1 / 52
1.クローゼットの密かな楽しみ
しおりを挟む
友川悠仁は、世界有数のラグジュアリーホテルであるハイジェント・プライマルグループのアジアで唯一のホテル、ハイジェント・プライマル東京のドアマンである。
「……お疲れ、俺」
そう呟くとまるで充電が切れたように、安くて寝心地の悪いパイプベッドに倒れ込む。
同僚のフォローでイレギュラーの一日通し勤務となり、24時過ぎに最後のお客様を送り出すとようやく勤務を終えて、家に着いたのは深夜1時を過ぎてしまっていた。
「眠い……」
立地もいいし家賃も安い。学生時代からずっと住んでいるワンルームの狭い部屋。帰宅するなり着の身着のままベッドに倒れ込んで突っ伏していたのだが、あいにく明日も朝から勤務だ。
「ダメだ。風呂入らないと」
疲労ですっかり重たくなった体を引き摺るように立ち上がると、バストイレ一体型の狭いユニットバスでシャワーを浴びて頭と体を手早く洗う。
熱いシャワーを浴びながら手狭なユニットバスをボーッと眺めて、引っ越しを考えない訳ではないが、今日のように忙しく一日を終えることは何も珍しいことではない。
世界有数のホテルグループ、ハイジェント・プライマル東京のドアマンになって6年。言わずもがな仕事として求めらるのは、何処にいようとも全世界で等しく通用するトップレベルのものでなくてはならない。
気付けば同期や先輩、後輩も一人、また一人と辞めていくことが多かった。当然のように日々神経を研ぎ澄ませ、仕事に真摯に向き合うことだけで、生活はいっぱいいっぱいになる。
「好きで選んだ道だし、出来ることを精一杯するだけ……か」
蛇口を捻ってシャワーを止めると、シャワーカーテンの水気を拭き取って、洗面台に引っ掛けるように置いたバスタオルを手に取って体を拭く。
夕飯はどうしようかと少し頭を捻るが、19時ごろの休憩でサンドイッチを食べる時間があったのでそこまでお腹は空いていない。
そのまま歯磨きとフロスを済ませると、ボクサーパンツだけを履いた姿でベットに腰掛ける。
「眠気、飛んだな」
あれだけくたびれていたのに、シャワーを浴びて温まったら目が冴えてしまった。そんな自分に苦笑いを浮かべながら、悠仁は充電ケーブルに繋がれたままのタブレットを手に取り、SNSをチェックする。
本名を伏せたHaLと云う名のアカウントは、ゲイの友人などとの交流に使っている。
このところ仕事が忙しく書き込むことは出来ていないし、さすがに職場でこのアカウントにログインする勇気はない。だから自宅のタブレットでしか開かない所謂裏アカウントだ。
いや、正直に言えばこちらが表なのだが、世間体だとかそういったことに振り回されてしまって、現実世界では自分がゲイであることはオープンにできていない。
「あ。ヘドニス子さん、今日も衣装とメイクが華やかだな」
画面をスクロールさせると、見知ったドラァグクイーンのアカウントの呟きを見つける。
喰らいMAX・ヘドニス子。ふざけた名前ではあるが、その華やかにメイクアップされた姿は人気が高く、フォロワー5万人越えは伊達じゃない。
彼女は今日、イベントのショーに出演したらしく、ド派手な衣装と奇抜なメイクの写真を掲載して、本日も一人しっぽり反省会。と呟いている。
「好きなことして堂々と生きてる感じがかっこいいんだよな。つか、めちゃ美人だし」
自分には無理だけどと悠仁は苦笑いする。
彼女?との交流が始まった切っ掛けは友人の紹介に等しく、未だ会話もSNS上だけのものだ。
悠仁の悪友でドラァグクイーンのボラギノーラ・無花果として活動する——本名、本郷慶太郎。
彼は中学時代からの友人で、同じ嗜好のもの同士、会話は無くとも空気で感じ取るものがあったのか、いつの間にか仲良くなって今の今まで付き合いが続いている。
そんな慶太郎が、ヘドニス子とイベント共演した際に、悠仁となら気が合うのではないかと紹介してくれた。
ヘドニス子にはSNS上のやり取り、文面ではもちろん良くしてもらっている。慶太郎の知人という安心感も手伝って、彼女との交流は楽しく、割と包み隠さずいろいろな話をしているように思う。
それでもさすがに、仕事や住んでいる場所の話といったプライベートな会話はしていない。
「さて、ヘドさんは一人反省会か。俺も明日に備えて早く寝ないといけないし、少しだけコメント残して寝る挨拶だけでもしておくか」
ヘドニス子の呟きに、疲れたでしょうと労いの言葉を掛けつつ、今日もとても麗しいですねと、心の奥底でほんのりと抱く恋心のような気持ちを込め、おやすみなさいと悠仁はコメントを残す。
そのままアプリを閉じてタブレットの電源を落とし、アラームをセットすると、ヘドニス子からの返信が来ていることにも気付かずに、布団に潜り込んで直ぐに寝息を立て始めたのだった。
「……お疲れ、俺」
そう呟くとまるで充電が切れたように、安くて寝心地の悪いパイプベッドに倒れ込む。
