据え膳食わぬは男の恥だが喰っていいとは言ってない!!

藜-LAI-

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11.さっきまでの空気はどこへやら

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 自宅のユニットバスと違って、たっぷりの湯を張ったバスタブで思いっきり脚を伸ばしてリラックス出来ることに感動しつつ、いつもは烏の行水の如く済ませるところ、30分ほどのんびりと入浴を楽しんで風呂を出る。
 悠仁は着替えを済ませると、洗面台には新品の歯ブラシが置かれていたので、遠慮なく使わせてもらって歯を磨いた。
「風呂ありがとう。お先」
 リビングに入ると、絋亮はソファーに座ってノートパソコンで何か作業をしているようだった。
「お。しっかり温まったみたいだね」
 手を止めて振り返った絋亮は、メガネを外してテーブルに置くと、飲み物用意するねとソファーから立ち上がる。
「気持ちよかったよ。絋亮って普段メガネなの?」
「ん?ああ、裸眼でも支障はないんだけど、パソコン使う時はね」
 グラスに炭酸水を注ぐと、ご飯どうしようかと呟いて、そばで立って待っていた悠仁に座ればいいのにと破顔して声を掛けた。
「材料あるなら俺が何か作ろうか」
「え、疲れてるでしょ、いいよ」
 ソファーに座ると、絋亮はパソコンの電源を落としてテーブルの上をザッと片付ける。
「切って炒める程度の簡単な物だけど、それで良いなら作るよ。風呂入るだろ?その間に作れる物で」
「悪いからいいよ。それに料理は得意じゃないから材料とかもほとんどないんだわ。また今度作って」
「今度って……じゃあご飯はどうする?」
 こんなシチュエーションを、いつかまた当然迎えるような絋亮の口ぶりに、悠仁は若干呆れつつも困惑して苦笑いする。
「ラーメンでも食べに行こうか」
「お前がいいなら良いよ」
「じゃあ急いで入ってくる」
「いいよ風呂くらい。ゆっくり温まれよ、寒いから」
 リビングを出ていく後ろ姿にそう声を掛けて、随分と気安い関係になったなと苦笑いが溢れる。
 昼間の出来事はまさに晴天の霹靂で、その日の夜にこうやってまた会うなんて思いもしなかったし、会ったところで他人行儀なまま終えると思っていた。
 思えば、手のくすぐり合いが、何か互いの中での距離感が狂うようなやりとりだった気がする。
 そんなことをふと思って、悠仁は一人で口角を上げると、そう言えば自分の私物はどこにやったかと、荷物を置いた辺りを探す。
「あ。あった」
 ホテルのロゴが入った紙袋には、出勤時の洋服が入っていたはずだが、それがないところを見ると、コート以外は絋亮が洗濯したのかも知れない。
 残った荷物のスリングバッグを取り出すと、中からスマホを取り出してソファーに戻り、SNSをチェックする。
 職場からの連絡がなくて一先ずホッとする。
 そしてメッセージアプリに、珍しい人物からメッセージが届いているので驚きながら画面をタップする。
 送り主はボラギノーラ・無花果こと本郷慶太郎である。
【おつー。仕事忙しいのかよ】
 慶太郎の世を偲ぶ仮の姿こと日中の仕事は、確か世界的なスポーツメーカーATHENAの日本支社でMDマーチャンダイザーをしていると聞いている。
 慶太郎が悠仁に連絡してくる時は、大抵恋人にフラれたか浮気された時だ。
(めんどくせえな……)
 慶太郎の絡み酒という酒癖の悪さを思い出して顔を顰めると、忙しいとだけ打ち込んで返信する。
 送信と同時に既読が付いたかと思うと、次の瞬間電話が鳴った。
 いつもなら電話の方が話が早いのですぐに応答するのだが、今は仮にも他人の家に居る状況だ。
 着信を切って再びメッセージアプリを開くと、電話には出られないと打つ。
 するとまたすぐに既読が付いて、揶揄うようなメッセージが返ってくる。
【あ、俺おじゃま虫かー。しっぽり楽しめ】
【それより、SNSちゃんと小まめに見とけよ】
【また近々飲み行こうな】
 最後に高校時代二人でハマったマニアックなアニメのスタンプが押されている。なにがハバナイスデーだ、イラっとする。が、笑ってしまう。
 慶太郎のこういうところが、嫌いではなくむしろ気安くてちょうどいい。だから15年以上も友人関係が続いているのだと思う。
 悠仁がまたなと短く返すと既読は付いたが、さすがにもう慶太郎からの返信はなかった。
「確かに最近ずっと飲みに行けてないもんなあ」
 呟きながら何気なくスマホを操作していると、普段は使うことがないメールが届いていることに気が付いた。
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