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10.違う意味で縮まる距離
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空気はすっかりゆるくなくなって、むしろこの状況から甘い展開を再開する方が難しいだろう。
「それで、友川さんはなんて名前なの」
「俺は悠仁。はるかな悠久とかの悠に、にんべんに数字の二で、悠仁」
悠仁はまだ楽し気に笑う絋亮の手を取って、腕の中に閉じ込めると、されたのと同じように掌に指を滑らせる。
「あはは、これかなりくすぐったいね」
「だよね?まだ文字分かんないでしょ、もっと書こうな」
「もういいよ、分かったってば。いいよ、やめてよ」
「遠慮は要らないって。ほら」
「ひっひ、いひっ……ちょ、マジでやめっ、いひひ」
「いや、笑い方」
絋亮の笑い方がツボに入って、悠仁は咄嗟に手を離すと、身体全体を揺らして笑ってしまう。
「ったく。なにやってんだろ」
「本当にね」
ひとしきり笑うと、絋亮は起き上がってズボン貸すよとクローゼットから適当な部屋着を悠仁に投げて寄越すと、自分もクローゼットの前でラフなスウェットのズボンに履き替えている。
悠仁も受け取ったジャージのズボンに履き替えて、スーツのズボンをどうしようかとベッドに座って絋亮を見ると、預かるよと手が伸びてきた。
「ねえ、悠仁ってさ。あ、呼び捨てでいいのかな」
「別に構わないよ」
「じゃあ、悠仁。明日仕事なの?それとも休み?」
「休みだよ」
「そしたら風呂入っといでよ。今日仕事だったんだし、疲れてるよね。着替え貸すよ」
「それ泊まってけってこと?」
「俺はそっちが嬉しいかな。嫌なら帰っても大丈夫だよ。まあ、どのみちさっきのアレで、もう空気崩壊してるし」
「まあね」
二人で思い出し笑いして顔を見合わせると、自然と抱き合って啄むだけのキスを一回だけ交わす。
「出来れば湯船に浸からせてもらってもいいかな」
悠仁は泊まらせてもらうよと返して、先に風呂借りて良いのかなと、着替えの支度をする絋亮の了解を取る。
「あ、お湯張る?いいよ。はいこれ。さすがにパンツは新品だからそれはあげる」
「お気遣いどうも。風呂掃除するなら俺やるけど」
「マジで?そりゃ助かるけど」
「じゃあ決まりね」
悠仁は先に部屋を出て、立ち入り禁止のドアを避けてバスルームらしきドアを開く。
広い洗面台には小さなラックがいくつか並び、これでもかと言うほどの数が揃ったスキンケアグッズなどが整頓されて収納されている。
そしてその中には口紅などの、明らかに絋亮とは関係なさそうな化粧品の類も置かれていて、悠仁は動きを止めてついそれらを観察してしまう。
「どしたの?」
「いや、本当にきちんと整頓してると思って」
「あー正直に白状すると、油断するとゴミ屋敷みたいになるから、入れる場所決めてあるんだよね。それ以上、物を増やさないためにもね」
「へえ。潔癖な感じなのかと思った」
「違う違う。本当に面倒臭がりでダメなんだよ」
絋亮はラックからタオルや足拭きマットを取り出すと、洗面台の下からバスクリーナーとスポンジやブラシが入ったバケツを取り出した。
「掃除はザッとで大丈夫だけど、人んちって気持ち悪いだろうし、ガッツリ掃除するならこれ使って」
「ん。ありがとう」
洗濯物とスーツを片付けると言って、その場を離れた絋亮の後ろ姿を見つめながら、悠仁はこの微妙に近くなりすぎた関係性を不思議に思っていた。
「それで、友川さんはなんて名前なの」
「俺は悠仁。はるかな悠久とかの悠に、にんべんに数字の二で、悠仁」
悠仁はまだ楽し気に笑う絋亮の手を取って、腕の中に閉じ込めると、されたのと同じように掌に指を滑らせる。
「あはは、これかなりくすぐったいね」
「だよね?まだ文字分かんないでしょ、もっと書こうな」
「もういいよ、分かったってば。いいよ、やめてよ」
「遠慮は要らないって。ほら」
「ひっひ、いひっ……ちょ、マジでやめっ、いひひ」
「いや、笑い方」
絋亮の笑い方がツボに入って、悠仁は咄嗟に手を離すと、身体全体を揺らして笑ってしまう。
「ったく。なにやってんだろ」
「本当にね」
ひとしきり笑うと、絋亮は起き上がってズボン貸すよとクローゼットから適当な部屋着を悠仁に投げて寄越すと、自分もクローゼットの前でラフなスウェットのズボンに履き替えている。
悠仁も受け取ったジャージのズボンに履き替えて、スーツのズボンをどうしようかとベッドに座って絋亮を見ると、預かるよと手が伸びてきた。
「ねえ、悠仁ってさ。あ、呼び捨てでいいのかな」
「別に構わないよ」
「じゃあ、悠仁。明日仕事なの?それとも休み?」
「休みだよ」
「そしたら風呂入っといでよ。今日仕事だったんだし、疲れてるよね。着替え貸すよ」
「それ泊まってけってこと?」
「俺はそっちが嬉しいかな。嫌なら帰っても大丈夫だよ。まあ、どのみちさっきのアレで、もう空気崩壊してるし」
「まあね」
二人で思い出し笑いして顔を見合わせると、自然と抱き合って啄むだけのキスを一回だけ交わす。
「出来れば湯船に浸からせてもらってもいいかな」
悠仁は泊まらせてもらうよと返して、先に風呂借りて良いのかなと、着替えの支度をする絋亮の了解を取る。
「あ、お湯張る?いいよ。はいこれ。さすがにパンツは新品だからそれはあげる」
「お気遣いどうも。風呂掃除するなら俺やるけど」
「マジで?そりゃ助かるけど」
「じゃあ決まりね」
悠仁は先に部屋を出て、立ち入り禁止のドアを避けてバスルームらしきドアを開く。
広い洗面台には小さなラックがいくつか並び、これでもかと言うほどの数が揃ったスキンケアグッズなどが整頓されて収納されている。
そしてその中には口紅などの、明らかに絋亮とは関係なさそうな化粧品の類も置かれていて、悠仁は動きを止めてついそれらを観察してしまう。
「どしたの?」
「いや、本当にきちんと整頓してると思って」
「あー正直に白状すると、油断するとゴミ屋敷みたいになるから、入れる場所決めてあるんだよね。それ以上、物を増やさないためにもね」
「へえ。潔癖な感じなのかと思った」
「違う違う。本当に面倒臭がりでダメなんだよ」
絋亮はラックからタオルや足拭きマットを取り出すと、洗面台の下からバスクリーナーとスポンジやブラシが入ったバケツを取り出した。
「掃除はザッとで大丈夫だけど、人んちって気持ち悪いだろうし、ガッツリ掃除するならこれ使って」
「ん。ありがとう」
洗濯物とスーツを片付けると言って、その場を離れた絋亮の後ろ姿を見つめながら、悠仁はこの微妙に近くなりすぎた関係性を不思議に思っていた。
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