同僚のフォローでイレギュラーの一日通し勤務となり、24時過ぎに最後のお客様を送り出すとようやく勤務を終えて、家に着いたのは深夜1時を過ぎてしまっていた。
「眠い……」
立地もいいし家賃も安い。学生時代からずっと住んでいるワンルームの狭い部屋。帰宅するなり着の身着のままベッドに倒れ込んで突っ伏していたのだが、あいにく明日も朝から勤務だ。
「ダメだ。風呂入らないと」
疲労ですっかり重たくなった体を引き摺るように立ち上がると、バストイレ一体型の狭いユニットバスでシャワーを浴びて頭と体を手早く洗う。
熱いシャワーを浴びながら手狭なユニットバスをボーッと眺めて、引っ越しを考えない訳ではないが、今日のように忙しく一日を終えることは何も珍しいことではない。
世界有数のホテルグループ、ハイジェント・プライマル東京のドアマンになって6年。言わずもがな仕事として求めらるのは、何処にいようとも全世界で等しく通用するトップレベルのものでなくてはならない。
気付けば同期や先輩、後輩も一人、また一人と辞めていくことが多かった。当然のように日々神経を研ぎ澄ませ、仕事に真摯に向き合うことだけで、生活はいっぱいいっぱいになる。
「好きで選んだ道だし、出来ることを精一杯するだけ……か」
蛇口を捻ってシャワーを止めると、シャワーカーテンの水気を拭き取って、洗面台に引っ掛けるように置いたバスタオルを手に取って体を拭く。
夕飯はどうしようかと少し頭を捻るが、19時ごろの休憩でサンドイッチを食べる時間があったのでそこまでお腹は空いていない。
そのまま歯磨きとフロスを済ませると、ボクサーパンツだけを履いた姿でベットに腰掛ける。
「眠気、飛んだな」
あれだけくたびれていたのに、シャワーを浴びて温まったら目が冴えてしまった。そんな自分に苦笑いを浮かべながら、悠仁は充電ケーブルに繋がれたままのタブレットを手に取り、SNSをチェックする。
本名を伏せたHaLと云う名のアカウントは、ゲイの友人などとの交流に使っている。
このところ仕事が忙しく書き込むことは出来ていないし、さすがに職場でこのアカウントにログインする勇気はない。だから自宅のタブレットでしか開かない所謂裏アカウントだ。
いや、正直に言えばこちらが表なのだが、世間体だとかそういったことに振り回されてしまって、現実世界では自分がゲイであることはオープンにできていない。
「あ。ヘドニス子さん、今日も衣装とメイクが華やかだな」
画面をスクロールさせると、見知ったドラァグクイーンのアカウントの呟きを見つける。
喰らいMAX・ヘドニス子。ふざけた名前ではあるが、その華やかにメイクアップされた姿は人気が高く、フォロワー5万人越えは伊達じゃない。
彼女は今日、イベントのショーに出演したらしく、ド派手な衣装と奇抜なメイクの写真を掲載して、本日も一人しっぽり反省会。と呟いている。
「好きなことして堂々と生きてる感じがかっこいいんだよな。つか、めちゃ美人だし」
自分には無理だけどと悠仁は苦笑いする。
彼女?との交流が始まった切っ掛けは友人の紹介に等しく、未だ会話もSNS上だけのものだ。
悠仁の悪友でドラァグクイーンのボラギノーラ・無花果として活動する——本名、本郷慶太郎。
彼は中学時代からの友人で、同じ嗜好のもの同士、会話は無くとも空気で感じ取るものがあったのか、いつの間にか仲良くなって今の今まで付き合いが続いている。
そんな慶太郎が、ヘドニス子とイベント共演した際に、悠仁となら気が合うのではないかと紹介してくれた。
ヘドニス子にはSNS上のやり取り、文面ではもちろん良くしてもらっている。慶太郎の知人という安心感も手伝って、彼女との交流は楽しく、割と包み隠さずいろいろな話をしているように思う。
それでもさすがに、仕事や住んでいる場所の話といったプライベートな会話はしていない。
「さて、ヘドさんは一人反省会か。俺も明日に備えて早く寝ないといけないし、少しだけコメント残して寝る挨拶だけでもしておくか」
ヘドニス子の呟きに、疲れたでしょうと労いの言葉を掛けつつ、今日もとても麗しいですねと、心の奥底でほんのりと抱く恋心のような気持ちを込め、おやすみなさいと悠仁はコメントを残す。
そのままアプリを閉じてタブレットの電源を落とし、アラームをセットすると、ヘドニス子からの返信が来ていることにも気付かずに、布団に潜り込んで直ぐに寝息を立て始めたのだった。
10
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
君に噛み跡を遺したい。
卵丸
BL
真面目なαの氷室 絢斗はΩなのに営業部のエースである箕輪 要が気になっていた。理由は彼の首の項には噛み跡が有るから番はいると思っていたがある日、残業していた要に絢斗は噛み跡の事を聞くと要は悲しい表情で知らないと答えて・・・・・。
心配性の真面目なαと人に頼らない実はシンママのΩのオフィスラブストーリー。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる