉旅行
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温泉旅行の当日。空気は冷たいが、天気は晴れて行楽日和の中、朝からレンタカーに乗り込んで移動を開始。
荷物は少なく後部座席に二人分のバッグを積んである。
「そういえば昨日、母親から連絡があって。この休みの間にちょっと久々に実家に行ってこようと思ってる」
「そうなんだ。俺も父さんに会いに行こうかな」
「そうしてあげなよ。喜ぶんじゃないか」
「難しそうな顔してるけど、もしかしてカミングアウトするつもりなのかな」
「……よく分かるな。まあ絋亮と一緒に暮らすってのもあるし、言うなら今なんだろうなって」
「じゃあ俺も一緒に挨拶に行こうか」
「え?」
驚いて絋亮の顔を見ると、大事なことだからねと優しい顔で笑い返される。
「子供じゃないんだし、きちんと挨拶するべきじゃないかな」
「いやでもカミングアウトすらまだなのに、いきなりパートナー連れて行くってのは」
「行くだけ一緒に着いて行くよ。ホテルで大人しく待ってる。会ってくれるなら顔出しに行くからさ」
「それお前来るだけ損って言うか、空振りになる可能性高いだろ」
「なんとなくだけど、悠仁の家族は大丈夫と思うんだよね」
運転中の悠仁の頬にキスすると、ペットボトルのお茶を飲んで絋亮が改めて微笑む。
「それはお前の希望的観測だろ」
「だって無花果さんも言ってたし。パパさんも妹ちゃんも、実は知ってるんでしょ?」
「親父は多分って感じ。真彩はだいぶ前からだね。しかもアイツそういう設定のマンガが好きらしい」
「はは、腐女子ってやつだ」
「それなんなの。慶太郎も言ってたけど」
訝しむ悠仁に真顔で聞かないでよと絋亮が笑う。
「とにかく、まずは温泉と雪山を楽しもうよ」
「そうだな」
ハンドルから片手を離すと絋亮の髪をくしゃっと撫でて、高速道路を北上して行く。
途中サービスエリアに立ち寄って軽く買い食いしたり、写真も撮ったりして旅行を楽しむ。
悠仁にとって初めてのことで、妙にワクワクしてしまう自分が少し恥ずかしかったが、それ以上にテンションの高い絋亮を見ていると、ちょっとくらいワクワクしてもバチは当たらないかと苦笑いが溢れる。
「なにその憐れむような顔」
「違うよ。お前のはしゃぎっぷりが意外なんだよ」
「そう?いや、俺こういうの初めてだからテンション上がっちゃって」
「初めてなの?」
「そうだよ」
「なんだよ、そうなのかよ」
悠仁はついニヤけそうになるのを咳払いして誤魔化すと、再び車に乗り込んで移動を再開する。
長いドライブは5時間以上に及び、旅館に着いた時はチェックインギリギリの時間になってしまった。
それでも事前に連絡しておいたおかげでスムーズに手続きを済ませると、趣きのある離れの個室になった部屋に案内される。
「おお!」
「これは……」
スタッフが部屋を出て行くと、内風呂が露天風呂になっていて二人してテンションが上がって騒ぎながら写真を撮って、お互いのはしゃぎっぷりに指を差し合って爆笑する。
こちらの離れは近年増設された建物で、本館は歴史を感じさせる情緒ある造りでそれもまた魅力的だ。
「悠仁、先にひと風呂浴びたらいいじゃん」
「俺だけ?」
「運転疲れたでしょ。俺は助手席で楽させてもらったし、せっかくだから沢山入らないと」
「なにその損得勘定みたいな言い方」
可笑しくなって悠仁がお腹を抱える。その様子を見て絋亮も可笑しそうに肩を揺らしながら、せっかくなんだからと風呂をすすめてくる。
「でも沢山入れるんだし、入った方が良いって」
「めちゃくちゃ薦めるじゃん」
笑いながらも風呂に入る準備をして、悠仁が浴衣を手にすると、絋亮はスマホを構えて写真を撮り始める。
「ちょっと、なんでこんなとこ撮るんだよ」
「いやもう、なんて言うの。恋人と温泉旅行でしっぽりとか……待ってこれ最高じゃない?」
額に手を当てて大袈裟に喜びを噛み締める絋亮に、悠仁がまた爆笑する。
「お前ホントなんなの絋亮」
「いやもう感極まった感じ?」
