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1.クローゼットの密かな楽しみ
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友川悠仁は、世界有数のラグジュアリーホテルであるハイジェント・プライマルグループのアジアで唯一のホテル、ハイジェント・プライマル東京のドアマンである。
「……お疲れ、俺」
そう呟くとまるで充電が切れたように、安くて寝心地の悪いパイプベッドに倒れ込む。
同僚のフォローでイレギュラーの一日通し勤務となり、24時過ぎに最後のお客様を送り出すとようやく勤務を終えて、家に着いたのは深夜1時を過ぎてしまっていた。
「眠い……」
立地もいいし家賃も安い。学生時代からずっと住んでいるワンルームの狭い部屋。帰宅するなり着の身着のままベッドに倒れ込んで突っ伏していたのだが、あいにく明日も朝から勤務だ。
「ダメだ。風呂入らないと」
疲労ですっかり重たくなった体を引き摺るように立ち上がると、バストイレ一体型の狭いユニットバスでシャワーを浴びて頭と体を手早く洗う。
熱いシャワーを浴びながら手狭なユニットバスをボーッと眺めて、引っ越しを考えない訳ではないが、今日のように忙しく一日を終えることは何も珍しいことではない。
世界有数のホテルグループ、ハイジェント・プライマル東京のドアマンになって6年。言わずもがな仕事として求めらるのは、何処にいようとも全世界で等しく通用するトップレベルのものでなくてはならない。
気付けば同期や先輩、後輩も一人、また一人と辞めていくことが多かった。当然のように日々神経を研ぎ澄ませ、仕事に真摯に向き合うことだけで、生活はいっぱいいっぱいになる。
「好きで選んだ道だし、出来ることを精一杯するだけ……か」
蛇口を捻ってシャワーを止めると、シャワーカーテンの水気を拭き取って、洗面台に引っ掛けるように置いたバスタオルを手に取って体を拭く。
夕飯はどうしようかと少し頭を捻るが、19時ごろの休憩でサンドイッチを食べる時間があったのでそこまでお腹は空いていない。
そのまま歯磨きとフロスを済ませると、ボクサーパンツだけを履いた姿でベットに腰掛ける。
「眠気、飛んだな」
あれだけくたびれていたのに、シャワーを浴びて温まったら目が冴えてしまった。そんな自分に苦笑いを浮かべながら、悠仁は充電ケーブルに繋がれたままのタブレットを手に取り、SNSをチェックする。
本名を伏せたHaLと云う名のアカウントは、ゲイの友人などとの交流に使っている。
このところ仕事が忙しく書き込むことは出来ていないし、さすがに職場でこのアカウントにログインする勇気はない。だから自宅のタブレットでしか開かない所謂裏アカウントだ。
いや、正直に言えばこちらが表なのだが、世間体だとかそういったことに振り回されてしまって、現実世界では自分がゲイであることはオープンにできていない。
「あ。ヘドニス子さん、今日も衣装とメイクが華やかだな」
画面をスクロールさせると、見知ったドラァグクイーンのアカウントの呟きを見つける。
喰らいMAX・ヘドニス子。ふざけた名前ではあるが、その華やかにメイクアップされた姿は人気が高く、フォロワー5万人越えは伊達じゃない。
彼女は今日、イベントのショーに出演したらしく、ド派手な衣装と奇抜なメイクの写真を掲載して、本日も一人しっぽり反省会。と呟いている。
「好きなことして堂々と生きてる感じがかっこいいんだよな。つか、めちゃ美人だし」
自分には無理だけどと悠仁は苦笑いする。
彼女?との交流が始まった切っ掛けは友人の紹介に等しく、未だ会話もSNS上だけのものだ。
悠仁の悪友でドラァグクイーンのボラギノーラ・無花果として活動する——本名、本郷慶太郎。
彼は中学時代からの友人で、同じ嗜好のもの同士、会話は無くとも空気で感じ取るものがあったのか、いつの間にか仲良くなって今の今まで付き合いが続いている。
そんな慶太郎が、ヘドニス子とイベント共演した際に、悠仁となら気が合うのではないかと紹介してくれた。
ヘドニス子にはSNS上のやり取り、文面ではもちろん良くしてもらっている。慶太郎の知人という安心感も手伝って、彼女との交流は楽しく、割と包み隠さずいろいろな話をしているように思う。
それでもさすがに、仕事や住んでいる場所の話といったプライベートな会話はしていない。
「さて、ヘドさんは一人反省会か。俺も明日に備えて早く寝ないといけないし、少しだけコメント残して寝る挨拶だけでもしておくか」
ヘドニス子の呟きに、疲れたでしょうと労いの言葉を掛けつつ、今日もとても麗しいですねと、心の奥底でほんのりと抱く恋心のような気持ちを込め、おやすみなさいと悠仁はコメントを残す。
そのままアプリを閉じてタブレットの電源を落とし、アラームをセットすると、ヘドニス子からの返信が来ていることにも気付かずに、布団に潜り込んで直ぐに寝息を立て始めたのだった。
「……お疲れ、俺」
そう呟くとまるで充電が切れたように、安くて寝心地の悪いパイプベッドに倒れ込む。
同僚のフォローでイレギュラーの一日通し勤務となり、24時過ぎに最後のお客様を送り出すとようやく勤務を終えて、家に着いたのは深夜1時を過ぎてしまっていた。
「眠い……」
立地もいいし家賃も安い。学生時代からずっと住んでいるワンルームの狭い部屋。帰宅するなり着の身着のままベッドに倒れ込んで突っ伏していたのだが、あいにく明日も朝から勤務だ。
「ダメだ。風呂入らないと」
疲労ですっかり重たくなった体を引き摺るように立ち上がると、バストイレ一体型の狭いユニットバスでシャワーを浴びて頭と体を手早く洗う。
熱いシャワーを浴びながら手狭なユニットバスをボーッと眺めて、引っ越しを考えない訳ではないが、今日のように忙しく一日を終えることは何も珍しいことではない。
世界有数のホテルグループ、ハイジェント・プライマル東京のドアマンになって6年。言わずもがな仕事として求めらるのは、何処にいようとも全世界で等しく通用するトップレベルのものでなくてはならない。
気付けば同期や先輩、後輩も一人、また一人と辞めていくことが多かった。当然のように日々神経を研ぎ澄ませ、仕事に真摯に向き合うことだけで、生活はいっぱいいっぱいになる。
「好きで選んだ道だし、出来ることを精一杯するだけ……か」
蛇口を捻ってシャワーを止めると、シャワーカーテンの水気を拭き取って、洗面台に引っ掛けるように置いたバスタオルを手に取って体を拭く。
夕飯はどうしようかと少し頭を捻るが、19時ごろの休憩でサンドイッチを食べる時間があったのでそこまでお腹は空いていない。
そのまま歯磨きとフロスを済ませると、ボクサーパンツだけを履いた姿でベットに腰掛ける。
「眠気、飛んだな」
あれだけくたびれていたのに、シャワーを浴びて温まったら目が冴えてしまった。そんな自分に苦笑いを浮かべながら、悠仁は充電ケーブルに繋がれたままのタブレットを手に取り、SNSをチェックする。
本名を伏せたHaLと云う名のアカウントは、ゲイの友人などとの交流に使っている。
このところ仕事が忙しく書き込むことは出来ていないし、さすがに職場でこのアカウントにログインする勇気はない。だから自宅のタブレットでしか開かない所謂裏アカウントだ。
いや、正直に言えばこちらが表なのだが、世間体だとかそういったことに振り回されてしまって、現実世界では自分がゲイであることはオープンにできていない。
「あ。ヘドニス子さん、今日も衣装とメイクが華やかだな」
画面をスクロールさせると、見知ったドラァグクイーンのアカウントの呟きを見つける。
喰らいMAX・ヘドニス子。ふざけた名前ではあるが、その華やかにメイクアップされた姿は人気が高く、フォロワー5万人越えは伊達じゃない。
彼女は今日、イベントのショーに出演したらしく、ド派手な衣装と奇抜なメイクの写真を掲載して、本日も一人しっぽり反省会。と呟いている。
「好きなことして堂々と生きてる感じがかっこいいんだよな。つか、めちゃ美人だし」
自分には無理だけどと悠仁は苦笑いする。
彼女?との交流が始まった切っ掛けは友人の紹介に等しく、未だ会話もSNS上だけのものだ。
悠仁の悪友でドラァグクイーンのボラギノーラ・無花果として活動する——本名、本郷慶太郎。
彼は中学時代からの友人で、同じ嗜好のもの同士、会話は無くとも空気で感じ取るものがあったのか、いつの間にか仲良くなって今の今まで付き合いが続いている。
そんな慶太郎が、ヘドニス子とイベント共演した際に、悠仁となら気が合うのではないかと紹介してくれた。
ヘドニス子にはSNS上のやり取り、文面ではもちろん良くしてもらっている。慶太郎の知人という安心感も手伝って、彼女との交流は楽しく、割と包み隠さずいろいろな話をしているように思う。
それでもさすがに、仕事や住んでいる場所の話といったプライベートな会話はしていない。
「さて、ヘドさんは一人反省会か。俺も明日に備えて早く寝ないといけないし、少しだけコメント残して寝る挨拶だけでもしておくか」
ヘドニス子の呟きに、疲れたでしょうと労いの言葉を掛けつつ、今日もとても麗しいですねと、心の奥底でほんのりと抱く恋心のような気持ちを込め、おやすみなさいと悠仁はコメントを残す。
そのままアプリを閉じてタブレットの電源を落とし、アラームをセットすると、ヘドニス子からの返信が来ていることにも気付かずに、布団に潜り込んで直ぐに寝息を立て始めたのだった。
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