「着いたばっかだよ。もっと温泉楽しんでから噛み締めろよ」
悠仁のツッコミが追い付かない。
笑いが絶えない中、早速内風呂に悠仁一人で入ると、写真小僧と化した絋亮が追ってきて、逐一カメラに収めるのでくつろげない。
「撮りすぎだろ」
「大丈夫!景色とマッチしてる」
「どの辺が大丈夫なんだよ」
サムズアップして得意げな顔をする絋亮に、ついぞ我慢できずに悠仁は大声を上げて笑ってしまう。いくら離れの個室が一棟ごとに距離があるとは言え、こんな大声で大爆笑してしまったら迷惑になる。
「ちょっと、ホントやめて。お腹痛い」
「すかさず撮る!」
「だからやめろってマジで」
笑いながらも体を洗うと、ようやく湯船に浸かって疲れを癒す。
「うっ、ぁあああ」
「ちょっとなにその変な声」
「浸かれば分かる。て言うか出る」
「なんだよそれ」
笑いながら絋亮がまたシャッターを切る。
「やっぱ撮るのかよ」
「結構いい思い出になるよ?あー。俺も入りたいな」
「だろ?膝下だけ浸かってみれば良いんじゃないか」
「うん。ちょっと着替えてくる」
一旦その場を離れた絋亮はズボンを脱いで、再びやってくると、足先を洗ってから湯船の縁に座って足湯のように温泉に浸かる。
「うっあぁあああ。染みるう」
「お前も変な声出すじゃん」
「こりゃ出ちゃうね。夜またしっかり入るの楽しみになってきた」
「だな。入りたいタイミングで人に気を遣わずに温泉入れるとかホント贅沢だよな」
「来た甲斐があったね」
「絋亮と来れてよかったよ」
悠仁が何気なく呟くと、絋亮はまた感極まったように額に手を当てて唸り始める。
「今の顔可愛かった……なんでスマホ置いてきた俺」
「そこかよ」
情緒ある雪景色の中で平常運転しながら、賑やかに温泉を楽しむと、だいぶ体も温まったので一旦出ることにする。
「絋亮、歩けるなら温泉街見て回る?」
「痛み止め効いてるから杖なしでもいけそう」
「いや、杖は持っていこうな」
夕飯まではまだ時間があるので、夜景が美しいと評判の温泉街を散策することにして一度部屋を出る。
本館のフロントで、色々と説明や案内を受けてから温泉街に繰り出した。
荷物は少なく後部座席に二人分のバッグを積んである。
「そういえば昨日、母親から連絡があって。この休みの間にちょっと久々に実家に行ってこようと思ってる」
「そうなんだ。俺も父さんに会いに行こうかな」
「そうしてあげなよ。喜ぶんじゃないか」
「難しそうな顔してるけど、もしかしてカミングアウトするつもりなのかな」
「……よく分かるな。まあ絋亮と一緒に暮らすってのもあるし、言うなら今なんだろうなって」
「じゃあ俺も一緒に挨拶に行こうか」
「え?」
驚いて絋亮の顔を見ると、大事なことだからねと優しい顔で笑い返される。
「子供じゃないんだし、きちんと挨拶するべきじゃないかな」
「いやでもカミングアウトすらまだなのに、いきなりパートナー連れて行くってのは」
「行くだけ一緒に着いて行くよ。ホテルで大人しく待ってる。会ってくれるなら顔出しに行くからさ」
「それお前来るだけ損って言うか、空振りになる可能性高いだろ」
「なんとなくだけど、悠仁の家族は大丈夫と思うんだよね」
運転中の悠仁の頬にキスすると、ペットボトルのお茶を飲んで絋亮が改めて微笑む。
「それはお前の希望的観測だろ」
「だって無花果さんも言ってたし。パパさんも妹ちゃんも、実は知ってるんでしょ?」
「親父は多分って感じ。真彩はだいぶ前からだね。しかもアイツそういう設定のマンガが好きらしい」
「はは、腐女子ってやつだ」
「それなんなの。慶太郎も言ってたけど」
訝しむ悠仁に真顔で聞かないでよと絋亮が笑う。
「とにかく、まずは温泉と雪山を楽しもうよ」
「そうだな」
ハンドルから片手を離すと絋亮の髪をくしゃっと撫でて、高速道路を北上して行く。
途中サービスエリアに立ち寄って軽く買い食いしたり、写真も撮ったりして旅行を楽しむ。
悠仁にとって初めてのことで、妙にワクワクしてしまう自分が少し恥ずかしかったが、それ以上にテンションの高い絋亮を見ていると、ちょっとくらいワクワクしてもバチは当たらないかと苦笑いが溢れる。
「なにその憐れむような顔」
「違うよ。お前のはしゃぎっぷりが意外なんだよ」
「そう?いや、俺こういうの初めてだからテンション上がっちゃって」
「初めてなの?」
「そうだよ」
「なんだよ、そうなのかよ」
悠仁はついニヤけそうになるのを咳払いして誤魔化すと、再び車に乗り込んで移動を再開する。
長いドライブは5時間以上に及び、旅館に着いた時はチェックインギリギリの時間になってしまった。
それでも事前に連絡しておいたおかげでスムーズに手続きを済ませると、趣きのある離れの個室になった部屋に案内される。
「おお!」
「これは……」
スタッフが部屋を出て行くと、内風呂が露天風呂になっていて二人してテンションが上がって騒ぎながら写真を撮って、お互いのはしゃぎっぷりに指を差し合って爆笑する。
こちらの離れは近年増設された建物で、本館は歴史を感じさせる情緒ある造りでそれもまた魅力的だ。
「悠仁、先にひと風呂浴びたらいいじゃん」
「俺だけ?」
「運転疲れたでしょ。俺は助手席で楽させてもらったし、せっかくだから沢山入らないと」
「なにその損得勘定みたいな言い方」
可笑しくなって悠仁がお腹を抱える。その様子を見て絋亮も可笑しそうに肩を揺らしながら、せっかくなんだからと風呂をすすめてくる。
「でも沢山入れるんだし、入った方が良いって」
「めちゃくちゃ薦めるじゃん」
笑いながらも風呂に入る準備をして、悠仁が浴衣を手にすると、絋亮はスマホを構えて写真を撮り始める。
「ちょっと、なんでこんなとこ撮るんだよ」
「いやもう、なんて言うの。恋人と温泉旅行でしっぽりとか……待ってこれ最高じゃない?」
額に手を当てて大袈裟に喜びを噛み締める絋亮に、悠仁がまた爆笑する。
「お前ホントなんなの絋亮」
「いやもう感極まった感じ?」
「着いたばっかだよ。もっと温泉楽しんでから噛み締めろよ」
悠仁のツッコミが追い付かない。
笑いが絶えない中、早速内風呂に悠仁一人で入ると、写真小僧と化した絋亮が追ってきて、逐一カメラに収めるのでくつろげない。
「撮りすぎだろ」
「大丈夫!景色とマッチしてる」
「どの辺が大丈夫なんだよ」
サムズアップして得意げな顔をする絋亮に、ついぞ我慢できずに悠仁は大声を上げて笑ってしまう。いくら離れの個室が一棟ごとに距離があるとは言え、こんな大声で大爆笑してしまったら迷惑になる。
「ちょっと、ホントやめて。お腹痛い」
「すかさず撮る!」
「だからやめろってマジで」
笑いながらも体を洗うと、ようやく湯船に浸かって疲れを癒す。
「うっ、ぁあああ」
「ちょっとなにその変な声」
「浸かれば分かる。て言うか出る」
「なんだよそれ」
笑いながら絋亮がまたシャッターを切る。
「やっぱ撮るのかよ」
「結構いい思い出になるよ?あー。俺も入りたいな」
「だろ?膝下だけ浸かってみれば良いんじゃないか」
「うん。ちょっと着替えてくる」
一旦その場を離れた絋亮はズボンを脱いで、再びやってくると、足先を洗ってから湯船の縁に座って足湯のように温泉に浸かる。
「うっあぁあああ。染みるう」
「お前も変な声出すじゃん」
「こりゃ出ちゃうね。夜またしっかり入るの楽しみになってきた」
「だな。入りたいタイミングで人に気を遣わずに温泉入れるとかホント贅沢だよな」
「来た甲斐があったね」
「絋亮と来れてよかったよ」
悠仁が何気なく呟くと、絋亮はまた感極まったように額に手を当てて唸り始める。
「今の顔可愛かった……なんでスマホ置いてきた俺」
「そこかよ」
情緒ある雪景色の中で平常運転しながら、賑やかに温泉を楽しむと、だいぶ体も温まったので一旦出ることにする。
「絋亮、歩けるなら温泉街見て回る?」
「痛み止め効いてるから杖なしでもいけそう」
「いや、杖は持っていこうな」
夕飯まではまだ時間があるので、夜景が美しいと評判の温泉街を散策することにして一度部屋を出る。
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